コロナ渦においては、訪日外国人はそれ以前と比べて大幅に減少していましたが、収束に向かうにつれて再び数が増えています。また、それに伴い、外国人が医療機関を利用する機会も増えています。
そこで今回は、看護師が外国人患者への対応に関して知っておきたいことを改めて確認していきます。
医療機関における外国人患者の受け入れの実態は?
厚生労働省の公表によると、2024(令和6)年9月1日~30日の1か月間において外国人患者を受け入れた医療機関は、「令和6年度医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査」に回答した医療機関のうち約5割を占めています。
また、都道府県の選出する「外国人患者を受け入れる拠点的な医療機関」に関しては、約9割の病院で外国人患者の受け入れがあったことがわかっています。
つまり、医療機関は基本的に外国人患者が利用する可能性があって、特に「外国人患者を受け入れる拠点的な医療機関」に関してはその可能性が高いことから、外国人患者を受け入れる際の対応については、看護師も把握しておくべきであるといえます。
参照: 厚生労働省「令和6年度医療機関における外国人患者の受け入れに係る実態調査について」
外国人患者対応の主な課題・障壁
外国人であろうが日本人であろうが、相手が患者であることや、診療や治療を提供すべきであることに変わりはありませんが、診療や治療を提供するにあたっては、次のような障壁が出てくることが考えられます。
- 言語・コミュニケーションの壁
- 文化・宗教・習慣の違いに起因するトラブル
- 医療制度・保険に関する認識の違いによるトラブル
- 体制・制度・人的リソースの不足
それぞれ詳しく解説していきます。
言語・コミュニケーションの壁
第一に考えられるのが言葉の壁です。「英語なら日常会話程度なら問題ない」という日本人は一定数いますが、医療用語についても完璧という人は少ないはず。そのため、まずは意思疎通がうまくいかないことにジレンマを抱える可能性が高くなります。
昨今は、スマホアプリを使って外国語でコミュニケーションをとることもできますが、100%伝わっているかどうかまで確認できないケースも考えられます。
では、通訳者を間に挟めばいいかというと、診療にあたっては個人情報を扱うことになるため、守秘義務など、いくつかクリアしなければならない問題があります。
文化・宗教・習慣の違いに起因するトラブル
文化・宗教・習慣の違いに起因するトラブルが起き得ることも、頭に入れておいたほうがいいでしょう。
たとえば、患者が入院しなくてはならなくなったとして、宗教上の理由によって食事制限があることが考えられます。また、宗教によっては、いかなる場合も、時間がくれば礼拝をしなくてはならないということもあるでしょう。
そのほか、身体接触や、異性に顔をみられることなどをよしとしない宗教の場合、検査や処置が難しいことが考えられます。さらに、宗教上の理由によって輸血を拒否されることもあるでしょう。
そのほかにも、文化や習慣の違いによって受け入れてもらえないことは多いですが、そのすべてを把握することは難しいため、よかれと思って配慮した結果、相手を怒らせてしまうことなども考えられます。
医療制度・保険に関する認識の違いによるトラブル
外国人患者は、旅行などで日本を訪れているケースと、留学もしくは労働などのために日本に住んでいるケースにわけられますが、前者であれば基本的には保険適用とならないため、支払い能力があるのかどうかなども事前に確認する必要があります。
ただし、訪日外国人向け医療保険などに加入している場合はその限りではないので、医療保険の加入の有無についても確認する必要があるといえます。
参照: 東京都保健医療局「医療保険について」1. 訪日外国人向け
また、日本に3か月以上住んでいる在留外国人は必ず医療保険に入ることが法律で定められています。
しかし来日して以降、医療機関にかかったことのない在留外国人の場合、健康保険や国民健康保険についてきちんと理解できていない可能性も。
事前に加入している保険について確認するだけでなく、医療費の見積もりの提示なども行いたいところです。
参照: 東京都保健医療局「医療保険について」2. 在留外国人向け
体制・制度・人的リソースの不足
医療機関で、外国人患者の来院の可能性を視野に入れておらず、病院内ルール・マニュアルが未整備であれば、いざというときにトラブルが起きる可能性は高くなります。
また、看護師の教育・研修機会が不足していることや、電子カルテが多言語に対応していないこと、通訳者や医療コーディネーターの数が不足していることなども、十分に対応できない原因となり得ます。
実践的対応・工夫・マニュアル化すべきこと
続いては、外国人患者の円滑な受け入れおよび治療に必要なことを解説していきます。外国人患者に対しても、日本人の患者と同じように対応するためには、次の点について対策を講じる必要があります。
- コミュニケーションツールや通訳の活用
- 文化的背景の理解
- ルール化・制度整備・チームの体制づくり
- トラブル発生時の対応
- ケアのモニタリングと評価
それぞれ詳しくみていきましょう。
コミュニケーションツールや通訳の活用
