開業準備で発生した費用のうち、経費として認められるものは?

クリニックを開業するためには、用意しなければならないものがたくさんあります。賃貸を含めた土地・建物や診療に使う機器はもちろん、スタッフも集めなければなりませんし、よりよい条件での開業を実現するために、自分のなかに「知識」や「情報」を蓄えていくことも、大切な準備のひとつです。目に見えるものの準備にも、目に見えないものの準備にもお金がかかります。しかし、かかった費用のすべてが経費として認められるわけではありません。そうなると気になるのが、「どこからどこまでが経費として認められるの?」ということでしょう。そこで今回は、開業準備で発生した費用のうち、経費として認められる範囲について解説していきます。

目次
  1. 開業費とは?
  2. 開業費は「繰延資産」として償却できる
  3. 開業費として認められる費用例
    1. 開業に役立つ知識を得るため参加したセミナーなどの参加費
    2. 情報収集のためのクリニック見学に伴う費用
    3. 開業に関する打ち合わせときに発生した飲食費など
    4. 各所との関係を築くために必要な贈答品費、郵送費
    5. スタッフ採用のための費用
    6. 開業準備に必要な備品の購入費
    7. 開業案内および内覧会開催のためにかかる費用
  4. 開業費として認められない費用例
    1. 土地や建物賃貸料などの資産取得にかかった費用
    2. 10万円以上の固定資産
    3. 打ち合わせ時に着用するスーツなどの衣装費
    4. 領収書が残っていないもの
  5. 開業費を正しく計上するために気を付けるべきことは?
    1. 開業を決めた時点から、領収書およびレシートは基本的にすべて取っておく
    2. 領収書およびレシートの内容はわかりやすくまとめておく
    3. 証拠書類には保管義務がある
  6. 開業後に経費として計上できるものは?
    1. 設備費
    2. 人件費
    3. 福利厚生費
    4. 旅費交通 費
    5. 交際費
    6. 会議費
  7. 開業費は効率よく活用したもの勝ち!

開業費とは?

開業準備のために必要なお金を「開業費」といいます。開業費が発生する期間は、「開業を決めた日」から「開業日(=クリニックがオープンした日)」までにかかる費用です。

とはいえ、年度をまたぐと経費として申請できないのでは? と思うかもしれませんが、開業費に関しては遡って経費申請できる可能性があります。反対に、開業前の勤務医時代に、同じ領収書で経費申請することはできません 。

開業費は「繰延資産」として償却できる

クリニックの開業費は「繰延資産」として計上することができます。

繰延資産とは、本来は「費用」に分類および処理されるものの、それを支払うことによって1年以上にわたって効果を得ることができることから、一時的に「資産」として計上することが認められている費用のことです。その後、数年間にわたって償却することができるため、節税に大いに役立ちます。

開業後に数年間にわたって償却できるとなぜいいかというと、開業直後は赤字で徐々に黒字になっていく可能性などを想定すると、たとえば1年目には開業費を費用として計上せず、2年目以降に少しずつ費用として計上していくことができるからです。反対に、最初から予想以上の売上を上げることができた場合は、利益を抑えるために活用することも可能です。

【開業前に購入した場合】

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
開業費 1,200円 元入金 1,200円 文房具購入

【開業後に購入した場合】

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
事務用品費 1,200円 現金または預金 1,200円 文房具購入

開業費として認められる費用例

続いては、開業費として認められる費用例をピックアップしていきます。

開業に役立つ知識を得るため参加したセミナーなどの参加費

開業に役立つ知識を得る目的で参加したセミナーや勉強会の参加費は、開業費として認められます。受講費はもちろん、会場までの往復交通費、宿泊が必要な場合の宿泊費、開業に関する情報交換目的で参加するセミナー終了後の交流会参加費まで、すべて含まれます。まあ、オンラインでの参加の場合も同様に、受講料が開業費とみなされます。

情報収集のためのクリニック見学に伴う費用

開業前には、先輩方のクリニックを見学して勉強をする場合が多いです。見学に伴う費用には、先方のクリニックまでの往復交通費のほか、先方への手土産代などが該当します。

開業に関する打ち合わせときに発生した飲食費など

コンサルや税理士、ホームページ制作業者など、開業に伴いさまざまな業者と付き合うことになりますが、各業者との打ち合わせのために発生した飲食費なども、開業費として認められます。打ち合わせ場所までの往復交通費も同様です。

