承継開業とは、建物や設備、従業員などの経営基盤を前経営者からそのまま引き継いで事業を始める手法をいいます。さまざまな業種で使われることがある手法で、病院・クリニックの院長が承継開業することもあります。なお、医療機関の承継開業においては、多くの場合、患者も引き継ぐことになります。他の開業方法とどのような違いがあるのか、費用はどのくらいかかるのかなど、承継開業について詳しく解説していきます。
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承継開業とは
承継開業とは、既存の病院やクリニックを引き継ぐ形で、事業をスタートする方法です。
既存の病院・クリニックが事業を手放す理由はさまざまですが、前院長の引退に伴い、引き継いでくれる医師を探しているケースなどは特に多いです。
冒頭で述べた通り、建物や設備、従業員、患者のほか、関連する契約や許認可、地域における認知度なども引き継げることが大きな特徴です。
ただし、詳しくは後述しますが、一から自分で用意する必要がないがためのデメリットも存在します。
承継開業の種類
承継開業は、「親族内承継」「院内承継」「第三者承継」の大きく3つのパターンにわけられます。
親族内承継とは、子や孫、あるいはそのほかの親族に引き継ぐことをいいます。仲介手数料や対価の支払いを不要とすることもできますが、相続税などの税金がかかることがあります。詳しくは後述します。
院内承継は、現職のスタッフや医師が、クリニックの運営を引き継ぐ方法です。新院長候補者が、クリニックの文化や業務プロセスを熟知しているということになるため、比較的スムーズに承継が進むことが期待できます。
第三者承継とは、親族ではない第三者が引き継ぐことをいいます。親族や院内に適切な後継者がいない場合、有効な手法です。
承継開業のスキーム

承継開業のスキームは、譲渡主体が個人の場合と医療法人の場合とで異なります。
譲受主体が個人クリニックの場合
譲渡主体が個人の「親族内承継」の場合に使われるスキームには、「事業譲渡」「生前贈与」「相続」があります。事業譲渡とは、事業を譲渡する対価として、現金を受け取る方法です(※株式会社などの場合は、現金ではなく株式などが対価のこともありますが、クリニックの場合、基本的に対価は現金です)
「生前贈与」とは、前院長がクリニックを後継者に対して無償で譲る方法です。受け取る側に贈与税が課せられるため、適切な節税対策をとる必要があります。「相続」とは、元の経営者が亡くなった後、遺言書や遺産分割協議などによって後継者に譲渡されることをいいます。生前贈与同様、税金が課されるため、適切な節税対策をとることが大切です。
譲渡主体が個人の「院内承継」あるいは「第三者承継」の場合、基本的に「事業譲渡」のスキームが採用されます。
事業譲渡は、承継する資産や負債を個別に決める「特定承継(個別承継)」であるため、どこからどこまで譲り受けるかを柔軟に設定することができます。これに伴い、契約や許認可の再取得が必要になる場合もあります。
提出が必要な主な書類は次の通りです。
| 申請窓口 | 申請内容 | 添付書類 |
| 保健所 | ・廃止届(前院長) ・開設届(新院長) ・レントゲン廃止届(前院長) ・レントゲン設置届け(新院長) |
・建物平面図 ・建物周辺見取り図 ・経歴書 ・譲渡契約書 ・賃貸借契約書 ・医師免許証 ・レントゲン漏洩検査報告書 |
| 厚生局 | ・保険医療機関廃止届(前院長) ・保険医療機関指定申請書(新院長) |
・引継書 ・保険医登録票の写し |
譲受主体が医療法人の場合
譲受主体が医療法人の場合、一般的に採用される主なスキームは「持分譲渡」あるいは「合併」です。
なお、医療法人には、持分あり医療法人と持分なし医療法人がありますが、現在は「持分あり」での新設は認められておらず、既存法人のみ残っています。
- 持分あり医療法人の場合
実務上、「持分譲渡」が多いです。「持分譲渡」では、会社の資産・契約・債務が別会社に移転することはありません。つまり、法人格・契約主体・資産・許認可などはそのままで、単に「オーナーが変わる」といったイメージです。
- 持分なし医療法人の場合
持分なし医療法人の場合、そもそも譲渡対象の持分がないため、承継は、社員の入れ替え、理事の交代、理事長変更によっておこないます。そのため、実務上は「経営権の引き継ぎ」が中心となります。
- 大規模再編の場合
大規模再編の場合、「合併」のスキームが採用される場合が多いです。合併は包括承継であるため、資産・負債・契約・従業員などが包括的に引き継がれることになります。
持分譲渡の場合、提出が必要な主な書類は次の通りです。法人そのものは存続するため、診療所の廃止届・開設届が不要となる点が大きな違いです。
| 申請窓口 | 申請内容 | 添付書類 |
| 法務局 | 医療法人変更登記申請書 | ・社員総会議事録 ・就任承諾(新理事長) ・辞任届(前理事長) ・理事会議事録 ・新理事長医師免許証の写し ・印鑑証明書 |
