医薬品安全管理責任者は、病院だけでなく、無床の診療所にも配置が義務づけられています。院長1人と看護師数名のクリニックでも同じです。開業時に決めておかないと、保健所の立入検査で「責任者が配置されていない」「手順書が無い」と指摘を受けます。
この記事は、無床診療所の院長・事務長に向けて、誰を責任者にするか、何をそろえれば立入検査で困らないかを整理します。個別の薬剤の安全情報は扱いません。
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医薬品安全管理責任者は無床のクリニックにも配置義務がある
根拠は医療法第6条の12と、医療法施行規則第1条の11第2項第2号です。病院・診療所・助産所の管理者は、医薬品の安全使用のための責任者(医薬品安全管理責任者)を配置し、次の業務をさせなければなりません。
- 従業者に対する医薬品の安全使用のための研修
- 医薬品の安全使用のための業務手順書の作成と、手順書に基づく業務の実施
- 医薬品の安全使用に必要な情報の収集と、改善のための方策の実施
同じ第1条の11には、医療安全管理委員会の設置のように「病院と有床診療所に限る」と書かれた項目もあります。医薬品安全管理責任者の配置にはその限定がありません。外来だけのクリニックでも、院外処方だけのクリニックでも対象です。
医薬品安全管理責任者になれる人の判定表(院長の兼任・職種・常勤)
要件は、平成19年3月30日の厚生労働省医政局長通知(医政発第0330010号)に書かれています。医薬品に関する十分な知識を持つ常勤職員で、次のどれかの資格を持っていることです。
- 医師、歯科医師、薬剤師、看護師
- 助産師(助産所に限る)
- 歯科衛生士(主として歯科医業を行う診療所に限る)
管理者との兼務については、通知は「病院においては管理者との兼務は不可」としています。診療所は対象外なので、院長が自ら責任者になれます。候補ごとに当てはめると次のとおりです。
| 候補 | なれるか | 判断の理由 |
|---|---|---|
| 院長(常勤の医師) | なれる | 兼務の禁止は病院だけ。小規模のクリニックではこれが最も多い形 |
| 常勤の勤務医 | なれる | 医師・常勤の両方を満たす |
| 常勤の看護師 | なれる | 看護師は資格要件に入っている |
| 常勤の准看護師 | 保健所に確認する | 通知が挙げるのは「看護師」で、准看護師は書かれていない |
| 常勤の薬剤師 | なれる | 院内に薬剤師がいればいちばん自然な選択 |
| 非常勤の医師・看護師 | なれない | 常勤職員であることが要件 |
| 医療事務・事務長 | なれない | 資格要件に当たらない |
| 歯科衛生士 | 歯科診療所ならなれる | 医科の診療所では対象外 |
院長が兼ねる場合でも、日々の在庫管理や研修の準備は看護師やスタッフに任せて構いません。責任者として名前を置くのは1人で、作業の分担は手順書に書いておきます。
医療機器安全管理責任者と同じ人が兼ねることもできます(医療機器側の要件や保守点検計画は、医療機器安全管理責任者の記事で整理しています)。
医薬品の安全使用のための業務手順書に入れる項目チェックリスト
業務手順書は、医薬品の取扱いに関する業務の手順を文書にしたものです。前述の通知は、病院等の規模や特徴に応じて、次の6項目を含めるよう求めています。各項目の右列は、無床診療所で書くことの例です。
| チェック | 手順書の項目 | 無床診療所で書くことの例 |
|---|---|---|
| □ | 医薬品の採用・購入 | 新しく採用する薬の決め方、名称や外観が似た薬を避ける確認、納品時に品目・規格が発注どおりかの確認 |
| □ | 医薬品の管理 | 保管場所、温度管理の記録、使用期限の確認、麻薬・向精神薬・毒薬・劇薬など法令で管理が決まっている薬の保管方法 |
| □ | 投薬指示から調剤まで | 院内処方の場合の処方の書き方、調剤と鑑査の手順。院外処方のみなら処方箋の記載と疑義照会への対応 |
| □ | 与薬・服薬指導 | 注射・点滴の実施前の患者確認、投与内容の記録、アレルギー歴・副作用歴の確認 |
| □ | 安全使用に関する情報の扱い | 添付文書の改訂や安全性情報の受け取り方と、職員への伝え方 |
| □ | 他施設との連携 | 紹介先の病院や薬局への処方内容の伝え方、薬局からの問い合わせへの対応 |
一から書くのは大変なので、厚生労働省の研究班が作った「医薬品の安全使用のための業務手順書」作成マニュアル(平成30年改訂版)を下敷きにします。ただし、このマニュアルは平均的な病院を想定しています。病棟、手術・麻酔部門、輸血部門などの章は、無床診療所では使いません。医薬品の採用・購入・管理(第1〜3章)、外来患者への医薬品使用、医薬品情報の収集・管理・周知、他施設との連携、在宅患者への医薬品使用(往診をする場合)、重大な有害事象の予防・発生時の対応(第20・21章)、教育・研修の各章を拾えば足ります。
