
地域医療を支える役割を担っているクリニックにとって、次世代へ事業をつないでいくことは大きな課題です。ゆくゆくは自分の子どもが継いでくれる予定であるなら、後継者探しに時間をかける必要はありませんが、医療業界の後継者不足が深刻化している昨今、後継者選びに難航するクリニックが増えています。そこで今回は、クリニックの事業承継を成功させるためにはどんなことが必要なのかを考えていきたいと思います。
医療業界の後継者不在率は61.8%
まずは、医療業界においてどのくらい後継者が不足しているのかを確認していきます。帝国データバンクの公表によると、2024年の「業種別 後継者不在率調査」において、医療業の後継者不在率は61.8%という結果が出ています。不在率が60%台であるのは、医療業をはじめとする上位5業種のみで、全業種平均は52.1%であることから、医療業界の後継者がいかに不足しているかがわかります。
なお、この調査結果には、「まだ開業したばかりで後継者について考え始めていない」などのケースも含まれているため、「探しているけど見つからない」というケースのみに絞ると数値に変化はありそうですが、平均より高い数値であることは間違いないといえます。
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クリニックの事業承継の方法は?
クリニックの事業承継の方法は、大きく次の3種類にわけられます 。
それぞれの方法を詳しく解説していきます。
親族間承継
親族間承継とは、院長の子どもや妻、兄弟をはじめとする親族に事業承継する方法です。従来は事業承継といえば親族間承継が基本でしたが、昨今は、親と同じ職業を選ばない人も増えていますし、少子高齢化によってそもそも継いでくれそうな身内がいないというケースも増えています。
メリット:理念や文化の継承がスムーズ、患者やスタッフの心理的負担が少ない、手続きが比較的簡素
デメリット: 後継者候補がいない場合が多い、後継者の育成に時間がかかる、相続税・贈与税が発生する
親族外承継
親族外承継は、親族以外の役員や従業員に後継者となってもらう方法です。次に解説する第三者への譲渡とは異なり、相手がどんな人物で経営に対してどんな考えを持っているのかなどを理解できているぶん、承継がスムーズに進む可能性が高いといえます。
メリット:既存のスタッフが引き継ぐため、業務の連続性が保たれる、患者からの受け入れも比較的スムーズ
デメリット:後継者候補の育成が必要、資金調達の課題、親族間より税務が複雑になる可能性がある
第三者への譲渡(M&A)
第三者への譲渡は、事業の資本移動を伴う売買や統合を意味する「M&A」をおこなうことで成立します。M&Aをおこなう場合、後継者候補は仲介業者から紹介してもらうことになります。ただしもちろん、売り手と買い手の双方が合意することなしには譲渡にはいたりません。
メリット:短期間で承継が実現しやすい、まとまった資金を得られる、後継者候補の選択肢が広がる
デメリット::秘密保持が重要、条件交渉の難しさがある、患者やスタッフへの影響を慎重に配慮する必要がある
事業承継に課せられる税金とは ?
事業承継は、「贈与」「相続」「譲渡」のいずれかの手段によっておこなわれますが、選択した手段によって、事業承継にかかる税金が異なってきます。
事業承継の手段 | 事業承継に課せられる税金 |
贈与 | 贈与税 |
相続 | 相続税 |
譲渡 | 所得税 |
贈与税
事業承継の手段として「贈与」を選んだ場合、後継者に対して 贈与税が課せられます。なお、贈与を選択するのは、一般的には、親族内承継もしくは親族外承継であるケースとなるでしょう。
贈与する側が60歳以上の父母または祖父母で、贈与する側が18歳以上の子または孫などの場合に選択席できる「相続時精算課税制度 」の適用外であった場合、「暦年課税制度」が適用されて、年ごとに贈与された財産に対して課税されることとなります。
贈与された財産は、「特例贈与財産」「一般贈与財産」の2種類にわけられ、種類によって税率や控除額が異なります。「特例贈与財産」とは、父母・祖父母など、自分より前の直系親族である「直系尊属」からその年の1月1日時点で18歳以上の人へ贈与された財産を指します。「一般贈与財産」とは、特例贈与財産の条件を満たさない贈与財産のことを指します。つまり、こちらは親族外承継の場合に適応となることとなります。
特別贈与財産の税率および控除額
課税価格(基礎控除後) | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | - |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
一般贈与財産の税率および控除額
課税価格(基礎控除後) | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | - |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 25% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
相続税
事業承継の手段として「相続」を選んだ場合、後継者に対して相続税が課せられます。相続税には、金額が増加するにつれて税率が上がる累進課税が適用されています。
相続税の税率および控除額
法定相続分に応じた取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
贈与税と相続税は「事業承継税制」が適応となる場合がある
上記に解説した贈与税と相続税は「事業承継税制」が適用される場合があります。事業承継税制とは、円滑化法の認定を受けた後継者が、青色申告に係る一定の事業をおこなっていた贈与者から、その事業に係る一定の資産を平成31年1月1日から令和10年12月31日までの贈与・相続等により取得した場合において、その資産に係る贈与税・相続税について、一定の要件のもと、納税を猶予される制度です。また、後継者が死亡した場合などは、納税が猶予されている税額の納付が免除されます。
相続時精算課税と事業承継税制は併用可能!
