クリニックの医療安全管理指針|2026年4月の改正で書き足す項目、無床診療所の判定表、ひな形

医療安全管理指針は、開業時に作ったきり見直していないクリニックが多い文書です。ところが2026年3月31日、厚生労働省は指針に書く内容を定めた通知を差し替えました(4月1日施行の省令改正にあわせたもの)。死亡事例が医療事故に当たるかを判断する手順と、管理者へ報告すべき事例の範囲を、無床診療所も指針に書く必要があります。

この記事は、無床診療所の院長・事務長に向けたものです。指針に盛り込む8項目のチェックリスト、無床診療所で委員会や研修がどこまで求められるかの判定表、そのまま直して使える指針の骨子を順に載せます。開業準備中なら、ひな形から作り始めてください。

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目次
  1. 医療安全管理指針はすべてのクリニックに作成義務がある
  2. 2026年4月の改正で医療安全管理指針に書き足す項目
  3. 医療安全管理指針に盛り込む8項目のチェックリスト
  4. 無床診療所で委員会・研修・報告がどこまで必要かの判定表
  5. そのまま直して使える医療安全管理指針のひな形(骨子)
  6. 指針を作った後に揃える研修と報告の仕組み
  7. よくある質問
    1. 医療安全管理指針を作っていないと、どうなりますか
    2. 医療安全の研修は、院長が講師をするだけでもよいですか
    3. 2026年4月より前に作った指針は、作り直しですか
  8. まとめ
  9. 参考

医療安全管理指針はすべてのクリニックに作成義務がある

医療法第6条の12は、病院・診療所・助産所の管理者に、医療の安全を確保するための指針の策定や従業者への研修などを義務づけています。中身を定めているのが医療法施行規則第1条の11第1項で、無床診療所に求められるのは次の4つです。

  • 医療に係る安全管理のための指針を整備する(第1号)
  • 職員研修を実施する(第3号)
  • 事故報告などの改善のための方策を講じる(第4号)
  • 医療に係る安全管理に関する記録を整備する(第6号。2026年4月施行)

医療安全管理委員会(第2号)と医療安全管理者(第5号)は、病院と有床診療所に限られます。

同じ条の第2項では、院内感染対策・医薬品安全管理・医療機器安全管理の体制も求められ、医療安全とあわせて4つの体制が並びます(エックス線装置などを備える診療所は、診療用放射線の安全管理が5つ目に加わります)。医薬品安全管理責任者と医療機器安全管理責任者の配置は、それぞれ別の記事で扱います。

なお、労働安全衛生法の「安全衛生委員会」は、職員の労働災害を防ぐための別の仕組みです。名前が似ていますが、医療安全管理委員会とは根拠法も対象も違います。詳しくは「クリニックに安全衛生委員会は必要か」にまとめています。

2026年4月の改正で医療安全管理指針に書き足す項目

指針に書く内容は、長く平成19年の医政局長通知(医政発0330010号)が示してきました。2026年3月31日、これに代わる通知「病院等における医療の安全を確保するための措置について」(医政発0331第72号)が出ています。あわせて施行規則も改正され、2026年4月1日に施行されました(令和8年厚生労働省令第27号)。

無床診療所の指針に関わる変更は、「医療事故等発生時の対応に関する基本方針」に3つの記載が加わった点です。

新しく求められる記載 無床診療所での読み方
ア 報告すべき事例の範囲と報告手順。通知の別表1の事象を含め、別表2の事象も含めるよう努める 報告先は委員会ではなく管理者(院長)。別表1の事象を報告範囲に含め、別表2の事象も含めるよう努める
イ 死亡・死産事例について、医療事故に該当するかを判断するまでのプロセス。遺族から申出があったときに改めて判断し、結果を説明するプロセスも含める 院長が把握した死亡事例を誰がどう振り返るか、必要時にどこへ相談するかを書く
ウ イの判断の結果・理由・遺族への対応などを記録し、適切な期間を定めて保存する 記録の様式と保存期間を院内で決め、指針に書いておく

別表1には「回避する手段が普及している事象」として12項目が並びます。指針の報告範囲には12項目すべてを含めます。そのうち外来中心の無床診療所で関係しやすいのは、次のような事象です。

  • 薬剤などの投与経路の間違い
  • ハイアラート薬の過剰投与(インスリンの予定量の10倍以上の投与など)
  • 既知のアレルギー・禁忌の薬剤を投与したことによる死亡または後遺障害
  • 医療機器の誤使用・故障による死亡または後遺障害
  • 重大な検査結果の確認・伝達・フォローアップの失敗による死亡または後遺障害

イの「医療事故」は、医療法第6条の10が定める、提供した医療に起因する(または起因すると疑われる)予期しなかった死亡・死産です。在宅医療や看取りをしていなくても、外来の患者が受診後に亡くなる可能性はあります。改正後は、亡くなったと知った時点で誰がどう判断するかを、指針に先に書いておくことになります。通知は判断プロセスの例を別添で示していますが、医療機関の実情に応じて省略・追加してよいとしています。