| 厚生局 | 保険医療機関届出事項変更届 | ・役員変更届の写し ・保険医療機関指定通知書の原本 ・保険医登録の写し |
| 保健所 | 診療所開設許可(届出)事項一部変更届 | ・医師免許証及び職歴書 ・臨床研修等修了登録証 |
| 都道府県 | 役員変更届 登記事項変更完了届 |
・理事会議事録 ・社員総会議事録 ・辞任届(前理事) ・役員就任承諾書(新理事) ・印鑑証明書(新理事) ・新理事長医師免許証(新理事) ・経歴書(新理事) |
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新規開業との違い
病院・クリニックを始める方法は、「承継開業」と「新規開業」の大きく2つにわけられます。
新規開業は、承継開業とは異なり、土地探しあるいは物件探し、内装、医療機器の選択、スタッフの採用および教育、集患戦略まですべて、開業する院長本人が決定して形にしていく方法です。
診療方針も治療内容もすべて自由に設計できますが、思い通りにするためには、必要な資金を用意しなくてはなりませんし、理想通りの物件やスタッフが見つからない場合もあります。また、承継開業と異なり、引き継ぐ患者がいないため、新規に獲得していく必要があります。
分院開業との違い
分院開業も、新しく病院・クリニックを開業する手法ですが、承継開業・新規開業とは分類方法が異なります。
どういうことかというと、分院開業は、“承継or新規”のように、“ゼロイチかどうか”でわけるものではないということです。
では、承継開業・新規開業と分院開業はどんなポイントでわけられるかというと、承継開業・新規開業の“主体”は開業したクリニックを経営していく医師本人であるのに対して、分院開業の“主体”は本院である医療法人または本院の院長です。なお、実務上は“分院長となる医師”が強く主導して開業を進めるケースもありますが、その場合も、法的な主体は本院側ということになります。
2つのパターンについて解説します。
- ①本院が主体となるケース
これはもっとも一般的なケースです。
(典型例)
- 医療法人が新たに分院を出す
- 本院の経営陣が立地選定・資金調達・スタッフ採用を進める
- 分院長は「雇われ院長」に近い立場になる
(法律上の主体)
開設者は本院側です。
たとえば、
- 医療法人Aが「XXクリニック池袋院」を開設
- 分院長B医師は池袋院の管理者(院長)として配置
↓
この場合、
- 診療報酬請求
- 雇用契約
- 賃貸契約
- 医療機器購入
- 行政対応
などの主体は医療法人Aです。
そのため、分院長交代も比較的よくあることです。
- ②分院長候補の医師が主体的に動くケース
「将来独立したい医師」が主導するケースです。
(典型例)
- 勤務医が「自分のクリニックを持ちたい」と考えているもののいきなり単独開業は不安
- まずは既存医療法人の分院長としてスタート
という流れです。
(実務上)
分院長候補が出店エリアや内装、診療方針を決める
(法律上の主体)
分院長が主導していても、開設許可や保健医療機関指定、契約、売上帰属などは、通常、本院側にあります。
分院に院長として勤務⇒“承継開業or新規開業”で独立 のパターンはあり
上記のような性質の違いから、分院開業で院長になることは、完全に独立開業することとは意味合いが違ってきます。ただし、分院院長として活躍した後に、承継開業または新規開業によって独立開業するというケースはあります。
なお、本院にブランド力がある場合、分院長として経験を積むことによって箔がつくため、その後、承継開業するにしろ新規開業するにしろ、銀行からの融資を受けやすいなどのメリットを得られます。
継承開業との違い
医業・事業の分野で、実態ある経営や契約を引き継ぐことを表す言葉としては、「承継」のほうが適切であうとされています。そのため、病院・クリニックの経営権を引き継ぐことは基本的には「承継開業」と表現されますが、敢えて、「継承開業」との言葉で表現されることもあります。
「承継」は、権利・義務・財産・契約などの“法的な関係”を引き継ぐことを指しているのに対して、「継承」は文化・思想・伝統・知識などの引き継ぎを意味することから、精神的・理念的なものを次の世代につなげていきたいときに「継承」の言葉が選ばれることがあるためです。
つまり、患者との信頼関係や診療理念、地域にどんなふうに貢献したいかといった“目に見えない価値”を大事にしたい場合に、「継承開業」の言葉が使われることがあるのです。
ただし、先に書いた通り、一般的には「承継開業」の用語が使われるため、「継承開業」については、“理念を大切にしたいことから、敢えてこの表現が使われることもある”程度に覚えておくといいでしょう。
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承継開業のメリット
承継開業の主なメリットは次の通りです。
- 開業準備の金銭的・時間的負担を抑えられる
- 最初から一定数の患者がいる
- 収支計画を立てやすい