ただし、本当に関係各所との打ち合わせなどのための食事であったのかどうかに関して、税務署は厳しく目を光らせています。実際に打ち合わせなどが目的だったことを証明するには、レシートに、そのとき一緒だった人物の名前や会社名をメモしておくことが役立ちます。メモがあれば、特定の領収書の飲食に関して税務署から詳細を尋ねられたとき、どの打ち合わせのものであるのかをすぐに思い出すことができます。メモは手書きで構いません。

また、たとえばレシートの明細にお子様ランチなどが入っていたことで、家族との食事のレシートであることがバレて開業費と認められないといったケースもあるので十分注意しましょう。

各所との関係を築くために必要な贈答品費、郵送費

スムーズな開業のためには、コネなどを意識して立ち回ることも時として必要です。「コネ」というと聞こえがよくないかもしれませんが、各所へきちんと挨拶することで、開業後もいい印象を持たれやすいのは事実です。そのため、お礼状やお礼の品、贈答品などは「贈ることが礼儀」ととらえて積極的に活用するといいでしょう。

もちろん、贈答品もお礼状も、それらを送るための配送料や郵送費もすべて開業費として認められます。お歳暮やお中元も、開業前であればこれに含まれます 。

スタッフ採用のための費用

受付事務や看護師、医師などのスタッフ採用にかかる費用も開業費として認められます。

開業準備に必要な備品の購入費

開業準備に必要なパソコンやiPadなどの端末購入費、開業に伴う情報収集に使うノートや文房具類の購入費用なども、開業費として認められます。求人広告費、採用面接時に支給した交通費、開業前研修費、制服およびシューズ、名札、従業員用ロッカーまで含まれます。ただし、後述しますが、ロッカーなどの大型の設備消耗品を購入する場合、10万円以上だと開業費として認められないため注意が必要です。

開業案内および内覧会開催のためにかかる費用

開業案内や内覧会案内のチラシやハガキの制作費およびそれらの郵送費、内覧会で配布する販促物の制作費、開業前に近隣に配る贈答品費、内覧会を手伝うスタッフや業者のために用意する飲み物・弁当代など、開業案内および内覧会開催のために必要な費用も開業費として認められます。

開業費として認められない費用例

続いては、開業費として認められない費用例です。

土地や建物賃貸料などの資産取得にかかった費用

資産取得に伴う費用は、事業における資産です。資産取得に伴う費用は、開業費として認められていません。資産取得にかかる費用としては、そのほか、材料や販売する商品の仕入れ代金、水道光熱費、スタッフの給料などがあります。

10万円以上の固定資産

原則として、10万円を超える設備消耗品は「資産」として計上されるため、開業費に含むことができません。ちなみに、応接セットやパソコンなどの高額な有形固定資産は減価償却しなければならず、資産ごとに定められている法定耐用年数に応じて経費計上する必要があります。

打ち合わせ時に着用するスーツなどの衣装費

関係各所との打ち合わせ時に着用するスーツ代が開業費に含まれるのかどうかは、気になる人は多いでしょう。結論からいうと、残念ながら開業費として認められることはありませんし、開業後に通常の経費として認められることもありません。スーツ代を経費として計上できるのは、業務の遂行に不可欠であった場合のみとされています。

領収書が残っていないもの

領収書および明細書が残っていないものに関しては、いつ購入して支払ったか確認できないため、開業費として認められません。なぜかというと、開業に伴う支出であるかどうか判断できないためです。

開業費を正しく計上するために気を付けるべきことは?

開業費を正しく計上するためには、上記の費用例を参考にきちんと仕訳する必要があります。またそのほか、下記の点についても気を付ける必要があります。

開業を決めた時点から、領収書およびレシートは基本的にすべて取っておく

領収書やレシートは、開業を決めた時点からすべて取っておくことが望ましいといえます。前述の通り、領収書やレシートには、誰と何のために遭っていたのかをメモを残しておくことが大切です。クリニック名が決まる前に発生した領収書の宛名は、医師の個人名で問題ありません。但し書きは具体的である必要がありますが、詳細を記す必要はなく、たとえば「飲食代」などで構いません。

また、設備消耗品の総額が10万円を超えるものの、単品だと10万円を超えていない場合は、内訳がわかるようにレシートも添えて保管することが大切です。また、30万円以上のものは減価償却資産として計上することになるため 、総額が30万円を超えた場合も、内訳がわかるようにレシートを保管しておくことが必要です。