先に解説した相続時精算課税と事業承継税制は併用可能です。そのため、両方の制度をうまく活用すれば、納める税金を大幅に減らせる可能性もあります。
所得税
事業承継の手段として「譲渡」を選び、M&Aによって売却した場合、売り手側が株式を売却することによって得た所得(=譲渡所得)に対して、所得税が課税されます。非上場株式を譲渡した場合、譲渡所得の計算方法は「譲渡収入-(取得費+譲渡費)=譲渡所得」となり、「課税譲渡所得×20%(所得税15%と住民税5%)=所得税」の金額が課されることになります。
親族内承継、親族外承継の場合は後継者に、M&Aの場合は売却する側に税金の負担がかかる
ここまでの解説でわかる通り、親族内承継、親族外承継の場合は後継者に税金が発生する一方、第三者による事業承継の場合、事業を譲渡する側に税金の負担が生じるということになります。
しかしいずれの場合も、税金対策を考えることが必須であることには変わりありません。前者の場合、「税金の負担が大きいから引き継ぎたくない」と身内や役員が考える可能性がありますし、後者の場合、ダイレクトに自分の負担が大きくなるためです。
そのため、いずれの手段で事業承継する場合も、専門家に相談しながら手続きを進めていくことが大切であるといえます。
個人事業主のクリニックと医療法人で異なる税務のポイント
事業承継における税金は、クリニックが個人事業主に運営されているか、医療法人として運営されているかによって、その課税対象や税の種類が大きく異なります。
個人事業の場合
主に所得税(譲渡の場合)、贈与税、相続税が問題となります。特に、クリニックの土地・建物、医療機器、借入金などが個人資産として扱われるため、これらの評価額が税額に大きく影響します。また、従業員の引き継ぎや事業用の負債の扱いに注意が必要です。
医療法人の場合
持分あり医療法人と持分なし医療法人で税務上の取り扱いが異なります。
持分あり医療法人の場合
出資持分が相続税・贈与税の対象となり、評価額が高額になるケースが多いため、事業承継税制の活用が特に重要です。
持分なし医療法人の場合
出資持分がないため、承継時に課税される税金は基本的にありませんが、役員の交代や役員報酬の設定、役員退職金などに注意が必要です。
いずれのケースも、複雑な税制が絡むため、専門家への相談は必須です。
親族内承継・親族外承継の流れは ?
続いては、親族内承継・親族外承継の流れを解説します。親族外承継・親族外承継は、次のステップを踏みながら事業承継を進めていきます。
①事業承継時期の決定
②承継に関して相談できる専門家を探す
③資産と経営状況の把握
④経営方針や診療科などの決定
⑤承継計画の策定
⑥承継の実施
⑦許認可の再取得・各種届出の提出
事業承継時期の決定
親族内承継または親族外承継で承継してくれる人が見つかっているなら、お互いに話し合って承継時期を決めることからスタートします。
承継に関して相談できる専門家を探す
前述の通り、親族内承継または親族外承継の場合、相続税や贈与税が生じるため、手続きを開始する前に、まずは税務などに関して相談できる専門家を探すことが大切です。
資産と経営状況の把握
専門家のサポートを受けながら、クリニックの資産および経営状況を確認していきます。
経営方針や診療科などの決定
現在の経営方針や診療科などを引き継ぐのか、もしくは事業承継を機に変更するのかなどをお互いに話し合って決定していきます。その際、どんな選択をすれば地域医療に貢献できるのか、患者のニーズに応えられるのかについても目を向けることが大切です。
承継計画の策定
「事業承継計画書」を作成して、承継計画について明確にしていきます。事業承継計画書には、現状の資産と経営状況に加えて、今後の予測、利益や売り上げなどの具体的な数値目標、目標を達成するための課題などを盛り込みま す。
承継の実施
事業承継の最終段階です。具体的には、経営権の移行、資産の名義変更、従業員の雇用契約の再確認など、実務的な手続きを進めます。この際、患者への告知のタイミングや方法も重要な検討事項となります。承継後も円滑な運営が継続できるよう、現院長と新院長で密接に連携を取りながら進めることが不可欠です。
許認可の再取得・各種届出の提出
後継者が事業をはじめるためには、許認可を再取得することや、行政に対して各種届出を提出することが必要です。
第三者への承継の流れは ?