- 地域や患者のことに詳しい従業員がいる
- 最初から一定数の患者が保証されている
- 前院長が数か月並走してくれる場合がある
それぞれ詳しくみていきましょう。
開業準備の金銭的・時間的負担を抑えられる
物件や内装、設備、消耗品など大小さまざまなものを丸ごと引き継ぐことができるため、必要な資金を用意する手間・導入機器などをそろえる時間などを抑えることができます。医療機器などは、基本的に、新品で用意するよりも安く手に入ることになります。
最初から一定数の患者がいる
承継開業では多くの場合、患者を引き継ぐことができます。そのため、「開業しても患者がこなかったらどうしよう」という不安を最低限に抑えることができます。また、広告宣伝費も抑えることができます。ただし、承継後に診療科が変わる場合などは、実質、ゼロから集患する場合と変わりません。
収支計画を立てやすい
前院長時代の実績をもとに収支計画を立てることができるため、開業前から収支の見込みまで把握しやすいといえます。
地域や患者のことに詳しい従業員がいる
前院長の時代から働いている従業員が引き続き働く場合、地域や患者のことなど、わからないことを教えてもらうことができます。
前院長が数か月並走してくれる場合がある
前院長時代の経営理念などを含めて承継する場合、前院長に数か月並走してもらいながら、診療・治療の方針や理念を引き継いでいくことがあります。いきなりひとりですべてやることに不安を感じる人にとっては、このことは大きなメリットとなり得るでしょう。
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承継開業のデメリット・注意点
承継開業のデメリットおよび注意点は次の通りです。
- 建物や設備の修繕費用が発生する場合がある
- 内装などを一から作れない
- 引き継ぐ従業員と相性が合わない場合がある
- 従業員の給料維持が難しい場合がある
- 前院長と衝突する可能性がある
- 従業員が一斉に離職する可能性がある
- 元のクリニックの悪いイメージが引き継がれる場合がある
- 理想の案件が見つかるとは限らない
それぞれ詳しくみていきましょう。
建物や設備の修繕費用が発生する場合がある
建物や設備の老朽化が進んでいる場合、修繕が必要となることがあります。そのため、承継検討時には、修繕費込みで納得のいく価格であるのかを考えることが非常に大切です。金額面で納得できない場合、交渉することも検討したいところです。
内装などを一から作れない
新規開業であれば、物件も、導入する医療機器もすべて自分で選べます。ゼロイチが好きな人にとっては、それが叶わないことは懸念点となり得ます。ただし、承継物件が理想そのもの、あるいは理想に近いという可能性はあります。
引き継ぐ従業員と相性が合わない場合がある
従業員を引き継ぐことが条件とされている場合、従業員とソリが合わないことで、引き継いでいいのかを悩んでしまうこともあるかもしれません。
従業員の給料維持が難しい場合がある
前院長が従業員に対して支払っていた給与・賞与が高い場合、開業から融資を返済し終わるまでの間は特に、それ以前と同じ金額の支払いを求められても厳しいということがあり得ます。承継後に患者が減る可能性も考えるとなおさらです。
退職金や有給休暇などの「隠れ負債」を引き継ぐリスクがある
従業員を引き継ぐ際、給与額だけでなく「前院長時代から積み上がった退職金債務」や「未消化の有給休暇」もそのまま引き継ぐケースがあります。これらを把握せずに承継してしまうと、数年後に従業員が退職する際、新院長が多額の退職金を自己資金から支払わなければならないといった事態に陥ります。こうした人事労務上の隠れ負債(簿外債務)は、承継開業における代表的な失敗パターンのひとつであるため、事前のデューディリジェンスで必ず確認し、必要に応じて譲渡価格から差し引くなどの交渉をおこなう必要があります。
前院長と衝突する可能性がある
経営方針や治療方針に関して、前院長と考え方が合わず、衝突する可能性も否めません。特に、前院長が、先に解説した“継承”を大事にしたい場合などは、この可能性が高くなります。
従業員が一斉に離職する可能性がある
前院長時代と働き方や働く条件が変わることによって、従業員がこぞって離職する可能性があります。そうなった場合、新規でスタッフを募集するための費用および時間が必要になり、想定外のロスが生まれることとなります。
元のクリニックの悪いイメージが引き継がれる場合がある
前院長時代の評判がよくない場合、承継する医師の診療方針や医者としてのスキルが前院長とはまったく異なっていたとしても、悪いイメージに邪魔されて、増患に時間がかかる場合があります。
理想の案件が見つかるとは限らない
承継したいと思える案件がスムーズに見つかるとは限りません。場合によっては年単位で“案件待ち”する必要があります。
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承継開業に必要な費用は?
