「医療は消費税が非課税」と覚えていると、健康診断や予防接種の料金設定でつまずく。
消費税法で非課税になるのは、健康保険法などに基づく「療養」や「医療」であり、クリニックの売上がすべて非課税になるわけではない。
企業健診、任意の予防接種、生命保険会社に出す診断書、院内で売るサプリメント。
こうした売上は、保険診療と同じ窓口で受け取っていても、消費税の扱いが違う。
さらに2026年10月1日には、インボイス制度の経過措置が変わる。
2割特例の終了、免税事業者からの仕入れの控除割合の引下げ、控除できる仕入れ額の上限の引下げの3点だ。
この記事では、クリニックの売上の課税・非課税を判定表で整理し、10月の変更を受けて院長が確認しておくことをまとめる。
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課税か非課税かを分ける考え方
消費税は、事業者が国内で対価を得て行う取引に原則として課税される。
そのうえで、社会政策的な配慮から非課税とされる取引が、消費税法別表第二に列挙されている。
医療に関係するのは、別表第二第6号の「医療等の給付」だ。
国税庁の消費税法基本通達6-6-1は、健康保険法や国民健康保険法などに基づく療養の給付、後期高齢者医療、生活保護の医療扶助などの公費負担医療、労災保険や自賠責保険の対象となる療養を非課税の範囲として挙げている。
判断の軸は、「公的な制度に基づく療養や医療かどうか」である。
国税庁のタックスアンサーも、美容整形や差額ベッドの料金、市販の医薬品の購入は非課税に当たらないと明記している。
なお、国民健康保険料の滞納などで資格証明書により受診し、患者が医療費を全額支払う場合でも、国民健康保険法に基づく診療なので非課税になると、国税庁の質疑応答事例で示されている。
クリニックの売上の課税・非課税判定表
国税庁の通達・質疑応答事例と厚生労働省の通知で確認できる範囲で、クリニックの主な売上を整理した。
「原則」としたものは、契約内容や書類の種類によって扱いが変わりうるので、顧問税理士と確認してほしい。
| 売上の種類 | 消費税の扱い | 根拠・補足 |
|---|---|---|
| 保険診療(一部負担金・保険者請求分) | 非課税 | 別表第二第6号、基本通達6-6-1 |
| 公費負担医療、労災保険・自賠責保険の療養 | 非課税 | 基本通達6-6-1 |
| 保険診療として算定する文書料(診療情報提供料など) | 非課税 | 診療報酬として算定する療養の一部 |
| 院内処方の保険薬剤 | 非課税 | 基本通達6-6-2(療養としての医薬品の給付) |
| 選定療養の「特別の料金」(長期収載品など) | 課税 | 厚生労働省が長期収載品の特別の料金は課税対象と明示 |
| 差額ベッド(特別の療養環境の室料) | 課税 | タックスアンサーNo.6201。ただし助産に係る入院は非課税 |
| 自由診療(美容医療、自費のED・AGA治療など) | 課税 | 公的な療養に当たらない |
| 健康診断・人間ドック(個人・企業からの依頼) | 原則課税 | 療養の給付に当たらない |
| 自治体や保険者から委託を受けた健診 | 原則課税 | 委託契約の対価。契約書の消費税の記載を確認 |
| 妊娠の有無の判定、妊婦健診、産後2か月以内の母体の回復検診 | 非課税 | 別表第二第8号(助産)、基本通達6-8-1 |
| 任意の予防接種(インフルエンザの自費接種など) | 原則課税 | 療養の給付に当たらない |
| 市町村から委託を受けた定期予防接種の委託料 | 原則課税 | 市町村への役務の提供の対価 |
| 保険外の診断書・証明書の文書料(生命保険会社用など) | 原則課税 | 療養に当たらない。労災・自賠責の請求に関わる書類は個別に確認 |
| 市販薬、サプリメント、化粧品などの物品販売 | 課税 | 基本通達6-6-2 |
| 車椅子など一定の身体障害者用物品の販売 | 非課税 | 別表第二第10号 |
| 産業医の報酬(医療法人が勤務医を派遣して受け取る委託料) | 課税 | 国税庁質疑応答事例「産業医の報酬」 |
| 産業医の報酬(個人の開業医が受け取るもの) | 原則不課税 | 同事例。原則として給与収入となるため |
このうち誤りやすい健康診断、予防接種、助産を以下で補足する。
健康診断の消費税で迷いやすい3つの場面
企業健診は取引先が「仕入れ」として扱う
雇入時健診や定期健康診断を企業から受託すると、その料金は企業にとって課税仕入れになる。
取引先の企業が一般課税の課税事業者であれば、クリニックの請求書がインボイス(適格請求書)かどうかで、企業側の仕入税額控除の額が変わる。
企業健診や産業医契約の比率が高いクリニックほど、インボイス登録の有無が取引条件に影響しやすい。
健診で所見が見つかり、保険診療に切り替わる場合
健康診断そのものは療養ではないので、原則として課税売上になる。
健診の結果、所見があって後日あらためて保険診療で詳しく調べたり治療したりした場合、その保険診療は非課税だ。
同じ患者でも、健診として受け取った料金と、保険診療として受け取った料金は分けて考える。
会計システム上も、健診料と保険診療の一部負担金を同じ科目にまとめないようにしておくと、申告時の集計が楽になる。
妊婦健診は「助産」として非課税
産婦人科やレディースクリニックで注意したいのが、妊婦健診だ。
消費税法別表第二第8号の「助産」に係る資産の譲渡等は非課税で、基本通達6-8-1は次のものを挙げている。
- 妊娠しているか否かを調べること
- 妊娠が判明した時以降の検診、入院
- 分娩の介助
- 出産の日以後2か月以内に行われる母体の回復検診
- 新生児に係る検診および入院
「健診は課税」とひとくくりにすると、妊婦健診まで課税売上に入れてしまう。
さらに、助産に係る入院の差額ベッド料や特別給食費は、通常の療養と違って全額が非課税になると基本通達6-8-3で示されている。