第三者に承継する場合の流れは次の通りです。
①専門家に相談
②機密保持契約・アドバイザリー契約の締結
③各種資料の提出
④クリニックの価値評価の実施
⑤ノンネーム登録
⑥譲受先との面談
⑦基本合意
⑧買収監査(デューデリジェンス)の実施
⑨最終合意
⑩許認可の再取得・各種届出の提出
専門家に相談
M&Aには、法務・財務・税務などの専門的知識が不可欠です。そのため、まずは専門家に相談することが大切です。M&Aを検討している売り手と買い手の間に立って、交渉や手続きをサポートしてくれる仲介業者などに相談すれば、相談後にそのまま仲介業務を依頼することもできます。また、詳しくは後述しますが、そのほかに士業事務所なども相談に乗ってくれます。
機密保持契約・アドバイザリー契約の締結
信頼できる専門家が見つかったら、機密保持契約およびアドバイザリー契約を締結します。
各種資料の提出
クリニックの概要、財務資料、事業関連資料、人事労務関連資料、契約関連資料などを仲介業者に提出します。
クリニックの価値評価の実施
クリニックの価値評価を実施して、売却価格を決定します。
ノンネーム登録
クリニックが特定されない範囲の情報をまとめた「ノンネームシート」や、クリニックの企業概要書などの資料を作成します。これらの資料は、M&Aアドバイザリーが譲受先にクリニックを紹介する際に使用します。
譲受先との面談
譲受先と面談をおこないます。その際、譲受先側はクリニックを内見します。お互いに不安点があれば質疑応答によって不安点の解消を目指します。
基本合意
M&Aを進める譲受先が決定したら、基本合意書を締結します。基本合意書では、これまでの条件を整理して、譲渡価格や譲渡スケジュールなどを定めます。
買収監査(デューデリジェンス)の実施
基本合意書締結後は、クリニックの財務情報の数字に間違いがないかなどが、買収監査(デューデリジェンス)によって確かめられることになります。ただし、クリニックが小規模である場合など、買収監査を実施しないこともあります。
最終合意
最終的な譲渡対価などが決定となり、対価が支払われます。
許認可の再取得・各種届出の提出
後継者が事業をはじめるためには、許認可を再取得することや、行政に対して各種届出を提出することが必要です。
クリニック承継の際に必要な行政手続きは?