前述の通り、承継開業は新規開業と比べて費用負担を抑えられるケースが多いです。とはいえ、決して安い金額とはいえず、数百万円から、場合によっては数千万円となることもあります。
事業譲渡での承継開業御場合の、主な費用の内訳は次の通りです。
- 譲渡対価
- 仲介手数料
- 改装費・設備更新費
- 運転資金
それぞれどのくらいかかるのかをみていきましょう。
譲渡対価
譲渡対価とは、建物や医療機器などの現在の価値(時価)に、のれん代(営業権)を上乗せした金額です。「のれん代」とは、その医療機関が有しているブランド力や収益力のことで、一般的には、年間利益×1~3倍(1~3年分)をのれん代とすることが多いです。ただし、収益性が高いクリニックの場合、3年分より高くなります。目安の金額としては数百万~数千万円となりますが、提示された金額が適正であるかどうかについては、専門家に確認してもらうことが大切です。
仲介手数料
仲介会社を活用して案件を探した場合、仲介手数料として、譲渡価格の数%あるいは固定額を支払う必要があります。
改装費・設備更新費
建物や内装が古く、改装が必要な場合、ある程度の改装費を用意する必要があります。また、電子カルテの新規導入や医療機器の買い替えなどをおこなう場合も、数百万円単位の出費となります。改装や買い替えがほとんど必要ない状態でも、看板や診察券などを作り直す必要があります。
なお、忘れがちですが、ホームページ内の医師名表記なども変更する必要があります。また、院長交代のメッセージなども新たに掲載することが望ましいでしょう。自院で更新ができない場合、作業費が発生することもあります。
運転資金
承継開業は新規開業と比べて早期に収益が見込めますが、保険診療の診療報酬入金が診療の2か月後であることから、その間、家賃や消耗品、従業員のスタッフなどを支払えるよう、運転資金を確保しておく必要があります。また、前院長の患者がそのまま全員来院し続けてくれるとは限らないため、院長交替のタイミングで収益が減る可能性もあります。そう考えると、最低でも3~6か月分の運転資金は用意しておくことが大事だといえます。
≪承継開業に必要な資金の調達方法は?≫
承継開業にかかる費用を最低限におさえられた場合、自己資金ですべてまかなえることもあります。しかし、多くの場合は、金融機関の融資や、国・自治体が提供している助成金、補助金を活用します。
特に、中小企業庁が実施している「事業承継・引継ぎ補助金」などは、クリニックの事業譲渡や第三者承継においても要件を満たせば活用できる場合があり、専門家への仲介手数料や設備投資の費用負担を大幅に軽減できる可能性があります。
金融機関の融資やこれらの補助金を活用するためには、先方に納得してもらえるような事業計画書を作成することが不可欠です。
金融機関の融資や助成金、補助金を活用するためには、先方に納得してもらえるような事業計画書を作成することが不可欠です。なお、審査のポイントは、収支予測や患者数、自己資金のバランス、運転資金の見積もりなどになりますが、同じ事業計画書を提出しても、A銀行からは融資がおりてB銀行からはおりないということがあり得るので、複数の金融機関を当たってみることなども検討するのが一般的です。
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承継開業の流れは?