まず考えるべきは言語の問題です。医療関係の専門用語まで把握した通訳を雇うことができたら手っ取り早いですが、特に、外国人患者の来院が頻繁ではない医療機関の場合、通訳のみに従事する人材を雇うことは現実的ではないでしょう。
バイリンガルの医療事務や看護師が在籍しているなら、外国人患者の来院時に対応してもらうという選択肢はありますが、その場合も、「何語でもOK」というわけではないため、話せる人がいない言語を母国語とする患者が来院した場合にどうするかについては、事前に考えておくことが望ましいといえます。
もっとも手軽に利用できるのは自動翻訳ツールです。ただし、精度が高いとされるアプリでも、100%正確とまではいかないため、「コミュニケーションツールを使っても伝わりきらない可能性がある」との前提のもと、万が一のために準備しておくことが大切です。
たとえば、問診評や同意書などは多言語で用意しておくと役立ちますし、イラストやジェスチャーを使った非言語コミュニケーションも、意思疎通に役立ちます。
文化的背景の理解
宗教や習慣の違いによって、治療やケアを拒否される可能性があることを理解したうえで、対応策を考えて置くことも大切です。
「決められた時間に礼拝をしなければならない」「ラマダン月は日の出から日没までの間、飲食できない」などのルールがある患者に対して、「郷に入っては郷に従え」の考えで治療や食事を強要することはできません。
適切に治療するためにも、こちらの慣習に合わせてほしい気持ちはあって当然ですが、相手を説得することに無駄に時間を割くことなく、「どのような治療なら受けてもらえるのか?」を考えて実践することを優先しましょう。
ルール化・制度整備・チームの体制づくり
外国人患者に適切に対応できるよう、マニュアルやルールを設けて、医療提供体制を整えていくこともとても大切です。
たとえば、診療や治療にどのくらいの費用がかかるのかを事前に伝えて、金銭トラブルを防ぐことも重要です。費用の支払いに不安が伴う場合、国際医療コーディネーターを活用して、費用の支払いを代行してもらうことも視野に入れるといいでしょう。
なお、国際医療コーディネーターは、医療機関と外国人患者とのマッチング、通訳の手配などの業務も担ってくれるため、医療機関ごとのニーズに応じて、コーディネーターの活用方法を決めていくといいでしょう。
参照: 厚生労働省「医療従事者から見た医療コーディネーターの役割と必要性」
トラブル発生時の対応
医療事故発生時や、患者と医者との間で意見の食い違いが生じた際などは、双方の意見を聞いて話し合いの場を設定してくれる「医療メディエーター(医療対話推進者)」に仲介を医療するのも一手です。
医療メディエーターは必ずしも語学力に長けているというわけではありませんが、なかには語学に堪能な人もいるので、必要に応じて利用を考えましょう。
参照: 社団法人人医療メディエーター協会
ケアのモニタリングと評価
宗教や文化の違いによって、日本人患者とはケアの内容や食事の時間などを変えなければならない場合などは特に、ケアについてしっかりとモニタリングを行い、改善サイクルを回していくことが大切です。
また、多言語アンケートを用意しておいて、患者に記入してもらうことで、さらに患者満足度を高められるよう努めましょう。
看護師を適切に配置するために必要なことは?
外国人患者に適切に対応するためには、看護師を適切に配置することも必要です。具体的には、まずは次の点に気を付けるといいでしょう。
- 若手看護師の「経験不足」と「経験を積ませること」を考慮する
- 中堅以降の看護師の「判断力」「調整力」を活かせるよう、マニュアルやルールを整備する
- 多様なバックグラウンドを持つ看護師を活かすチームづくりを考える
それぞれ詳しくみていきましょう。
若手看護師の「経験不足」と「経験を積ませること」を考慮する
前述の通り、コロナ明けから訪日外国人数は増加しています。それに伴い、日本で医療機関を受診する外国人患者の数も増えていますが、今後も、今と同様、もしくはそれ以上に多くの外国人が医療機関を受診する可能性は高いと考えられます。
そのため、医療機関の未来を担っていく若手看護師を中心に、外国人患者への対応能力を高めておくことが、医療機関の成長にもつながると考えられます。
しかし、若手看護師はそもそも看護師としての経験が少ないことから、日本人・外国人問わず、看護師としての対応に慣れていない場合もあります。
そのため、若手看護師にしっかりと経験を積ませることのなかに、外国人患者への対応力強化も目標として盛り込んでいくことが大切です。
中堅以降の看護師の「判断力」「調整力」を活かせるよう、マニュアルやルールを整備する
若手看護師に外国人患者への対応力を高めてもらうためには、中堅以降の看護師がしっかりとサポートすることが大切です。
中堅以降の看護師が中心となって、「どういう症状の患者がきたらどういうふうに対応すればいいか」のマニュアルやルールを整備していくと同時に、実際に外国人患者が来院した際には、若手看護師と二人三脚で対応しながら、教育にも力を入れていくといいでしょう。
多様なバックグラウンドを持つ看護師を活かすチームづくりを考える
日本語がまったく通じない外国人患者が来院した際も、自院で働くすべての看護師がある程度は対応することが理想ではあります。
