昨今、少子高齢化が進み、業界問わず後継者不足が深刻化していることから、第三者を後継者とする「事業承継」を検討する経営者が増えています。クリニックも然りで、新規開業ではなく承継開業を選ぶ開業医が増えつつあります。しかし、承継開業には、「患者やスタッフが離れる可能性がある」「紙カルテから電子カルテへの移行でつまずきやすい」などの課題があります。そこで今回、こうした課題をうまくクリアするためのポイントについて、医療機関特化型の事業承継・M&A仲介サービスを提供している、『エムステージマネージメントソリューションズ』代表取締役・田中宏典さんにお話を伺いました。
Q. 承継時に前院長が紙カルテを使っているケースはありますか?
田中様「紙カルテのクリニックはまだ多いので、承継を機に電子化が必要になると考えておくといいでしょう。承継を考え始めた時点で院長先生がご高齢だったケースはもちろん、“そのうち承継するから、自分の代で電子化しなくていいだろう”と最初から電子化を選択肢に入れていなかったケースも多いです。
承継を機に電子カルテを導入する場合、クリニックを引き継いだ先生だけでなく、スタッフも新しいシステムを覚えなければならないため、切り替えの負担は大きいです。特に、長年勤務しているスタッフに新しいことを覚えてもらう場合、相当な時間を要します。前院長先生が70代の場合、スタッフは60代以上であることも多いため、移行に対応できそうかどうかを考えることも重要です。
実際、電子化をきっかけに離職してしまうスタッフも一定数存在します。そのため、リプレイスのプロセスには特に慎重になる必要があります。ドラスティックにガラッと変えるのではなく、入念に準備して進めていくことが望ましいと考えられます」
Q. 紙カルテから電子カルテに乗り換えるにあたって、操作方法のマスター以外に課題となることは?
田中様「患者さんのデータを入れ直す作業には時間がかかりますが、しっかりと伴走してくれるベンダーさんを選べば、比較的スムーズに移行できるのではないかと思います。電子カルテへの切り替え後は、紙カルテよりも利便性が高くなることは間違いないので、いかに乗り換えのフェーズを乗り切るかが重要です」
Q. 承継をきっかけにスタッフが離職することはありますか?
田中様「承継した院長が診療や業務のやり方を一気に変えてしまうと、前の院長先生との違いについていけず、スタッフが辞めてしまうことがあります。電子カルテへの切り替えについていけないケースもその一つですが、年齢的に若くてIT化に抵抗がないスタッフであったとしても、新しい院長がスタッフ一人ひとりときちんと向き合ってくれていないと感じた際には、離職につながるケースも少なくありません。そのような離反を防ぐためにも、承継後のコミュニケーションは非常に重要です。
また、承継後に給与などの雇用条件が変わることも離職の原因となり得ます。法人を引き継ぐ場合は、雇用条件も引き継がれるため問題ありませんが、個人経営の場合は、新たに雇用契約を結ぶことになるので、雇用条件も双方が納得できる最適解を見つけることが大切です」