前述の通り、親族内承継、親族外承継、第三者承継問わず、承継実施後には行政手続きが必要になります。具体的にどのような手続きが必要かというと次の通りです。
第三者承継の場合―譲渡する側の手続き
申請内容 | 申請先 | 必要書類 |
保険医療機関廃止届 | 厚生局 | ・保険医療機関届 ・保険薬局(廃止、休止、再開)届 ・保険医療機関または保険薬局の指定通知書 |
保健所廃止届 | 保健所 | ・診療所廃止(休止、再開)届 ・開設者の本人確認ができる書類(運転免許証など) |
廃業届 | 税務署 | ・個人事業の開業 ・廃業などの届出書 |
第三者承継の場合―譲渡される側の手続き
申請内容 | 申請先 | 必要書類 |
保険医療機関廃止届 | 厚生局 | ・保険医療機関届 ・保険薬局指定申請書 ・開設者、管理者、保険医の免許証写し ・周辺図 ・平面図 など |
開設届 | 保健所 | ・開設届 ・案内図、平面図 ・医師免許証の原本と写し など |
労災保険指定医療機関指定申請 | 労働局 | ・労災保険指定医療機関指定申請書 ・病院(診療所)施設等概要書 ・開設許可証 ・知事届出事項に係る届出書の写し ・その他労災診療費の算定に際して必要事項が記載されている書類 など |
医療法人の承継の場合の手続き
申請内容 | 申請先 | 必要書類 |
医療法人変更登記申請書 (理事長変更登記) |
法務局 | ・医療法人変更登記申請書 ・理事会議事録 ・社員総会議事録 ・辞任届(旧理事長) ・就任承諾書(新理事長) ・印鑑証明書 ・新理事長医師免許証写し |
役員変更届 | 都道府県 | ・医療法人役員変更届 ・印鑑証明書 ・辞任届(旧理事長) ・就任承諾書(新理事長) ・社員総会議事録 ・理事会議事録 ・新理事長の医師免許証写し |
保険医療機関届出事項変更届 | 保健所 | ・保険医療機関 ・保険薬局届出事項変更(異動)届 ・保険医登録票写し ・役員変更届写し ・保険医療機関指定通知書の原本 |
親族内承継・親族外承継の場合の手続き
申請内容 | 申請先 | 必要書類 |
廃業届(前院長) | 税務署 | ・個人事業の開業 ・廃業等の届出書 |
保険医療機関廃止届(前院長) | 厚生局 | ・保険医療機関・保険薬局(廃止、休止、再開)届 ・保険医療機関または保険薬局の指定通知書 |
保健所廃止届(前院長) | 保健所 | ・診療所廃止(休止、再開)届 ・開設者の本人確認ができる書類(運転免許証など) |
開業届(新院長) | 税務署 | ・個人事業の開業 ・廃業等の届出書 |
保険医療機関指定申請書(新院長) | 厚生局 | ・保険医療機関・保険薬局指定申請書 ・開設者、管理者、保険医の免許証写し ・周辺図 ・平面図 など |
クリニックを事業承継したいときどこに相談すればいい ?
前述の通り、事業承継に関する相談先は、M&A仲介業者以外にも考えられます。主な相談先と、その相談先に相談するメリットやデメリットを解説していきます。
M&A仲介業者
事業承継するにあたっての相談先としてまず思い浮かぶのは、M&A仲介業者です。M&A仲介業者は。候補先のリストアップ、クリニックの企業価値の算出、譲受希望者との交渉、各種契約書類の作成支援など、多岐にわたるサービスを提供しています。そのため、相談にのってもらえるのはもちろん、事業承継に関してのトータルサポートを受けることができますのがメリットです。
また、似たケースの事業承継を成功させた事例が豊富な、医療業界に特化したM&A仲介業者を選べば、専門知識とネットワークを活かして、適正な価格での売却や、理想とする後継者とのマッチングを有利に進めてもらえる可能性が高いことも、大きなメリットであるといえます。
ただし、仲介業者によってサービス内容や品質に差があるため、依頼する先を慎重に選定する必要があるので注意が必要です。
事業承継・引継ぎ支援センター
事業承継・引継ぎ支援センターとは、中小企業が抱える事業承継の悩みに対応してくれる、国が設置した公的な相談窓口です。
親族内承継・親族外承継・第三者承継のいずれの相談にも乗ってもらえること、相談費用は一切かからないこと、
全国のさまざまな地域に拠点が設置されていて利便性がよいこと、公的機関であるため安心して利用できることなどがメリットです。なお、無料で利用できますが、事業承継に関する知識と経験が豊富な税理士や公認会計士、金融機関のOB、中小企業診断士などにアドバイスしてもらえます。
ただし、M&A仲介業者のように、譲受希望者との交渉などのサポートは請け負ってくれないのがデメリットといえばデメリットになります。
税理士・弁護士・公認会計士
事業承継を進めていくにあたっては、税務や法務に関する知識が欠かせません。そのため、税務のプロである税理士や公認会計士、法務のスペシャリストである弁護士に相談することは得策であるといえます。顧問税理士がいる場合は、事業承継に興味を持った時点で、一度、相談してみるのもいいかもしれません。親族内承継・親族外承継の場合、相続税や贈与税の節税対策に関してもアドバイスしてもらえるでしょう。
デメリットとしては、士業によっては、M&A全般に関してのスキルが不足している可能性が挙げられます。ただし、税理士法人のなかには、M&Aに強いことを謳っていて、実際にトータル的なサポートを提供している事業所もあります。
クリニックの事業承継における注意点は ?
