日本では、原則としてすべての国民が公的医療保険に加入することが義務付けられています。これを「国民皆保険制度 」と称し、公的医療保険を利用するには医療機関の窓口で「健康保険証」を提示する必要があります。
では、健康保険証は全員が同じものを有しているかというとそうではありません。どんな種類があるのかみていきましょう。
健康保険証は大きく3種類に分類される
健康保険証の種類は、細かく分類するとかなりの数になりますが、大きく分けると社会保険、国民健康保険、後期高齢者医療制度の3種類存在します。
社会保険
会社員、公務員、教職員およびその扶養家族が加入できる公的医療保険です。パートやアルバイトでも加入する場合があります。 「被用者保険」と呼ばれることもあります。社会保険において、保険を提供する側である「保険者」は会社や団体です。社会保険は、さらに以下の3種類に分類されます。
組合健保
大企業に勤める写真とその扶養家族が加入できる社会保険です。「組合管掌健康保険」と呼ばれることもあります。企業独自の組合健保もあれば、同業他社と共同で設立した健康保険組合によって運営されている組合健保もあります。
協会けんぽ
中小企業に勤める会社員とその扶養家族が加入できる公的医療保険です。「健康保険法」に基づいて、「全国健康保険協会」が運営しています。
共済組合
公務員や私立学校の教職員が加入できる公的医療保険です。共済組合は、共済組合などが共済各法に基づいて運営しています。共済組合は、「国家公務員共済組合」「地方公務員共済組合」「私立学校教職員共済」の3種類に分類されます。
国民健康保険
フリーランスや自営業者など、社会保険に加入していない人やその家族を対象とする公的保険です。退職後、再就職していない人や、退職後に勤め先の社会保険を任意継続しない人、年金受給者も対象となります。国民健康保険における保険者は、「市町村国保」と「国保組合」に分類されます。
市町村国保
市町村と都道府県が運営しています。各エリアに住んでいる被用者保険加入者および国保組合加入者以外の人が加入可能です。
国保組合
原則として、個人事業主、個人事業所を対象としている社会保険です。いくつかの業種向けのものがあり、たとえば開業医などが加入する「医師国保」や、文芸美術関連の業務に従事している人が加入する「文芸美術国民健康保険組合 」などがあります。
後期高齢者医療制度
原則、75歳以上のすべての人が対象の公的保険です。他の公的保険に加入していても、後期高齢者医療制度の条件に当てはまった時点で移行となります。ただし、「65歳以上75歳未満だけど寝たきりである」などの場合、任意で後期高齢者医療制度の被保険者となることも可能です。後期高齢者医療制度は、都道府県単位で設けられている広域組合が運営しています。
公的医療保険を使った場合の自己負担額は?
医療機関で公的医療保険を使った場合の自己負担額は、保険証の種類を問わず同一。具体的な割合は以下の通りです。
【被保険者(患者)の医療費の自己負担割合】
一般・低所得者 | 現役なみの所得者 | |
75歳以上 | 1割負担 | 3割負担 |
70歳以上 | 2割負担 | |
6歳以上70歳未満 | 3割負担 | |
~5歳 (義務教育就学前の6歳を含む) |
2割負担 |
ただし、1か月に支払う医療費の自己負担額が上限を超えた場合、超過分の払い戻しを受けられます。これを「高額療養費制度」といいます。上限となる金額は、年齢や所得によって異なります。
公的医療保険の保険料はどのくらい?
公的医療保険の保険料は、種類によって計算方法が異なります。
社会保険の場合
社会保険に加入している給与所得者は、毎月の給与額やボーナスの金額をベースに保険料率が決まります。社会保険の保険料は、被保険者と所属する企業や団体とで折半することになります。基本的には、被保険者の負担分は給与から天引きされます。
また、社会保険は、配偶者や子どもを被保険者に加えることが可能です。
国民健康保険の場合
国民健康保険の保険料は、年間の所得額に応じて決まります。保険料の計算方法は、市町村国保の場合、各自治体によって異なります。一方、国保組合の保険料は所得額に関係なく一律である場合がほとんどです。保険料の支払いは、市町村国保の場合、分割も可能。国保組合の場合、一年分を一括で支払います。
市町村国保の国民健康保険は、加入している被保険者のみが対象となるので、配偶者や子どもを被保険者に加えることはできませんが、国保組合の場合、扶養家族を被保険者として含めることが可能です。
後期高齢者医療制度の場合
後期高齢者医療制度の保険料率は、都道府県ごとに異なります。令和4・5年度の全国平均は月額6,472円。令和2・3年度より114円増額となっています。また、もっとも安いのは秋田県の4,097円。もっとも高いのは東京都の8,737円と2倍以上の開きとなっています。
参照:厚生労働省「後期高齢者医療制度の令和4・5年度の保険料率について」
社会保険の特徴
加入できる条件以外での社会保険の最大の特長は、サポートが手厚い点にあります。まず、加入者が病気で休業中、加入者本人および家族の生活を保障するために設けられている「傷病手当金」制度を活用できます。これは、休業によって給料が支給されなかった期間、給料の約3分の2を受け取ることができるというものです。
また、出産するために勤務先を休んだ場合も同様に、給料の約3分の2を受け取ることができます。これは、出産日以前の42日から出産翌日以降の56日までの間で、会社を休んだ期間が支給の対象となっています。
そのほか、健康保険組合によっては入院中の差額ベッドも保険対象となる場合があるなど、さらにサポートが充実していることがあります。
国民健康保険の特徴
国民健康保険には、社会保険のようなサポート制度は用意されていません。また、市町村国保の場合、所得が大きいとそのぶん保険料が高くなるため、前年と比べて所得が低くなっている年などは、保険料納付が厳しくなる場合があります。そうなった場合、業種によっては国保組合の国民健康保険が用意されているため、そちらに移行したほうが保険料を安く抑えられる場合がほとんどです。
いずれの公的医療保険にも加入していない患者が来院したらどうすればいい?
公的医療保険への加入は国民の義務ですが、未加入の国民もゼロではありません。なかには、「自分は医療機関にかかることはないから保険料を支払うと損をする」と考えている人もいます。しかし、怪我や病気はどんなに気を付けていても100%防げるものではありません。では、公的医療保険未加入の人が来院した場合、医療機関としてはどんな対応をすることになるかというと、10割負担で支払ってもらうことになります。また、日本の公的医療保険に加入していない外国人患者が来院した場合なども同様です。
マイナンバーカードと保険証の一本化は今後どうなる?
公的医療保険は種類によって見た目が違うため、以前は、提出されたものを一目見たら、患者の職業の予想がついていました。しかし、マイナンバーカードと保険証の一本化が予定通り進むと、保険者などの情報をよく見なければ患者の職業などはわからないということになります。現状は、メディアでも報道されている通り、トラブルが多発している側面はありますが、2024年秋に今の保険証を廃止させる方向で進んでいるので、電子カルテメーカーをはじめ、保険証との対応を考えることが必要なステークホルダーは随時調整を進めています。それによって、医療機関のほうでも対応が必要なことがさまざまに出てくることが予想されますので、今後の動向はしっかりと見守ってくださいね。
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2023年7月時点の情報を元に作成しています。