医療安全管理指針に盛り込む8項目のチェックリスト

医政発0331第72号は、指針を次の8項目を文書化したものとしています。手元の指針と見比べてください。

チェック 項目 無床診療所での書き方のポイント
□ ① 安全管理に関する基本的考え方 個人の責任追及ではなく、仕組みで事故を防ぐ方針を1〜2文で
□ ② 委員会その他の組織に関する基本的事項 委員会は置かない(置く場合は書く)。院長が統括すること、職員の役割を書く
□ ③ 職員研修に関する基本方針 回数、内容、外部研修で代える場合の扱い、記録の残し方
□ ④ 事故報告等の改善のための方策に関する基本方針 インシデント・アクシデントを院長へ報告し、改善策を職員で共有する流れ
□ ⑤ 医療事故等発生時の対応に関する基本方針 改正で追加。報告すべき事例の範囲(別表1)、死亡事例の判断プロセス、判断記録の保存
□ ⑥ 患者との情報共有に関する基本方針 患者や家族から求めがあれば指針を閲覧できること
□ ⑦ 患者からの相談への対応に関する基本方針 相談の受付窓口と、相談したことで不利益を受けないこと
□ ⑧ その他医療安全の推進に必要な基本方針 指針の見直し時期など。高難度新規医療技術を行う場合はその扱い

平成19年通知に沿って作った指針は、①〜④と⑥〜⑧はそのまま使えることが多いはずです。手を入れるのは⑤です。旧通知では⑤に「報告すべき事例の範囲、報告手順を含む」としか書かれていなかったため、多くの指針はここが数行で終わっています。

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無床診療所で委員会・研修・報告がどこまで必要かの判定表

施行規則のただし書きと通知を、クリニックの形態別に並べると次のとおりです。

項目 無床診療所(院長1人) 無床診療所(職員あり) 有床診療所
指針の整備 必要 必要 必要(委員会で策定・変更)
医療安全管理委員会 不要 不要 必要。月1回程度の開催
医療安全管理者の配置 不要 不要 必要(2026年4月施行)
職員研修 年2回程度。院外の研修受講で代用できる 年2回程度+必要時。院外の研修受講で代用できる 年2回程度+必要時。院内で開催
研修の記録 受講日時、出席者、研修項目 開催(受講)日時、出席者、研修項目 同左
事故等の報告先 管理者への報告は実施しなくてもよい 管理者(院長) 医療安全管理委員会
安全管理に関する記録の整備 必要 必要 必要

院長1人の欄は、通知が「従業者が管理者1名しかいない場合」は委員会の開催や管理者への報告を実施しなくても差し支えないとしていることによります。ただし指針と研修、記録は省けません。

研修は、院内の事例を取り上げて職種をまたいで行うのが望ましいとされています。無床診療所は院外の研修受講で代えられるので、医師会や関係団体の研修を受けた職員が、内容を朝礼などで共有する形でも運用できます。誰がいつ何を受けたかを記録しておかないと、保健所の立入検査で実施したことを示せません。

そのまま直して使える医療安全管理指針のひな形(骨子)

8項目を、無床診療所向けに書き下した骨子です。〔 〕を自院の内容に置き換えてください。改正で加わった箇所は第5条にまとめています。

〔医療法人〇〇会〕〔〇〇クリニック〕医療安全管理指針

第1条(基本的考え方)
当院は、事故は個人の注意だけでは防げないという考えに立ち、職員全員で事例を報告し合い、仕組みを改善することで医療の安全を確保する。事例の分析は原因を明らかにするために行い、個人の責任を追及するためには行わない。

第2条(組織)
1 院長は、当院の医療安全管理を統括する。
2 当院は患者を入院させるための施設を有しないため、医療安全管理委員会を設置しない。委員会が行う業務は院長が行う。
3 院長は、〔医療安全の担当職員の氏名・職種〕に、報告の取りまとめと研修の記録を担当させる。

第3条(職員研修)
1 医療安全に関する研修を年2回程度実施し、患者に影響が出た事例が起きたときや指針を改訂したときは追加で行う。
2 院外の研修を受講した場合は、受講した職員が内容を他の職員に共有する。
3 研修の開催(受講)日時、出席者、研修項目を記録する。

第4条(事例の報告と改善)
1 職員は、インシデント(患者に影響がなかった、または軽微だった事例)とアクシデントを、〔報告様式〕により院長に報告する。
2 重大な事例は、発生後ただちに口頭で院長に報告する。
3 報告は診療録などの記録に基づいて作成する。
4 院長は報告を分析し、改善策を決めて職員に周知する。報告したことを理由に、職員を不利益に扱わない。