手順書は作って終わりではありません。立入検査では、次の2点もあわせて確認されます。
- 採用薬や院内の流れが変わったときに、手順書を見直しているか
- 医薬品安全管理責任者が、職員の業務が手順書どおりに行われているかを定期的に確かめ、その確認内容を記録しているか
後者は通知に明記されています。年に一度、手順書の項目ごとに「守られているか」を責任者が点検し、日付と結果を残す運用にしておくと、見直しの記録も兼ねられます。
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医薬品安全管理責任者が行う研修の回数・内容と記録の残し方
通知は、医薬品の安全使用のための研修の回数を定めていません。自院で必要と判断したときに行う扱いです。ほかの医療安全の研修と一緒に行ってもよいとされています。
研修に含める内容は次の3つです。
- 医薬品の有効性・安全性に関する情報、使用方法に関する事項
- 医薬品の安全使用のための業務手順書に関する事項
- 医薬品による副作用等が発生した場合の対応(施設内での報告、行政機関への報告など)
医療安全全般の職員研修は、保健所の手引きでも年2回程度が目安とされています(高崎市保健所「無床診療所自主点検の手引き」など)。医薬品の研修はこれと同じ回に組み込むのが手間の少ないやり方です。新しい注射薬を採用したときや、手順書を変えたときは、その都度短い説明会を開いて記録に残します。
記録には、開催または受講の日時、出席者、研修項目を残します。欠席者に内容を伝えたことも残しておくと、保健所の点検項目に沿います。次のひな形をそのまま使えます。
| 記録する項目 | 記入例 |
|---|---|
| 開催日時 | 2026年10月15日(木)13:00〜13:30 |
| 研修の名称 | 医療安全研修(第2回) 医薬品の安全使用 |
| 講師・実施者 | 医薬品安全管理責任者 院長 ○○ |
| 研修項目 | 手順書の改訂点(冷所保管薬の温度記録)、ハイリスク薬の取り違え事例、副作用発生時の院内報告の流れ |
| 対象とした医薬品 | ○○注(今回採用した薬など。ある場合) |
| 出席者 | 氏名を列挙、または署名欄 |
| 欠席者への伝達 | 資料を配布し、○月○日に口頭で説明(伝達した者・日付) |
製薬会社の説明会や、医師会などの外部研修を受けた場合も、同じ項目で記録を残しておきます。
医薬品の安全情報の集め方と職員への周知
医薬品安全管理責任者は、添付文書の情報のほか、製造販売業者、行政機関、学術誌などから情報を広く集めて管理し、必要なものを関係する職員に確実に伝えます。いまの規則には、次の3つの使用に関する情報を集めることも明記されています。
- 承認を受けていない医薬品の使用
- 承認された用法・用量・効能と異なる使い方(適応外使用)
- 禁忌に該当する医薬品の使用
小さなクリニックで現実的なのは、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の「PMDAメディナビ」に責任者が登録し、届いた安全性情報のうち自院の採用薬に関係するものだけを朝礼や回覧で伝える方法です。福岡県の診療所立入検査の調査票でも、情報収集の手段としてメディナビの活用が挙げられています。
副作用を見つけたときの報告も手順書に入れておきます。医薬品医療機器等法第68条の10第2項は、医師・薬剤師などの医薬関係者に対し、副作用等の発生を知り、保健衛生上の危害の発生や拡大を防ぐ必要があると認めたときは、厚生労働大臣に報告するよう義務づけています。
保健所の立入検査で医薬品安全管理について見られる点
保健所の立入検査は医療法第25条第1項に基づくもので、診療所では自主点検表を事前に出させる自治体もあります。福岡県の令和8年度の診療所向け調査票を見ると、医薬品の安全使用について確認されるのは次の点です。
| 確認される点 | 用意しておくもの |
|---|---|
| 責任者を配置しているか、資格と常勤か | 責任者の氏名・資格・勤務形態が分かる書類(任命した記録) |
| 研修を行い、内容を記録しているか | 研修記録(昨年度の回数、直近の開催日を答えられるように) |
| 研修に手順書・副作用時の対応が含まれているか | 研修の資料・項目の記録 |
| 文書化した業務手順書があるか、必要な項目を含むか | 業務手順書(6項目) |
| 手順書を作成後も見直しているか | 改訂履歴 |
| 手順書どおりの業務を定期的に確かめ、記録しているか | 責任者による確認の記録 |
| 安全性情報を集め、職員に伝えているか | 情報の受け取り方法と、周知した記録 |