第三者承継の承継開業は、通常、半年~1年程度の期間を要します。
大まかなステップとしては次の通りです。
- 1 希望条件の整理、物件探し:1~6か月
- 2 面談、条件交渉、基本合意:1~2か月
- 3 デューディリジェンス、最終譲渡契約:1~2か月
- 4 行政手続き、スタッフ面談、引継ぎ診療:1~3か月
それぞれ詳しくみていきましょう。
希望条件の整理、物件探し
承継物件に望むことを書きだして、それぞれの条件に優先順位をつけていきます。募集案件はサイト上で検索することも可能ですが、専門のエージェントに登録して希望条件を伝えておくと、非公開条件を優先的に紹介してもらえます。条件が厳しすぎると、半年以上経っても理想の物件に巡り合えない場合もあります。その可能性も考えたうえで、なるべく早めに探し始めることをおすすめします。
面談、条件交渉、基本合意
理想に近い案件、気になる案件が見つかったら、秘密保持契約を結んだうえで詳細な資料を確認させてもらいます。その後、前院長とのトップ面談で、診療理念や地域医療への思いなどを確認して、「このクリニックなら引き継ぎたい」と感じられて、なおかつ前院長側にも「任せたい」と思ってもらえた場合、基本合意へと進みます。基本合意前に、必要に応じて条件交渉をおこなう場合もあります。
デューディリジェンス、最終譲渡契約
基本合意契約を結んだら、デューディリジェンスを実施します。デューディリジェンスについては追って詳しく説明しますが、財務状況や法務リスク、人事労務の問題点など、多角的に調査することが大切です。なお、デューディリジェンスを実施した結果、重大なリスクや簿外債務が見つかった場合、譲渡価格の減額交渉をおこなうか、あるいは承継を中止するかの判断が賢明な場合があります。
行政手続き、スタッフ面談、引継ぎ診療:1~3か月
デューディリジェンスの結果、問題がないか、あるいは減額交渉などがまとまった場合、最終的な譲渡契約書を締結して対価を支払います。その後、開設届の提出やスタッフへの説明会、患者への挨拶状送付などをおこないます。
なお、この期間には、必要に応じて、前院長と一緒に診療をおこなう「並走期間」を設けます。並走期間を設けることによって、患者との信頼関係を築きながら、電子カルテの操作やクリニックのルールを学ぶことができるため、並走期間を設けるメリットは大きいといえます。
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承継開業を成功させるためのポイントは?
承継開業を成功させるために押さえるべきポイントは次の通りです。
【開業前】
- 案件探しを早めに始める
- 医業承継の仲介サービスやコンサルタントを利用する
- デューディリジェンスを実施する
- 診療圏内の将来的な人口推移などを調査する
- 診療圏内への競合の開業予定を調べる
【開業後】
- 従業員の雇用契約や就業規則の見直し、労働条件の再確認をおこない合意を得る
- 電子カルテの情報などをきちんと引き継ぐ
- 患者向け説明会を開催するなどして患者との信頼関係を構築する
- サービス改善にフィードバックを活用する
それぞれ詳しくみていきましょう。
案件探しを早めに始める
先に解説した通り、承継したいと思える案件がスムーズに見つかるとは限りませんし、寧ろ、「想定より時間がかかる」と思っておいたほうがいいです。そのため、将来開業したいと考えているなら、少しでも早い段階から案件を探し始めることが得策です。まずは、仲介サービスなどへの登録スタートからでもいいですが、同時に、「これだ!」と思える物件が見つかったときにすぐに挙手できるよう、自己資金を貯め始めておくことも大切です。
医業承継の仲介サービスやコンサルタントを利用する
医業承継の仲介サービスやコンサルタントに希望の条件を伝えておけば、条件に合いそうな案件が出たときに連絡を入れてくれるので、定期的に自分で探しているのでは見つけられない募集などにも接触できます。また、気になる案件について詳しい説明を求めることもできますし、各種手続きのサポートを受けられるなどのメリットも得られます。
デューディリジェンスを実施する
「承継後に建物や設備の大規模な修繕が必要となって、結果的に予算を大きく上回ってしまった」「聞いていなかった未払い残高や患者とのトラブルが発覚した」といったクリニックの承継開業における失敗を防ぐためには、契約を結ぶ前に必ずデューディリジェンスを実施することが必要です。物件や医療機器に関してだけでなく、法務、財務、人事労務など、事業承継に関わるあらゆるリスクを専門家の目を通して厳しくチェックすることが大切です。
特に、次の項目に関しては網羅することが不可欠です。
- 財務
損益計算書(PL)、貸借対照表(BS)、未収金・未払金、診療報酬請求の妥当性、設備の減価償却残など。簿外債務も見落とさないように!
