
患者の命に関わる可能性がある診療所の運営において、条文はさまざまな届出義務を定めています。
その中でもつい見落としがちになってしまうのが、スタッフの入退社に伴う手続き。
医師等の有資格者を採用した際に行政手続きが必要となることはご存じかと思いますが、
特に資格の必要がない事務スタッフの採用の際にも届出が必要となる場合があることは知らない方も多いのではないでしょうか。
場合によっては行政指導の対象となる可能性もありますので、漏らさず手続きを行えるよう、届出が必要となる要件を把握するのは非常に大切です。
最悪、許可の取下げの可能性も
各種届出の提出を怠った場合、行政指導の対象となりえます。
また指導があったにも関わらず、それに従わずない場合、最悪の事態として許可指定の取下げの可能性も。
その他、許可取り消しとまではいかなかったとしても、これを理由に別種の届出が受理されなくなる可能性は十分にありえますので、
法人設立や分院開設等、大きな手続きを控えている場合には、よりいっそう注意を払う必要があるといえます。
スタッフが入れ替わった際に必要となる主な届出とその届出先
スタッフが入れ替わった際に必要となる届出には、主に以下のようなものがあります。
保健所
医療法施行令第4条
開設届(法人にあっては開設許可)の届出に当たって、役職ごとの定員を定めていますので、
定員を超えるスタッフの採用があった場合には、診療所開設許可(届出)事項変更届の提出が必要となります。
この届出は事後ではなく、事前提出が求められる保健所が多い(管轄によって異なります)ので、
当初、定めた定員を超えるスタッフを採用する予定がある場合には、事前に確認するように心がけましょう。
厚生局
保険医療機関及び保険薬局の指定並びに保険医及び保険薬剤師の登録に関する省令第8条
厚生局では保険医療機関と共にそこで働かれている医師・歯科医師・薬剤師の管理も行われています。
これらのスタッフに入れ替わりがあった場合には、保険医療機関届出事項変更届の提出が必要です。
また施設基準の人的要件に含まれているスタッフに入れ替わりがあった場合には、再申請が必要となる可能性もあります。
都県庁
麻薬及び向精神薬取締法第9条
麻薬施用者または麻薬管理者として免許の交付を受けている医師・歯科医師等の方が診療所を辞めた場合、
そのスタッフによる麻薬施用者(管理者)免許証記載事項変更届の提出が必要となります。
また麻薬施用者の医師・歯科医師の方が辞めた後、引き続き麻薬の使用・購入を行うには、他の医師・歯科医師の方が免許を受ける必要があります。
免許交付には1ヶ月程度の時間がかかりますので、退職予定の麻薬施用者がいらっしゃる場合には、事前に申請を行うよう気を付ける必要があります。
都県庁
厚生労働省令第百二十一号第十九条
こちらも麻薬指定医同様、辞められたスタッフが自ら変更届を提出する必要があります。
また指定範囲の診断書を書くことが出来るのは、難病指定医に登録されている方のみですので、
辞めたのち、診療所として引き続き診断書を書く必要がある場合には、別の医師の方に指定を受けて頂く必要があります。
アルバイトや仮雇用期間のスタッフであっても届出義務が存在する?
届出義務を考えた際に気になるのが、アルバイトや仮雇用期間のスタッフの入退社について。
ある程度の入れ替わりが前提ともいえる雇用形態ではありますが、
残念ながら、該当するスタッフであればアルバイト・仮雇用問わずに上記の全てにおいて届出が必要となります。
「定員」を定める必要がある開設許可(届出)の変更に注意
スタッフの入退社に伴う届出は、特定の資格を有するスタッフの入退社に伴い届出を提出するものがほとんどですが、
唯一診療所開設許可(届出)事項変更届については、無資格者の入退社の際にも届出が必要となる可能性があります。
というのも、開設許可(個人開設の場合は開設届)には診療所従業員の定員を定める欄があり、
この定員には有資格者無資格者問わず、全ての役職が含まれるためです。
「定員」には意外な抜け道が
前述通り、開設許可(開設届)は定員を定める関係上、他と比べて広範囲のスタッフが届出の対象となりえます。
しかしこの定員、定める段階で工夫することで、かなり緩めに定めることが可能です。
というのも開設許可(開設届)で定める定員は、医療法に基づく人員配置標準とは異なり、厳格な指定があるわけではありません。
届出を行う時点で雇用しているスタッフよりも多めに定員を出しておけば、スタッフが増員した場合であっても、届出を省略することが可能です。
また定員は診療所ごとに捉え方にも差異を持たせることが可能であり、「当診療所ではアルバイトスタッフを定員に含めない」として届出を行うことで、
アルバイトスタッフの入退社の際に、届出を行わなくてもよくなる、ちょっとした抜け道もあります(なお、この場合であっても他の届出については提出を免れませんので注意が必要です)。
行政指導を避けるには、事前の確認と相談が大切
各種届出を作成・提出を自身ではなく、行政書士等に依頼して行っている場合、
定員の届出をどのように行っているか、控えだけではわからないことが往々にしてあります。
届出の提出を依頼したのであれば、その届出について、どのような要件で変更届が必要となるか事前に確認しておくのが大切です。
また自身の診療所が届出要件に抵触しているのではないかと思うのであれば、早急に管轄行政庁や行政書士に相談するよう意識するとよいでしょう。
特徴
提供サービス
対応官庁
診療科目
この記事は、2023年7月時点の情報を元に作成しています。
執筆 長後行政書士事務所 代表行政書士 日下 雄一朗
医療系事務所にて経験を積んだのち、行政書士という立場から起業家をアシストすることを目的として、許認可専門事務所である長後行政書士事務所を開設。
幅広い業種における許認可申請のほか、補助金・融資申請、法人設立といった様々な業務を取り扱う。
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