給与明細に「ベースアップ手当」という項目を新設したクリニックが増えています。
これは一般的な賃上げのことではなく、診療報酬の「ベースアップ評価料」で得た収入を、
対象職員に配ったことを明細上で示すための手当として使われているものです。
紛らわしいのは、名前が似た3つが同時に動いていることです。
- ベースアップ(賃金水準そのものを上げること。ベア)
- ベースアップ評価料(診療報酬の点数。医療機関の収入側)
- ベースアップ手当(給与明細の項目。職員への支払い側)
この記事では、3つの関係を整理し、クリニックが手当として配るときに
決めておくべきことをまとめます。
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算定・届出のしかた(施設基準、点数、実績報告)は、ベースアップ評価料とは?令和8年度(2026)改定で確定した変更点・算定・届出で扱っています。本記事は、その収入を職員へどう配るかの側を扱います。
ベースアップ評価料は「収入」、ベースアップ手当は「支出」
2024年度診療報酬改定で、医療従事者の賃上げを目的とした
外来・在宅ベースアップ評価料と入院ベースアップ評価料が新設されました。
仕組みはシンプルです。
- 医療機関が施設基準を届け出る
- 患者一人あたりの点数として収入が増える
- 増えた収入を、対象職種の賃金改善に充てる
- 実績を報告する
つまり、評価料は「賃上げに使うことを条件に配られる収入」です。
使い道が紐づいているため、受け取っただけでは要件を満たしません。
「ベースアップ手当」は、この4を実行したことを明細上で見えるようにするための項目です。
法令や告示で名称が決まっているわけではありません。
「賃上げ手当」「処遇改善手当」と呼んでいる施設もあります。
対象になる職種、ならない職種
外来・在宅ベースアップ評価料の賃金改善の対象は、
主として医療に従事する職員です。具体的には看護職員、薬剤師、
その他医療関係職種(診療放射線技師、臨床検査技師、理学療法士、
管理栄養士、事務職員のうち医師事務作業補助者など)が挙げられます。
🔴 医師・歯科医師は対象外です。
また、事務職員のうち一般事務は対象外とされており、
「クリニックの全職員に一律で配る」という設計は要件から外れます。
⚠️ 対象職種の範囲は改定のたびに見直されます。
届出の時点で、その年度の施設基準を必ず確認してください。
「基本給等」で上げるのか、「手当」で上げるのか
ここが実務でいちばん迷うところです。
制度上、賃金改善は基本給・決まって毎月支払われる手当での引き上げが
基本とされています。一方で、賞与や一時金だけで配る形は評価されません。
| 配り方 | 制度上の扱い | 実務上のリスク |
|---|---|---|
| 基本給を上げる | 最も素直 | 下げられない。評価料が縮小しても戻せない |
| 毎月の固定手当(ベースアップ手当) | 認められる | 手当の性質を規程で定義しておく必要がある |
| 賞与・一時金のみ | 要件を満たさない場合がある | 実績報告で指摘され得る |
多くのクリニックが手当方式を採るのは、2つめの理由からです。
基本給を上げると、評価料の点数が将来変わっても引き下げられません。
手当なら、規程で「ベースアップ評価料の算定額に応じて支給する」と定義しておくことで、
制度の変動に合わせやすくなります。
⚠️ ただし、手当だからといって自由に減らせるわけではありません。
一度支給を始めた手当の減額は、労働条件の不利益変更に当たり得ます。
支給根拠を賃金規程に明記し、変動があり得ることを事前に周知しておくのが安全です。
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割増賃金の計算に入るかどうか
見落とされやすい論点です。
ベースアップ手当が毎月固定で支給される手当なら、
原則として時間外・深夜割増の算定基礎に含まれます。
労働基準法施行規則21条が除外を認めているのは、
家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当・
臨時に支払われた賃金・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金の7つだけです。
ベースアップ手当はここに入りません。
🔴 手当を新設したのに残業単価を据え置いていると、割増賃金の不足になります。
新設と同時に、時間単価の再計算をしてください。
2026年度改定で変わる点
2026年度の診療報酬改定では、ベースアップ評価料の仕組みが見直されています。
議論されている主な方向は次のとおりです。
- 入院ベースアップ評価料を、平均的な水準に基づいて入院基本料へ合算する方向
- 外来・在宅ベースアップ評価料は、継続的な賃上げを行う医療機関をより評価する仕組み
- 届出時の計画書提出を不要にするなど、事務手続きの簡素化
⚠️ すでに算定している医療機関でも、施設基準の届出をやり直す必要が生じる場合があります。
「継続して算定しているから何もしなくてよい」とは限りません。
改定年は、算定要件と届出スケジュールを必ず確認してください。
(改定内容は告示・通知で確定します。本記事の記載は方向性であり、
最終的な要件は厚生労働省の告示および地方厚生局の通知で確認してください。)
クリニックが決めておく5つのこと
① 対象者の範囲
施設基準の対象職種に沿って、誰に配るかを名簿で確定します。
対象外の職員に配ること自体は自由ですが、評価料の実績としては算入できません。
② 配分のルール
一律定額にするか、常勤換算の勤務時間に比例させるか。
非常勤への配分方法も先に決めます。
③ 賃金規程への記載
支給対象・支給額の決定方法・支給時期・変動の可能性を明記します。
就業規則(賃金規程)の変更は、労働者代表の意見聴取と周知が必要です。
常時10人以上を使用する事業場は、労働基準監督署への届出も要ります。
④ 給与計算への反映
明細項目の追加と、割増賃金の算定基礎への算入。ここを同時にやります。
⑤ 実績の記録
評価料の収入額と、実際に配った賃金改善額を突き合わせられる形で残します。
実績報告のときに、この記録がないと数字が作れません。
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よくある質問
Q. ベースアップ手当は社会保険料の算定に入りますか。
毎月固定で支払われる手当は、標準報酬月額の算定基礎に含まれます。
定時決定・随時改定の対象になる点に注意してください。
Q. パートにも配る必要がありますか。
対象職種に該当するなら、雇用形態を理由に除外する合理的な理由は通常ありません。
勤務時間に応じた配分にするのが一般的です。
Q. 評価料を算定していないクリニックが「ベースアップ手当」を作ってもよいですか。
名称は自由なので作れます。ただし紛らわしいので、
評価料と無関係な賃上げなら「賃上げ手当」など別の名称にするほうが混乱しません。
まとめ
ベースアップ手当は、法令で定義された手当ではなく、
診療報酬のベースアップ評価料で得た収入を職員へ配ったことを示す運用上の項目です。
押さえるのは次の3点です。
- 対象職種が決まっている。医師は対象外で、全員一律配布は要件から外れる
- 毎月固定の手当は割増賃金の算定基礎に入る。新設と同時に時間単価を直す
- 2026年度改定で仕組みが見直される。算定中でも届出のやり直しが必要になり得る
いちばん確実なのは、評価料の収入額と配った額を毎月突き合わせる表を1枚作っておくことです。
実績報告のときに、そのまま使えます。
参考
- 厚生労働省「令和6年度診療報酬改定について」(外来・在宅ベースアップ評価料、入院ベースアップ評価料)
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」
- 中央社会保険医療協議会 総会 資料
- 労働基準法 第37条、労働基準法施行規則 第21条
- 労働契約法 第9条・第10条(労働条件の変更)
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
