「医師でなくてもできる業務を、医師以外に任せる」——タスクシフトの説明としてはこれで足りますが、実際に自院で進めようとすると、途端に難しくなります。
どの業務を、誰に、どこまで任せてよいのか。法的に問題はないのか。そして何より、人手が限られたクリニックで本当に回るのか。
本記事ではタスクシフトとタスクシェアの違いを整理したうえで、診療所の規模で現実的に進められる範囲と、着手の順序をまとめます。
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タスクシフト・タスクシェアとは
2つの言葉の違い
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| タスクシフト | 医師が担ってきた業務の一部を、看護師や薬剤師など他職種に移すこと |
| タスクシェア | 医師の業務を、複数の職種で分け合うこと |
違いは「移す」か「分け合う」かにあります。ただし実務では厳密に区別せず、「タスク・シフト/シェア」とまとめて使われるのが一般的です。
目的は共通しています。医療従事者がそれぞれの専門性を活かせるよう業務分担を見直すことで、医師の負担を軽減しながら、チーム医療全体の水準を上げることです。
単なる「仕事の押しつけ」ではない
ここは誤解されやすい点です。タスクシフトは医師の仕事を他職種に負わせる施策ではなく、それぞれの職種が資格の範囲で力を発揮できるように配分を組み直す取り組みです。
看護師が本来できることを医師が抱えていれば、医師は疲弊し、看護師の専門性も活かされません。両方の職種にとって望ましくない状態を解消するというのが本来の趣旨です。
背景にある医師の働き方改革
タスクシフトが政策として推進されている直接の背景は、医師の働き方改革です。
一般企業ではすでに始まっていた時間外労働の上限規制が、2024年4月1日から医師にも適用されました。医師は他職種と比べて時間外労働が突出して多く、すぐの適用が困難と判断されて猶予期間が設けられていた経緯があります。
上限規制の適用にあたっては、医療機関の状況に応じてA水準からC-2水準までの区分が設けられています。いずれにせよ、「働く時間を短くする」ことが法的な要請になった以上、業務量そのものを見直す必要が生じました。その手段がタスクシフト・シェアです。
医師の働き方改革の全体像については、【2024年施行】医師の働き方改革とは?でも扱っています。
クリニックで進められるタスクシフト
病院と診療所では、使える手段が違います。診療所の規模で現実的に取り組める領域を整理します。
1. 医師事務作業補助者への文書業務のシフト
最も効果が出やすい領域です。診断書、診療情報提供書、主治医意見書、各種証明書——文書業務は医師の時間を最も食う一方、下書きまでは医師以外でも進められます。
医師の役割を「ゼロから書く」から「確認して署名する」に変えられれば、1件あたりの所要時間は大きく変わります。
注意点は、記載内容の責任は医師にあるという点です。補助者が作成した内容を医師が確認するという流れを、必ず担保してください。
2. 看護師への業務移管
診療所で実施しやすいのは次のような業務です。
- 予診・問診の聴取と記録
- 検査の説明・結果説明の一次対応(医師の指示の範囲内)
- 服薬状況の確認
- 予防接種のスケジュール調整・案内
特定行為研修を修了した看護師であれば、手順書に基づいて特定行為を実施できます。ただし研修の受講には相応の期間と費用が必要なため、診療所単独での導入はハードルが高いのが実情です。まずは資格の範囲内でできる業務の棚卸しから始めるほうが現実的です。
3. 受付・医療事務への業務移管
問診票の事前記入案内、保険証確認、予約管理、書類の受け渡し。患者と医師が直接やり取りしなくても済む部分を切り出す発想です。
オンライン問診やWeb予約を導入すれば、この領域の一部は仕組み側に移せます。人に移すだけがタスクシフトではなく、システムに移せる業務はシステムへという選択肢も含めて考えると、選べる手が増えます。
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進めるときの実務ポイント
まず業務の棚卸しから
いきなり「これを任せる」と決めても定着しません。順序としては次のようになります。
- 医師が1日に何をしているかを書き出す — 診療、記録、文書、説明、調整、雑務
- 医師でなければできない業務に印をつける — 診断、処方判断、侵襲的処置など
- 印のない業務を、誰なら担えるか割り振る
- 手順を文書化する — 判断基準、医師に確認すべき条件、記録の残し方
- 一定期間試して見直す
3と4のあいだを飛ばすと失敗します。 手順が曖昧なまま任せると、担当者は判断に迷い、結局医師に確認が回ってきて、時間はむしろ増えます。
法的な範囲を確認する
各職種が実施できる業務は、それぞれの資格法で定められています。「忙しいから」を理由に資格の範囲を超えることは許されません。
判断に迷う業務については、厚生労働省が示しているタスク・シフト/シェアの推進に関する通知や、各職能団体の見解を確認してください。
記録の設計が定着を左右する
タスクシフトを進めると、「誰が何をしたか」の記録が重要になります。 医師の指示に基づく行為なのか、補助者が下書きしたものを医師が確認したのか——後から追えることが、質と安全の担保になります。
電子カルテを使っている場合は、入力者と確認者が記録に残る運用にしておくと、この点をシステム側で担保できます。紙の運用で属人的に回していると、担当者が変わるたびに引き継ぎコストが発生します。
小さく始めて広げる
一度にすべてを変えようとせず、効果が大きく、リスクが小さいものから着手するのが定石です。診療所であれば、まず文書業務の下書き、次に予診の聴取、という順序が取り組みやすい入り口になります。
よくある質問
Q. タスクシフトとタスクシェアはどう違いますか?
タスクシフトは医師の業務を他職種へ移すこと、タスクシェアは複数職種で分け合うことです。実務では「タスク・シフト/シェア」とまとめて使われます。
Q. 小規模なクリニックでもできますか?
できます。特定行為研修のような大がかりな取り組みでなくても、文書業務の下書き、予診の聴取、説明の一次対応など、資格の範囲内で移せる業務は少なくありません。
Q. 医師の働き方改革はクリニックにも適用されますか?
時間外労働の上限規制は、勤務医を雇用しているクリニックも対象です。非常勤医師を含めた労働時間の管理が必要になります。
Q. 何から始めればよいですか?
医師の1日の業務を書き出すことです。何にどれだけ時間を使っているかが見えないと、移すべき業務も決まりません。棚卸しなしに進めると、効果の薄い業務から手をつけることになりがちです。
Q. タスクシフトで診療報酬上の評価はありますか?
医師事務作業補助体制加算など、体制整備を評価する項目が設けられています。ただし施設基準を満たす必要があるため、要件を確認したうえで取得の可否を判断してください。
まとめ
タスクシフトとは、医師が担ってきた業務の一部を他職種へ移すこと、タスクシェアは複数職種で分け合うことです。背景には2024年4月から医師にも適用された時間外労働の上限規制があり、業務量そのものの見直しが避けられなくなりました。
診療所で取り組みやすいのは、文書業務の下書き、予診・問診の聴取、受付業務の切り出しの3領域です。人に移すだけでなく、オンライン問診やWeb予約のようにシステムへ移す選択肢も含めて考えると、手は増えます。
進め方の要点は3つ。業務の棚卸しから始めること、手順を文書化してから任せること、記録で誰が何をしたか追えるようにしておくこと。 とくに2つ目を飛ばすと、確認作業が医師に戻ってきて時間はむしろ増えます。
まずは医師の1日を書き出すところから。移せる業務は、思っているより多く見つかります。
参考
- 厚生労働省「医師の働き方改革」「タスク・シフト/シェアの推進について」
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