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予防接種の消費税
予防接種は、病気の治療ではなく予防を目的とした行為なので、療養の給付には当たらない。
そのため、患者が自費で受けるインフルエンザなどの任意接種は、原則として課税売上になる。
市町村から委託を受けて行う定期接種は、市町村から委託料を受け取る形になる。
この委託料は、クリニックが市町村に予防接種という役務を提供した対価であり、課税の対象と整理されている。
新型コロナワクチンの個別接種の委託料についても、医療機関の課税売上になると整理され、日本医師会から医療機関向けに周知された経緯がある。
委託料の単価に消費税相当額が含まれているかは、自治体の委託契約書で確認しておきたい。
課税売上1,000万円の判定と、非課税売上が多いクリニックの注意点
消費税の納税義務があるかどうかは、基準期間(個人は前々年、法人は原則として前々事業年度)の課税売上高で判定する。
課税売上高が1,000万円以下なら、原則として納税義務が免除される。
ただし、次の場合は1,000万円以下でも納税義務は免除されない。
- インボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)の登録を受けている
- 特定期間(個人は前年1月から6月まで)の課税売上高が1,000万円を超えている(給与等の支払額で判定することもできる)
- 課税事業者選択届出書を提出している
ここでいう課税売上高には、保険診療の非課税売上は含まれない。
自由診療、健診、予防接種、文書料、物品販売などを合計して判定する。
保険診療中心のクリニックでも、健診や予防接種の受託が増えると1,000万円を超えることがあるので、年に一度は集計しておきたい。
課税事業者になった場合、保険診療の非課税売上が大きいクリニックは、課税売上割合が95%を大きく下回る。
一般課税では、仕入れに含まれる消費税を全額は控除できず、個別対応方式か一括比例配分方式で計算することになる。
保険診療の非課税売上と控除対象外消費税の関係は「保険診療の非課税売上しかないクリニックも消費税について知っておくべきこと」、一般課税と簡易課税の選び方は「クリニックで納める消費税は原則課税と簡易課税どちらで計算するとお得?」で解説している。
2026年10月に変わるインボイス制度の経過措置
令和8年度税制改正により、2026年4月に消費税法等が改正された。
クリニックに関係するのは、次の3点だ。
| 項目 | 2026年9月30日まで | 2026年10月1日以降 |
|---|---|---|
| 2割特例 | 個人・法人とも適用可 | 2026年9月30日の属する課税期間で終了。個人事業者は令和9年分・令和10年分に「3割特例」を適用可。法人は適用不可 |
| 免税事業者などからの仕入れの控除割合 | 仕入税額相当額の80% | 70%(2028年9月30日まで)→50%(2028年10月1日〜2030年9月30日)→30%(2030年10月1日〜2031年9月30日) |
| 経過措置を使える仕入れ額の上限 | 1つの相手からの課税仕入れが年10億円まで | 年1億円まで(2026年10月1日以後に開始する課税期間から) |
2割特例の終了と3割特例
2割特例は、免税事業者がインボイス登録をしたことで課税事業者になった場合に、納付税額を売上税額の2割にできる特例だ。
国税庁によると、この2割特例は2026年9月30日までの日の属する課税期間で終了する。
個人事業者の開業医には、令和9年分と令和10年分について、納付税額を売上税額の3割にできる「3割特例」が設けられた。
主な要件は、個人事業者であること、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であること、インボイス登録を受けていることだ。
医療法人は3割特例を使えない。
免税事業者などからの仕入れの控除割合
インボイス発行事業者でない相手からの仕入れについて、一定割合を控除できる経過措置は、控除割合が80%から70%に下がる。
どちらの割合を使うかは、課税仕入れの時期で判断する。
国税庁のQ&Aでは、役務の提供は原則としてその役務の全部が完了した日、商品の仕入れは原則として引渡しの日が課税仕入れの時期とされている。
9月から続いている業務委託でも、完了が10月以降なら70%で計算することになる。
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インボイス登録したクリニックが次にやること
一般課税で申告しているクリニックと、2割特例を使っているクリニックでは、やることが違う。
国税庁の資料に沿って、課税期間ごとに整理する。
| 対象 | 令和8年分・2026年中の課税期間 | 次の課税期間 |
|---|---|---|
| 個人の開業医(2割特例を使ってきた) | 令和8年分は2割特例を適用可 | 令和9年分・令和10年分は要件を満たせば3割特例、または一般課税・簡易課税 |
| 医療法人(12月決算の例) | 令和8年12月期は2割特例を適用可 | 令和9年12月期以降は一般課税か簡易課税。簡易課税は令和9年12月期の確定申告期限までの届出で同期から適用可 |
| 医療法人(その他の決算期) | 2026年9月30日を含む課税期間まで2割特例を適用可 | その翌課税期間から一般課税か簡易課税 |
2割特例や3割特例の適用を受けた翌課税期間に簡易課税を選ぶ場合は、その課税期間の確定申告期限までに簡易課税制度選択届出書を出せば、その課税期間から適用できる特例が設けられている。
通常の「課税期間の初日の前日まで」より遅く出せるが、期限を過ぎると使えないので早めに判断したい。
確認しておきたいことをチェックリストにまとめる。
