
求職者が就職先・転職先を選ぶ際には、求人票をもとに、給与や労働時間、休日・休暇などの働く条件を隅々までチェックします。
休暇に関しては、有給休暇の有無および条件も求職者にとっては気になるところですが、実際のところ、クリニックで働く看護師は有給をどのくらい消化しているのでしょうか? 早速みていきましょう。
有給休暇とは
有給休暇(年次有給休暇)とは、一定期間以上継続して勤務している労働者に対してゆとりのある生活を保障するために、心身の疲労を回復させる時間に充てられるよう付与される休暇のことです。“有給”休暇という名前の通り、スタッフが有給休暇を取得しても、取得した日の給料は、出社した場合と同様に支払う必要があります。
ただし、有給休暇をすべての労働者に付与する必要はありません。
有給休暇が付与されるためには、以下の2つの要件を満たしている必要があります。
- 雇い入れの日から6か月経過していること
- その期間の全労働日の8割以上出勤していること
上記2点を満たしている場合、週所定の労働時間が30時間以上、所定労働日数が週5日以上の労働者、または1年間の所定労働日数が217日以上の労働者には、労働日10日分の有給休暇を付与する必要があります。
また、最初に有給休暇を付与した日から1年を経過した日に、「2.」と同様の要件(最初の年次有給休暇が付与されてから1年間の全労働日の8割以上出勤している)を満たしていれば、労働日11日分の有給休暇を付与することになります。
それより長く継続して勤務している場合、付与すべき有給休暇の日数はさらに増えます。
【一般の労働者に付与される有給休暇の日数】
雇い入れの日から起算した勤続期間 | 付与される有給休暇の日数 |
6か月 | 10労働日 |
1年6か月 | 11労働日 |
2年6か月 | 12労働日 |
3年6か月 | 14労働日 |
4年6か月 | 16労働日 |
5年6か月 | 18労働日 |
6年6か月以上 | 20労働日 |
所定労働時間が週5日未満もしくは1年間の所定労働日数が217日未満となるパートタイム労働者に関しては、有給休暇は付与しなくてはならないされるものの、付与が必要なされる日数はが少なくなります。具体的に付与すべきされる日数は以下の通りです。
【パートタイム労働者などに付与される有給休暇の日数】
週所定労働日数 | 1年間の所定労総日数 | 雇い入れ日から起算した勤続期間(単位:年) | ||||||
0.5 | 1.5 | 2.5 | 3.5 | 4.5 | 5.5 | 6.5以上 | ||
4日 | 169~216日 | 7 | 8 | 9 | 10 | 12 | 13 | 15 |
3日 | 121~168日 | 5 | 6 | 6 | 8 | 9 | 10 | 11 |
2日 | 73~120日 | 3 | 4 | 4 | 5 | 6 | 6 | 7 |
1日 | 48~72日 | 1 | 2 | 2 | 2 | 3 | 3 | 3 |
また、有給休暇のタイミングに関しては、労働者の要望に従うことが基本ですが、労働者が希望するタイミングで有給休暇を付与することが事業の正常な運営を妨げることになる場合、タイミングをずらすことは認められます。
参照:厚生労働省「年次有給休暇とはどのような制度ですか。パートタイム労働者でも有給があると聞きましたが、本当ですか」
有給休暇の時効は?
付与すべきされる有給休暇の日数は上記の通り決まっていますが、この休暇は、労働者は、これを貯めておいて、3年分をまとめて使えるなどというものではなく、時効が2年と決まっています。
これは、労働基準法第115条において決められていることなので、この期間を過ぎたぶんに関しては、労働者から請求があっても応じる必要はありません。
参照:厚生労働省「年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています」
参照:労働基準法
常勤からパート、もしくはパートから常勤に変わる場合の有給休暇の日数はどうなる?
続いては、雇用形態が常勤からパート、もしくはパートから常勤に変わる場合の考え方について説明します。
労働者の有給休暇取得の権利は、前述の通り、6か月継続勤務した時点で発生します。6か月が経過した日を「基準日」といいますが、雇用形態が変わった場合の有給休暇の付与日数は、変更した直後の基準日の所定労働日数によって決まります。
たとえば、パートとして入社したスタッフがその後、常勤として雇用されることとなり、基準日には常勤スタッフだった場合、10労働日分の有給休暇が付与されることになります。
では、有給休暇の発生用件である「継続勤務年数」に関してはどう考えればいいかというと、途中から雇用形態が変わったとしても、継続勤務年数のカウント開始日は最初に雇い入れた日となります。
たとえば、パートとして入社して1年後に常勤となったスタッフが、その後、2年間継続勤務した場合、継続勤務年数は3年ということになります。
シフト制などで、1週間の所定労働日数や労働時間が定まっていない場合の考え方は?
シフト制などにより、1週間の所定動労日数や労働時間が定まっていない場合、「過去6か月分の労働日数の実績を2倍にしたものを、1年間の所定労働日数とみなす」という考え方もあります。
必ずしもこの方法を適用しなければならないというわけではありませんが、シフト制のスタッフが多い場合などは、この方法を適用させると決めておけば、有給休暇の日数をどのように決めたらいいだろうかと迷うことがないでしょう。
看護師の有給休暇取得率は?