- 法務
賃貸借・リース契約、許認可・保険医療機関指定、訴訟・行政処分歴、競業避止条項の有無など
- 人事・労務
就業規則、賃金水準、離職率、キーパーソンの残留意思など
IT・設備
レセコン/電子カルテの契約状況とデータ移行可否、医療機器の保守契約・耐用年数、セキュリティ体制など
診療圏内の将来的な人口推移などを調査する
診療圏内の将来的な人口推移を調査する方法はいくつかあります。まず有効なのが、自治体の都市計画を確認することです。再開発計画、駅前整備、大規模マンション計画、学校新設、道路計画などの予定があれば、将来の人口が大きく変わります。
また、実地調査で、ベビーカーの多さ、高齢者比率、昼夜人口差、学習塾数、ドラッグストア混雑具合などを確認することで、5年後・10年後に患者層が増えるかどうかを見極めることもできます。
診療圏内への競合の開業予定を調べる
診療圏内への競合の開業予定については、小さなクリニックの開業予定などまでは調べることはできませんが、医療モール計画などは、医師向け開業サイトや不動産会社サイトなどで概要を知れる場合があります。また、現地の工事看板に記されたテナント情報などを通して、クリニックモールの建設予定などを知ることもできます。
あるいは、地域密着型薬局や大手調剤チェーンなどは、新規開業情報、テナント情報を早期に把握している場合があるので、直接尋ねてみるのも一手です。また、医師会、医療専門不動産会社、開業コンサル、医療機器ディーラーなどの医療業界関係者の間でも、「XX駅前に皮膚科が入るらしい」などの情報が早めに出回る場合があります。
従業員の雇用契約や就業規則の見直し、労働条件の再確認をおこない合意を得る
承継開業においては、従業員の雇用契約なども引き継ぐ場合が多いですが、必ずしもそのまま引き継がなくてはならないというわけではありません。同じ労働条件のままで給与が下がるなどの場合、反発が起きる可能性が高いですが、たとえば物件修繕にそれなりの費用を要した結果、契約内容を変更せざるを得ないということもあり得ます。そのような場合に、一方的に契約内容や規則を変更すると不信感を抱かれて当然です。すべての従業員に納得してもらえるよう、誠意をもって説明することが大切です。
電子カルテの情報などをきちんと引き継ぐ
承継を機に電子カルテの乗り換えをおこなう場合などは、情報を正確に引き継ぐことが大切です。電子カルテの乗り換えに関して不安がある場合、ベンダーに相談することをおすすめします。
参照:電子カルテのデータ移行・データコンバートに失敗しないための完全ガイド|費用・リスク・業者選定
患者向け説明会を開催するなどして患者との信頼関係を構築する
既存患者がこれまで通り安心して通院できるよう、院内掲示やパンフレットなどを活用して、院長が交代する旨や診療体制の変更点を丁寧に伝えます。必要に応じて、地域の患者向け説明会などを開催することも検討するといいかもしれません。
サービス改善にフィードバックを活用する
院長が交代となることに不安を感じているものの、直接意見できないという患者もいます。そのため、定期的なアンケートの実施や相談窓口の設置によって、患者の声を拾うことが大切です。寄せられた意見をもとにサービスを改善していけば、患者にとってより頼れるクリニックになることができます。また、Googleの口コミなどにも目を通して、フィードバックに活かしていくといいでしょう。
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スピードや柔軟さを意識することで、よりよい開業を実現しやすい
開業に向けて物件を探すにあたっては、早めに準備を進めておいて、いい物件が現れたときにすぐに動けるようになることで、成功の確率が高まります。また、「絶対にこの条件は譲れない」という決め事が多すぎると、チャンスを逃してしまう可能性が高いどころか、いつまでたっても開業できないということもありえます。そうした事態を防ぐためにも、スピードと柔軟さを意識することはとても大切。より理想的な状態で開業することができるよう、早めに体制を整えて、優先順位をつけることからはじめてみてくださいね。
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