ですが、もし仮に語学堪能な看護師や外国人看護師が在籍している場合は、当該看護師を中心としたチームづくりを考えることが、もっとも理想的であるといえるでしょう。
また、外国人患者が多く来院するものの、現状、高い語学力を有した看護師がいないのであれば、語学力重視で新たに看護師を採用することも検討するといいかもしれません。
現場の看護師インタビュー
続いては、外国人患者を受け入れている医療機関で働く看護師の声をピックアップしていきます。なお、アンケートは株式会社Donutsが独自に実施しています。
言語の壁の問題
・「1か月で10人ほど外国人患者の来院がありますが、中国人や韓国人が多いという統計になっています。言葉が通じないため、翻訳機を使ってコミュニケーションをとるも時間がかかって診察が滞ることがあります。診療内容や薬の飲み方をきちんと理解できているかどうかは、特にしっかり確認するようにしています」(ぽぽちゃんexさん・30代前半)
・「翻訳アプリや翻訳電話サービスを利用しています。どれくらい理解できているのかをきちんと把握するよう努めています」(ゆうきさん・40代前半)
・「できるだけ言語に堪能なスタッフが同席して、英語での意思疎通を試みています。それでも伝わらない部分に関しては翻訳機を活用しています」(ももにゃんさん・30代前半)
・「スペイン語しか話せない方が、家族も一緒に泊りたいと希望された際、付き添いができないことがなかなか伝わらず困ったことがあります」(ナカテンさん・30代後半)
・「患者の日本語が片言で意思疎通が困難だったため、スマホやポケトークの翻訳機能、ジェスチャーを使ってなんとか診察したことがあります」(セイチャンさん・30代後半)
・「まだ退院すべきではない状態の患者が、自国に戻りたいという理由で強行退院したことがありました。感情を抑えてもらうことは難しいですが、Google翻訳を駆使して指示しています」(hinaさん・50代前半)
日本語が通じない外国人患者に対しては、実際に、翻訳アプリやジェスチャーを使ってコミュニケーションを試みている看護師が多いようです。
宗教・文化・価値観などの違いから生じる問題
・「外来患者数が1日あたり450~600人程度で、そのうち30人弱が外国人患者です。地域の就労受入れの関係で東南アジア系の国籍の方が多いです。
宗教上の決まりから肌を見せられない女性に検査を受けてもらう際、服装の対応が難しかったです。また、スタッフはすべて女性がよいという希望に対応するため、スタッフ調整に時間を要しました」(ゆうきさん・40代前半)
・「外国人患者の割合は1割弱です。中国やインド出身の方が多いです。印象に残っているエピソードとしては、感染対策の観点からベッドサイドに写真やぬいぐるみなどを飾ることが禁止されていると、説明しても理解してもらえず、持ち帰ってもらえませんでした」(ももにゃんさん・30代前半)
・「時間にルーズな患者が多く、予約時間に遅れたり無断キャンセルが続いたりしました。遅れると待ち時間が発生することや、再予約が難しいことを伝えても理解してもらえず困りました」(すみさん・20代前半)
宗教・文化・価値観などの違いは、違いがあることがわかっているだけではダメで、「じゃあどんな対策をとればいいのか」「どうすればきちんと診療を受けてもらえるのか」などを考える必要があります。
具体的な対策が思いつかない場合は、患者本人に「どうしてほしいのか」を確認して、「できる」「できない」を伝えていくしかないかもしれません。
その他
・「訪問看護師をしています。地域の特性上、トヨタ自動車工場に勤めるブラジル系、ポルトガル系などが多く、ほとんど言葉が通じません。普段は落ち着いているのですが、体調不良時はパニック状態になることが多く、会話が成り立たないので大変です」(イチノセさん・30代前半)
訪問看護の場合、看護師が他に頼る人がいない状況となることから、言葉の壁や習慣の違いなどを強く感じやすいでしょう。日本人利用者に対応するとき以上に、事前にしっかりと相手のことを把握して、万が一の時の対策については家族と相談して取り決めしておくのがいいかもしれません。
まとめ
外国人患者対応には「言語」「文化・宗教」「制度・体制づくり」など複合の課題がありますが、そのうち一つでも欠けていると現場がうまく回らない場合があるので、まずは、課題を一つずつクリアしていくことから考えていきましょう。
なお、厚生労働省の「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル」なども役に立つので、プリントアウトしてスタッフに配布することからスタートするのもおすすめです。
参照: 厚生労働省「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル(第4.0版)」
特徴
対応端末
提供形態
システム提携
種別
診療科目
この記事は、2025年10月時点の情報を元に作成しています。
執筆 CLIUS(クリアス )
クラウド型電子カルテCLIUS(クリアス)を2018年より提供。
機器連携、検体検査連携はクラウド型電子カルテでトップクラス。最小限のコスト(初期費用0円〜)で効率的なカルテ運用・診療の実現を目指している。
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