- 直近の課税期間の末日が、2026年9月30日より前か後か
- 医療法人か個人事業者か(3割特例の対象は個人事業者のみ)
- 基準期間の課税売上高が1,000万円以下か
- 一般課税と簡易課税のどちらが有利か(課税売上割合と設備投資の予定も含めて試算する)
- 簡易課税を選ぶ場合の届出書の提出期限
- 免税事業者との取引(個人の業者への外注、個人の講師など)の洗い出しと、年間の取引額
- 10月1日をまたぐ業務委託の完了日
- 健診・予防接種の委託契約書に記載された消費税の扱い
免税事業者のままのクリニックも、無関係ではない。
企業健診や産業医契約の取引先が一般課税の課税事業者の場合、取引先の控除割合は2026年10月から70%になり、段階的に下がっていく。
取引先から登録の有無を問われたときに備えて、企業向け売上の規模を把握しておくと判断しやすい。
よくある質問
Q1. 健康診断の料金は税込みで表示すべきか
事業者が消費者に対してあらかじめ価格を表示する場合は、消費税額を含めた税込価格の表示が義務付けられている(総額表示義務)。
自費の健診料金を院内掲示やWebサイトで示すときは、「11,000円(税込)」「11,000円(税抜価格10,000円)」のように、税込価格が分かる形で表示する。
口頭で伝える価格は総額表示義務の対象外とされている。
Q2. 保険診療しかしていなくても、インボイス登録は必要か
保険診療は非課税売上なので、インボイスを交付する場面がほとんどない。
課税売上が少なく、企業健診などの取引先から求められていないのであれば、登録を急ぐ理由は乏しい。
ただし登録を受けると、課税売上高が1,000万円以下でも納税義務が生じるので、登録するかどうかは顧問税理士と試算してから決めたい。
Q3. 定期接種の委託料も課税売上に含めて1,000万円を判定するのか
委託料は課税の対象と整理されているため、課税売上高の集計に含めて判定する。
接種数が多い年は、翌々年(特定期間の条件次第では翌年)の納税義務に影響するので、年度ごとの委託料の合計を記録しておくとよい。
まとめ
- 消費税が非課税になるのは、健康保険法などに基づく療養や医療、助産などに限られる
- 健康診断、任意の予防接種、保険外の診断書、自費の物品販売は、原則として課税売上になる
- 妊婦健診や産後の母体の回復検診は「助産」として非課税になる
- 2割特例は2026年9月30日の属する課税期間で終了し、個人事業者のみ令和9年分・令和10年分に3割特例がある
- 免税事業者などからの仕入れの控除割合は、2026年10月1日から70%に下がる
健診や予防接種を増やすほど、課税売上の集計と科目の分け方が重要になる。
売上の区分を日々の会計で分けておけば、10月以降の申告方法の判断もしやすくなる。
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参考
- 国税庁「No.6201 非課税となる取引」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6201.htm
- 国税庁「消費税法基本通達 第6節 医療の給付等関係」 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shohi/06/06.htm
- 国税庁「消費税法基本通達 第8節 助産に係る資産の譲渡等関係」 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shohi/06/08.htm
- 国税庁 質疑応答事例「自己の負担で行う保険診療」 https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/07/01.htm
- 国税庁 質疑応答事例「産業医の報酬」 https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/13/01.htm
- 国税庁「No.6501 納税義務の免除」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6501.htm
- 国税庁「No.6902 「総額表示」の義務付け」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6902.htm
- 国税庁「No.6401 仕入控除税額の計算方法」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6401.htm
- 国税庁「インボイス制度に関する令和8年度税制改正について」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice-review/pdf/0026002-095.pdf
- 国税庁「令和8年度税制改正特集」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice-review/index.htm
- 国税庁「インボイス制度に関するQ&A 問113-3」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/113-3.pdf
- 厚生労働省「後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)の選定療養について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_39830.html
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オプション機能
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この記事は、時点の情報を元に作成しています。