領収書およびレシートの内容はわかりやすくまとめておく

領収書およびレシートは、ただ取っておくだけでなく、内容が一覧でわかるよう、エクセルやスプレッドシートにまとめておくことが理想です。なぜかというと、税理士などに相談する際もスムーズですし、一覧表があればなにより開業費の信頼度が高くなります。

証拠書類には保管義務がある

開業費の証拠書類は、個人開業医としての開業であれば7年間、法人としての開業であれば10年間保管することが、税務上、義務付けられています。求められたときにスムーズに提示することができるよう、支出年月別に区分するなどしてファイリングしておくといいでしょう。

開業後に経費として計上できるものは?

開業費は開業後には計上できないとなると、できるだけ開業前に必要なものを買いそろえたいと考えるかもしれません。しかし、開業後にクリニックを運営するために支払いが必要だった経費に関しては、必要経費として計上することができるので、開業前に慌てて買いそろえる必要はありません。具体的には以下の費用などは
経費として計上可能です。

設備費

土地・建物に関する費用のほか、医療機器の整備および修繕にあたって発生する費用、必要機器のリース代、有形・無形問わず固定資産の減価償却費がこれに含まれます。

人件費

スタッフの給与・賞与のほか、社会保険料などもこれに該当します。社会保険料は、スタッフの給与・賞与などの15~20%程度となります。

福利厚生費

スタッフを雇ううえで発生する費用としては、人件費のほかに福利厚生費があります。病院会計準則では、福利厚生費に関して次のように定められています。

  • 福利施設負担額、厚生費など従業員の福利厚生のために要する法定外福利費
  • (ア) 看護宿舎、食堂、売店など福利施設を利用する場合における事業主負担額
    (イ) 診療、健康診断などをおこなった場合の減免額、その他衛生、保健、慰安、修養、教育訓練などに要する費用、団体生命保険料及び慶弔に際して一定の基準により支給される金品などの現物給与
    ※ただし、金額の大きいものについては、独立の科目を設ける

    参照:厚生労働省「病院会計準則の改正について」PDF44枚目より一部抜粋

    旅費交通 費

    学会参加などに伴う移動費および宿泊費は、出張費として計上することができます。ただし、院長の家族が同伴する場合、家族のぶんの交通費や宿泊費は経費として計上できません。

    交際費

    近隣のクリニックをはじめとする関係者の接待を目的とした食事会などの交際費は、経費として計上可能です。ただし、業務に役立つ情報交換などを目的に開催された食事会である必要があります。また、関係者の慶弔 などに必要な費用もこれに含まれます。

    会議費

    関係各所との打ち合わせやミーティングに要した費用は会議費として計上します。貸会議室のレンタル料や、会議の際に出すお茶やお菓子がこれに含まれます。

    そのほか、広告宣伝費、消耗品費、消耗器具備品費、水道光熱費なども経費として計上可能です 。また、振込手数料などの微細な金額に関しても、「雑費」などとして計上することが可能です 。

    開業費は効率よく活用したもの勝ち!

    本記事で説明した鶏、開業費は開業後に減価償却費として計上していくものですが、毎年固定の金額で計上しなければならないというわけではありません。たとえば、開業費として100万円使ったとして、開業年度にその100万円を資産として会計処理した後、2年目の開業費償却は20万円、3年目の開業費償却は80万円とすることが可能です。そのため、クリニックが軌道に乗り始めるタイミングを見計らいながら調整することができる、非常に有能な資産であるといえます。既に開業済のドクターにとってはあまり有益な情報ではないかもしれませんが、これから開業する意思のある後輩に教えてあげられる機会などがあれば、ぜひ情報をシェアしてあげてくださいね。

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    対象規模

    無床クリニック向け 在宅向け

    オプション機能

    オンライン診療 予約システム モバイル端末 タブレット対応 WEB予約

    提供形態

    サービス クラウド SaaS 分離型

    診療科目

    内科、精神科、神経科、神経内科、呼吸器科、消化器科、、循環器科、小児科、外科、整形外科、形成外科、美容外科、脳神経外科、呼吸器外科、心臓血管科、小児外科、皮膚泌尿器科、皮膚科、泌尿器科、性病科、肛門科、産婦人科、産科、婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、気管食道科、放射線科、麻酔科、心療内科、アレルギー科、リウマチ科、リハビリテーション科、、、、