Q. 患者さんが離れていくこともありますか?
田中様「診療方針を大きく変える場合や、これまで特殊な診療をしていた場合、前の院長先生が非常に有名だった場合などには患者さんが離れやすくなってしまうことがあるので注意が必要です。
一方で、私たちのお客様は、9割以上の患者さんが残るケースも多く、新しい院長になったことで新たに来院する患者さんもいるので、結果として、私たちがこれまでに支援したケースの約9割は、引き継ぎ前と比べて引き継ぎ後の売上が増えています」
Q. 承継後も変えないほうがいいことと、変えてもいいことを教えてください。
田中様「基本的には、最初の6~12カ月程度は大きな変化は加えないことが重要です。診療スタイルや予約方法などの変更は、患者さんとの信頼関係ができてから徐々に変えていくのが望ましいでしょう。
たとえば診療時間を増やすなど、患者さんにとってプラスになることは積極的におこなってもいいと思います。承継前には、前の院長が診療時間を“午前中のみ”などに抑えているケースがあるので、時間帯を拡張することは患者さんにとってメリットとなる場合があります。
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齢の患者さんが多い場合は、電話予約とオンライン予約を併用するなど、従来の方法を残しながら新しい仕組みを加えることも一つの手段としておすすめです。」
Q. 御社で仲介した案件のうち、円滑に承継できた具体的な事例を教えてください。
田中様「福岡県内の内科・小児科クリニックの承継事例は印象に残っています。
引き継がれたのが救急救命科の先生で、小児科の経験はまったくなかったのですが、条件がよかったことから承継を希望されていました。この案件は、1階がクリニックで2階が前院長先生のご自宅だったので、承継する側としては“やりにくい”と感じる面があると思うのですが、この先生はそれを逆手にとって、前院長と親子のような関係を築きながら承継を進めていかれました。
引き継ぐ半年前からクリニックで働き始めて、週に2日、小児科の診察に同席して勉強されていました。そして承継当日には、職員さんにも参加してもらって、前院長のお疲れ様会を開催されたのですが、お酒が飲めない前院長用にジュース、そして新しい先生の生まれ年のワインを収めたワインセラーを準備して、“二人三脚でやっています”というストーリーまでつくっていらっしゃいました。
さらに、承継の年がクリニックオープン30年の節目だったのですが、31年目を迎えた年にはサーティワンアイスクリームを買ってきて、患者さんに配るなどのユニークなイベントも実施されていました。そのほか、診察券を2枚(2人分)かざすとジュースが無料で2本出てくる自動販売機を設置して、患者さん同士のコミュニケーションを生み出すなどの画期的な仕掛けも次々実現される方で、地域のみなさんからも受け入れられています」
Q. 反対に、想定通りに進まなかった事例はありますか?
田中様「東京都内の整形外科の案件で、患者さんがほとんど残らなかった事例があります。前の先生が名医として知られ過ぎていたため、全国から、その先生を指名でいらっしゃる患者さんばかりだったからです。
しかしもちろん、そのリスクについては事前に把握していましたし、万が一患者さんが減っても、診療圏をはじめとする条件がよかったことから、“これなら勝てる”ということで引き継がれました。結果的に承継後の売上は3倍になっており、以前からの患者さんを引き継いでいないものの上手く経営できている成功事例です。
また、前の院長先生は、買い手が見つからないと、高額医療機器などの撤去に約5,000万円かかることから、格安で相手を探している状況でした。そのため買い手側は、本来なら1億数千万円するものを1,000万円程度で受け取ることができて、結果的にwin-winとなった事例でした」
Q. 最後に、将来的に自院を承継したいと考えている先生、承継開業したいと考えている先生にメッセージをお願いします。
田中様「承継する側もされる側も、意思が固まってから準備するのではなく、できるだけ早い段階から準備しておくことが大切です。特に、紙カルテから電子カルテへの移行やスタッフへの対応などは、時間をかけて準備しておいたほうがスムーズに進みます。特に、引き継ぐスタッフが比較的ご高齢の場合、新しいことを覚えてもらうのには時間がかかると思っておいたほうがいいでしょう。
離職につながる可能性もあるため、リプレイスに対応できそうかどうかを事前によく考えることも重要です。
承継される側の先生にとっては、承継は、クリニックのシステムや業務の進め方を見直すタイミングでもあります。後継者が決まってから慌てるのではなく、早めに現状を整理しておくことが重要だと思います」
承継を決めるまでの進め方(売り手が準備する資料、買い手が確かめること、承継価格の決まり方と挙手の判断軸)は、田中さんにジョブカンM&Aの記事「事業承継で売り手・買い手に必要な視点」で聞いています。
取材協力
医療機関の第三者承継支援(M&A)サービス
https://shoukei.mplat.jp/
運営:株式会社エムステージマネジメントソリューションズ(代表取締役:田中 宏典様)
医業承継の大変さや注意点、特殊な事例などを買い手目線でまとめた『“STORY”で学ぶ、M&A「医業承継」 この1冊でM&A「医業承継」の全体像がつかめる』発売中
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特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2026年10月時点の情報を元に作成しています。