2026年4月1日からは、医療法施行規則第1条の11第1項第6号として「医療に係る安全管理に関する記録を整備すること」が加わりました。無床診療所も対象です。厚生労働省の通知(令和8年3月31日 医政地発0331第1号)は、これを「各関連通知等に定められている医療安全に関する記録の保存に関する規定を遵守すること」と説明しています。研修記録や手順書の確認記録は、これまで以上に「残っていること」が問われると考えておきます。
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よくある質問
院長1人と看護師だけのクリニックでも、医薬品安全管理責任者は必要ですか
必要です。医療法施行規則の医薬品安全管理責任者の規定には、病院や有床診療所に限るという条件がありません。院長が兼ねることができるので、院長を責任者とし、手順書・研修・記録をそろえるのが一般的です。
医薬品安全管理責任者の研修は年に何回行えばよいですか
通知は研修の回数を定めていません。医療安全全般の研修(年2回程度が目安)と同じ回に医薬品の内容を入れ、新しい薬を採用したときや手順書を変えたときに追加で行うと、記録が途切れません。
医薬品安全管理責任者と医療機器安全管理責任者は同じ人でよいですか
よいです。医療機器側の通知が、医療機器安全管理責任者は医薬品安全管理責任者などの他の役職と兼ねてよいとしています。院長が両方を兼ねる診療所も多くあります。
まとめ
- 医薬品安全管理責任者は、無床診療所にも配置が必要。院長が兼ねてよい
- なれるのは常勤の医師・歯科医師・薬剤師・看護師など。非常勤や事務職は不可
- 業務手順書は6項目を押さえ、作成マニュアル(平成30年改訂版)から外来向けの章を拾って作る
- 研修は回数の決まりはないが、日時・出席者・項目を記録する
- 2026年4月から医療安全の記録整備が規則に加わった。手順書の確認記録まで残しておく
参考
- e-Gov法令検索「医療法」(第6条の12、第25条) https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000205
- e-Gov法令検索「医療法施行規則」(第1条の11) https://laws.e-gov.go.jp/law/323M40000100050
- e-Gov法令検索「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(第68条の10) https://laws.e-gov.go.jp/law/335AC0000000145
- 厚生労働省「良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律の一部の施行について」(平成19年3月30日 医政発第0330010号) https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/i-anzen/hourei/dl/070330-1.pdf
- 厚生労働省「医薬品の安全使用のための業務手順書作成マニュアルの改訂について」(平成30年12月28日 事務連絡)と別添「医薬品の安全使用のための業務手順書」作成マニュアル(平成30年改訂版) https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/i-anzen/hourei/dl/181228-1.pdf / https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/i-anzen/hourei/dl/181228-2.pdf
- 厚生労働省「医療機器に係る安全管理のための体制確保に係る運用上の留意点について」(令和3年7月8日 医政総発0708第1号・医政地発0708第1号・医政経発0708第2号) https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000898766.pdf
- 厚生労働省「医療法施行規則の一部を改正する省令の施行に伴う留意事項等について」(令和8年3月31日 医政地発0331第1号) https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T260402G0170.pdf
- 福岡県「令和8年度 福岡県診療所立入検査自主点検調査票」 https://www.pref.fukuoka.lg.jp/uploaded/attachment/288333.pdf
- 高崎市保健所「医療安全・管理のための無床診療所自主点検の手引き」(令和7年改訂) https://www.city.takasaki.gunma.jp/uploaded/attachment/34084.docx
特徴
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