付与される有給休暇の日数は前述の通り法律で定められていますが、付与された日数の全日を取得しなければならないということではありません。
では、実際のところ、医療機関で働いている看護師の有給休暇取得率はどのくらいかというと、日本看護協会が公表している「2023病院看護実態調査」の結果では、下表の通り、2022年度における看護師の有給休暇取得率は平均すると67.7%であることがわかっています。
ちなみに、これはクリニック勤務の看護師のみを対象としたものではなく、医療機関全体での結果ですが、クリニック単独の場合も大差はないものと考えられます。
10%未満 | 0.9% |
10~20%未満 | 1.8% |
20~30%未満 | 2.4% |
30~40%未満 | 4.6% |
40~50%未満 | 9.3% |
50~60%未満 | 13.2% |
60~70%未満 | 16.1% |
70~80%未満 | 16.7% |
80~90%未満 | 15.2% |
90%以上 | 16.0% |
無回答・不明 | 3.5% |
計 | 100.0% |
有給休暇取得の義務化とは?
「2023病院看護実態調査」の結果から、看護師の有給休暇取得率は、100%とはいかないまでもかなり高めであることがわかります。
同じ調査の5年前の調査にあたる、「2018病院看護実態調査」の結果を見ると、2017年度の有給休暇取得率の割合がもっとも高いのは「50~60%未満」の14.5%で、ついで「40~50%未満」の13.4%、「60~70%未満」の12.4%と、「2023病院看護実態調査」の結果に比べて全体的に低めとなっています。
10%未満 | 1.7% |
10~20%未満 | 3.7% |
20~30%未満 | 5.3% |
30~40%未満 | 10.1% |
40~50%未満 | 13.4% |
50~60%未満 | 14.5% |
60~70%未満 | 12.4% |
70~80%未満 | 11.8% |
80~90%未満 | 9.7% |
90%以上 | 8.3% |
無回答・不明 | 9.1% |
計 | 100.0% |
なぜこのような差があるかというと、「働き方改革」によって、2019年4月から、有給休暇の取得が義務化されたためです。ただし、全日の取得ではなく、「条件を満たした従業員には、年5日の有給休暇を取得させなければならない」と定められています。これに違反した場合の罰則も設けられています。
具体的には、年5日の年次有給休暇を取得させなかった場合は30万円以下の罰金、使用者による時季指定をおこなう場合において就業規則に記載していない場合は30万円以下の罰金、労働者の請求する時季に所定の年次有給休暇を与えなかった場合は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金と定められています。
参照:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」2019年4月施行
有給休暇をきちんと取得してもらうことのメリットは?
有給休暇取得は労働者の権利ですが、雇用する側は、「人手が足りなくて困る」と思ってしまうこともあるかもしれません。しかし、スタッフにきちんと有給を取得してもらうことで生まれるメリットは大きいです。
スタッフが働くモチベーションをキープしやすい
まず挙げられるメリットは、スタッフが働くモチベーションをキープしやすいということです。日々、仕事に追われていると、心身ともに疲労が蓄積されて、ある日突然、「もう働きたくない」と働く意欲が失われてしまうこともあります。
一方、有給を活用することで必要なタイミングで心身を休めることができれば、「あしたからもまたがんばろう!」と思えます。
求職者から選ばれやすくなる
年次有給休暇取得の義務化によって定められている「年5日」より多くの有給を取得させているなら、そのことを求職票に記すなどしてアピールすれば、求職者から選ばれやすくなる可能性が高いといえます。
「勤務していない日に働く金額が増えると損をする」と考えてしまうかもしれませんが、求職者から選ばれやすくなるだけでなく、離職者が減るなどの副次効果も考えられるため、採用にかかる費用の削減につながり、結果的に大幅なプラスになる可能性も高いといえるでしょう。
有給休暇をきちんと取得させていない場合のデメリットは?
反対に、有給休暇をきちんと取得させていない場合、どんなデメリットがあるのかをみていきましょう。
懲役刑もしくは罰金が科せられる
前述の通り、年5日の年次有給休暇を取得させなかった場合や、使用者による時季指定をおこなう場合において就業規則に記載していない場合、または労働者の請求する時季に所定の年次有給休暇を与えなかった場合には懲役刑または罰金が科せられます。
スタッフの士気が下がる
休みなく働き続けたスタッフの士気が下がり、覇気がなくなると同時に、そうしたスタッフの姿を目の当たりにした患者から、「あのクリニックで働いているスタッフはみんな疲れが溜まっているけど、ブラック企業なのでは?」という印象をもたれます。
さらに、気力が落ちているスタッフがミスをしようものなら、「スタッフが疲れていてミスをしがちで安心できません」などの悪いコメントを書き込まれる可能性も。
求職者から選ばれにくくなる
有給を取得しにくいなどのネガティブな噂は、どこからともなく広まるものです。なぜかというと、労働環境が悪いと、そのことにストレスを抱えている人は、必ず周囲に愚痴をこぼすからです。
噂が広がり、多くの人に、有給がとりにくいという事実が知れ渡ると、みるまに求職者から選ばれにくくなります。
スタッフの有給休暇に関する希望を叶えるためには
有給休暇取得のタイミングや日数などに関してスタッフから希望が上がっても、クリニックの運営状況などによっては応えられない場合があるかもしれません。しかし、できる限り希望を叶えてあげられるよう、クリニック側でも工夫することはとても大切です。
たとえば、急に希望を出されてもすぐに応えるのが難しいなら、「有給休暇の希望は●日前までに出しましょう」などと通達しておくことや、急に誰かが欠勤となっても問題なく業務を回せるようなシフトを考えることなど、できることはいくつかあります。
自院に何ができるかを考えることは、全員にとってより働きやすい環境の実現につながるはずですよ。
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2024年6月時点の情報を元に作成しています。
執筆 CLIUS(クリアス )
クラウド型電子カルテCLIUS(クリアス)を2018年より提供。
機器連携、検体検査連携はクラウド型電子カルテでトップクラス。最小限のコスト(初期費用0円〜)で効率的なカルテ運用・診療の実現を目指している。
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