クリニックの事業承継においては、次の3つのポイントに気を回すことが必要です。3つのポイントに留意できていなければ、たとえ後継者が見つかって事業承継できたとしても、モヤモヤした気持ちが残る場合があります。
それぞれ詳しくみていきましょう。
患者への配慮
クリニックは、地域医療に貢献するという大切な役目を担っています。承継によってその役目を果たせなくなったということがないよう、患者に対して、これまで通り質の高い医療を提供することを約束することが肝心です。具体的には、事業承継する理由や新しい院長についての情報をしっかりとシェアすることで、患者の不安を取り除くことが不可欠です。
なお、患者への配慮方法のひとつとして、「クリニックのホームページや電話番号などが変わる予定があることを、数か月前から周知していく」が挙げられますが、その手順などに関しては次の記事でも解説しているのでご参照ください。
参照:医療機関の承継と継承の違いとは 必要な手続きや一連の流れ、相場、トラブル対処法も解説
スタッフへの配慮
トップが変わると、自分の立場や将来について不安を感じるのは患者だけではありません。これまで一緒にがんばってきたスタッフは、「承継のタイミングで仕事がなくなるのだろうか?」「雇用を継続してもらえたとして、新しい院長がイヤな人だったらどうしよう」と少なからず心配するはずです。その不安を払拭すべく、事業承継後の雇用などについて明確に説明することが大切です。
後継者が適任であるかどうか
前述した通り、クリニックの事業承継は後継者が見つからないケースもゼロではないため、なかなか買い手が見つからないと、「買収してくれるなら誰でもいい」と考えるようになるかもしれません。しかし、後継者選びを妥協した結果、患者やスタッフとの信頼関係に亀裂が入ったり、地域の医療体制が崩壊したりといった可能性もゼロではありません。そのことを念頭に置いたうえで、後継者選びは慎重に進めていくことをおすすめします。
クリニックの事業承継についてのよくある質問
続いては、クリニックの事業承継についてのよくある質問とその答えをまとめていきます。
Q. 後継者は見つからない場合もある?
後継者が見つからないことは決して珍しいことではありません。場合によっては、売却価格を見直すことで後継者が見つかる場合もありますが、たとえば建物の老朽化が激しく、修繕にかなりの費用を要す場合や、立地的にあまり集患が見込めない場合などは、二束三文でも希望者が現れない場合が多いでしょう。
Q. 事業承継が成立するケースにおいては、一般的に成立までにどのくらいの時間がかかる?
後継者が見つかるまでには、順調に進んでも数か月、長くて1年以上かかります。そのため、「半年後には引退したいから今から後継者を探そう」というスケジュール感では到底間に合わない場合があります。将来的に事業承継を考えている場合、なるべく早めに準備を進めていくことが大切だといえます。
Q. M&Aの仲介会社を利用する場合、費用はどのくらいかかる ?
M&Aの仲介会社を利用した場合、一般的に、手数料として譲渡価格の5~10%を支払うことになります。なお、完全成功報酬型を採用している仲介会社であれば、事業承継が成立しなかった場合には費用を請求されることはありません。ただし、月単位で費用が発生する月額報酬制をとっている仲介会社もあります 。
また、そのほかに行政への申請手続き費用などとして約10~25万円程度かかります。
事業承継成功の第一歩は正しい知識を得ること。「まずは相談から」でも問題なし!
ここまで述べてきた通り、事業承継を成功させるためには、法務や税務のプロの力を借りることが不可欠です。事業承継に興味があるものの、自院を承継する意志が固まっていないうちは、「100%売却したいわけではないから専門家に相談するべきではないのでは……」と相談を躊躇してしまうかもしれませんが、相談したからといって必ず売却しなければならないということはないので、まずは気軽に相談するのがおすすめです。前述した事業承継・引継ぎ支援センターであれば利用料が完全無料ですし、顧問弁護士がいるなら、普段の相談のなかでなにげなく事業承継についての話題に触れてみるのも一手。早い段階から、事業承継に関する知識を吸収しはじめれば、理想の譲受先に買収してもらえる可能性がそのぶん高くなるので、ぜひ一度気軽に相談してみてくださいね。
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2025年7月時点の情報を元に作成しています。