第5条(医療事故等発生時の対応)
1 院長に報告すべき事例は、次のとおりとする。
 〔例:通知の別表1に掲げる12の事象(投与経路の誤り、ハイアラート薬の過量投与、既知のアレルギー・禁忌薬の投与による死亡・後遺障害、医療機器の誤使用・故障による死亡・後遺障害、重大な検査結果の確認・伝達・フォローアップの失敗による死亡・後遺障害など)、別表2に掲げる事象、その他院長が定める事例〕
2 事故が発生したときは、患者の救命と安全の確保を最優先とし、院内で対応できないときは救急要請や他院への搬送を行う。
3 院長は、当院が把握した患者の死亡・死産事例について、〔振り返りの方法・時期〕により医療法第6条の10の医療事故に該当するかを判断する。判断に迷うときは、〔医療事故調査等支援団体・医療事故調査・支援センターの連絡先〕に支援を求める。
4 遺族等から医療事故ではないかとの申出があったときは、改めて該当性を判断し、その結果を遺族等に説明する。
5 前2項の判断の結果、理由、遺族等への対応は記録し、〔保存期間〕保存する。

第6条(患者との情報共有)
本指針は、患者・家族から求めがあれば閲覧に供する。〔院内掲示・ホームページへの掲載〕

第7条(患者相談への対応)
患者・家族からの相談は〔受付・担当者〕が受け付け、院長に報告する。相談したことで患者が不利益を受けないようにする。

第8条(その他)
1 本指針は〔毎年〇月〕に見直し、改正があれば職員に周知する。
2 医薬品・医療機器の安全管理、院内感染対策は、それぞれの手順書・計画・指針による。

附則 〔制定日〕制定 〔改訂日〕改訂

自治体や関係団体が配っているひな形も、多くは平成19年通知に沿って作られています。それを使う場合も、第5条に当たる部分は今回の通知と見比べて書き足してください。指針の末尾には制定日と改訂日を残し、いつの通知に合わせた版かが分かるようにします。

指針を作った後に揃える研修と報告の仕組み

指針は、研修と報告が回って初めて意味を持ちます。最低限、次の3つを用意しておきます。

  1. 報告様式。発生日時、場所、患者への影響、内容、その場の対応、改善案を書く1枚の用紙か、電子カルテ・共有フォルダのフォーム。書く手間が大きいと報告が出なくなるので、項目は絞ります。
  2. 研修の記録簿。日時、出席者(受講者)、研修項目、資料の保存場所。年2回の予定を先にカレンダーへ入れておくと漏れません。
  3. 死亡事例の振り返り記録。第5条の判断の結果と理由を残す用紙。該当なしと判断した場合も、判断したこと自体を記録します。

報告が集まったら、月1回の朝礼やミーティングで1件ずつ共有するだけでも、改善の仕組みとして機能します。報告件数が多いことは、安全文化が根付いている印として扱います。

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よくある質問

医療安全管理指針を作っていないと、どうなりますか

医療安全管理体制は保健所の立入検査で確認される項目です。指針や研修の記録が無ければ、指導の対象になります。開業準備中であれば、開設前に指針と報告様式を作り、最初の研修日を決めておくと、開設後の立入検査に慌てずに済みます。

医療安全の研修は、院長が講師をするだけでもよいですか

構いません。通知は研修の講師や形式を指定していません。院内で起きたインシデントを題材に院長が話す形でも、院外の研修を受けた職員が報告する形でも成り立ちます。どの形でも、日時・出席者・研修項目を記録してください。

2026年4月より前に作った指針は、作り直しですか

作り直す必要はありません。8項目の枠組みは変わっていないので、⑤「医療事故等発生時の対応」に、報告すべき事例の範囲、死亡事例の判断プロセス、判断記録の保存を書き足せば足ります。書き足したら改訂日を入れ、職員に周知します。

まとめ

  • 医療安全管理指針は無床診療所にも作成義務がある。委員会と医療安全管理者は不要
  • 2026年3月31日の通知(4月1日施行の省令改正に対応)で、指針の「医療事故等発生時の対応」に報告範囲と死亡事例の判断プロセス、その記録が加わった
  • 研修は年2回程度、院外の受講で代用でき、日時・出席者・項目を記録する
  • 既存の指針は第5条に当たる部分を書き足し、改訂日を入れて職員に周知する

参考

  • e-Gov法令検索「医療法」(第6条の10、第6条の12) https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000205
  • e-Gov法令検索「医療法施行規則」(第1条の11) https://laws.e-gov.go.jp/law/323M40000100050
  • 厚生労働省「病院等における医療の安全を確保するための措置について」(令和8年3月31日 医政発0331第72号) https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T260402G0160.pdf
  • 厚生労働省「医療法施行規則の一部を改正する省令の施行に伴う留意事項等について」(令和8年3月31日 医政地発0331第1号。別紙に「医療法施行規則の一部を改正する省令の公布等について」令和8年3月19日 医政発0319第1号) https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001687485.pdf
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提供形態

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