近年、病院を選ぶ際の参考情報として「病院のホームページ」を挙げる割合は増加傾向にあり、今やクリニック運営において、ホームページのSEO(検索エンジン最適化)対策やネット広告といったWEBマーケティングは欠かせません。
参考:病院選び・医者選びに関する調査2019(メディケア生命保険株式会社)
「CLIUSクリニック開業マガジン」ではこれまでにも、医師の実体験などを交えてそのノウハウをご紹介してきました。
【制作会社に取材】クリニックのホームページ作成のスケジュールや費用の注意ポイントは?
クリニックのHP◆知識ゼロの医師が開業後半年足らずでSEO上位を獲得できたワケ
今回お話をうかがうのは、日本最大の繁華街・ビジネス街であると同時にクリニック激戦区でもある新宿に居を構え、1日400人〜500人前後が来院する「新宿駅前クリニック」院長の蓮池 林太郎医師。
蓮池医師は医療法人社団SEC理事長としてクリニックの経営・運営に努めながら、医療SEO分野での研究・実践を行っています。「新宿 クリニック」で検索すると新宿駅前クリニックが上位でヒットするなど、その実績も折り紙付きです。
数多の競合クリニックに負けないWEBマーケティングの手法について、詳しく聞いてきました。
クリニック経営におけるWEBマーケティングの重要性とは?
まず前提として、クリニック経営で大事な点は「多くの患者のかかりつけのクリニックになる」ことです。そのためには、患者がクリニックに来院するまでの5つのステップを理解する必要があります。
クリニックを経営する医師は、何よりもまずこの流れを認識しておいてください。
そして、この①「認知」〜②「クリニック探し」で自院を訴求するために有効なのが、WEBマーケティング施策です。
クリニックを認知してもらうために必要なことは?
①「認知」のために一番重要なのは、クリニックの立地です。
クリニックの前を通りがかり、その場所にクリニックがあることを知り、クリニックの存在を①「認知」します。体調不良になって②「クリニック探し」をする際に想起されて、来院するクリニックの候補になります。
私は来院患者数が1日40人ほどの皮膚科クリニックを継承したため、ビルの2階で開業することとなりました。正直、心療内科や婦人科、美容外科といった、患者にとって秘匿性を高めたい科目以外は、1階にあるクリニックのほうが圧倒的に認知度が高く、2階以上、特に3階以上だと存在を認知してもらうこと自体がなかなか難しいです。
実際に看板を見て新宿駅前クリニックに来院した人は、1日1人か2人でした。
ただ、認知されにくいクリニックでも、ネットの検索でクリニックを探している人のニーズを捉えるためにSEO施策を講じました。
よく「うちはクチコミでの来院患者が多い」とおっしゃる開業医の方がいらっしゃいますが、そもそも最初に受診してくれる患者がいなければ、クチコミも広がっていきません。繁華街やオフィス街のビルでの開業は①「認知」が難しい場合も多いため、よりSEO対策が大切なのです。
自前でSEO対策を行う上でのポイントは?
当院では内科、皮膚科、泌尿器科などを標榜しているため、「新宿 内科」「新宿 皮膚科」「新宿 泌尿器科」などでネット検索をした時に自然検索結果の上位に表示されることを主軸のゴールに設定し、SEO対策を行ってきました。
その地域でその診療科目がどれくらい探されているのかニーズを把握することが大切です。
まず、検索キーワードのボリューム(検索された回数)を「キーワードプランナー」などから算出し、そこから潜在的な患者数を類推します。
例えば、「新宿 内科」というキーワードの検索ボリュームを仮に3000とすると、30日分で割ると1日あたりの潜在患者数は100人です。この潜在患者数が多いか少ないかによって、その地域にどれくらいのニーズがあるか把握することができます。類推患者数が少なければ、その検索キーワードを狙わない、といった判断も必要です。
また、当院の場合は科目によってそれぞれ診療圏が異なります。内科であれば徒歩10分圏内、泌尿器科であればより遠方からも患者は来院されます。皮膚科は、内科と泌尿器科の間くらいと捉えています。こうした診療科目や診療圏の違いを踏まえて、記事の内容にも強弱をつけています。
例えば、内科に該当する「インフルエンザ」や「花粉症」といったキーワードでどれだけ良い記事を作ったところで、実際に読者が受診するのは近隣の内科クリニックが大半です。反対に、「尿道炎」や「クラミジア」といった、泌尿器科系のマイナーな病名を検索した読者は、近隣に泌尿器科クリニックがないため、遠方からでも来てくれる可能性があります。この場合、後者の記事により注力することで来院患者数を増やすことができるのです。
こうしたSEO対策やネット広告といったWEBマーケティング施策の結果、当院は開業から11年経った今では、緊急事態宣言中のため、新宿周辺の企業がリモートワークとなり1日約300人前後、コロナ禍以前には400人〜500人ほどの来院患者数となりました。
SEO対策を外注する場合に、押さえておきたいポイントは?
まず、開業医自身がホームページに何を掲載し、更新していくべきかを理解した上で、ホームページ会社やSEOにも詳しい医療系ライターに任せるのが良いと思います。
先ほどの例のように、一般内科で開業したクリニックで病気の解説記事を頻繁に更新しても集患効果は薄いでしょう。そういった根本を医師自身が理解しておくべきです。
当院の場合、基本的にホームページの記事は自分で書いていますが、ものによっては外注することもあります。その際には、記事を執筆する医療系のライターに内容や文字数を指定し依頼してくれる会社に外注しています。
というのも、医師が記事を書く場合、つい専門用語を使ってしまったり自身の興味分野に引っ張られてマニアックな内容になってしまいがちです。なかには5000文字以上と長大で、医療関係者にしか読めないような記事も散見されます。その点、医療系のライターであればSEO的観点も踏まえた上で、患者が本当に知りたい情報をまとめた記事を作成してくれます。
MEO対策でのポイントを教えてください。
WEBマーケティングには、MEOも重要な要素です。
MEO(Map Engine Optimization)
地図検索(主にGoogleマップ)で上位表示させる施策。上位表示されることで、商圏内のターゲットユーザーの目に付く機会が増え、店舗や施設の来店につながる可能性が高まる。ネットからの新たな集客チャネルとして注目されている。
MEO対策をすることで、②「クリニック探し」の段階の潜在患者にリーチできます。「地域名+科目名」や「科目名」で検索したときに上位表示されると、より多くの人に見てもらうことができます。
順位はどのような要素で決まっているのでしょうか。主に、自然検索結果の順位(SEO対策)、Googleマイビジネスの充実度(オーナー権限取得、カテゴリ、営業時間、定休日、ビジネス所有者情報提供、ビジネス情報、最新の情報発信、口コミの投稿数と☆の点数、口コミへの返信など)、現在地からの距離などが影響しています。
SEO対策はMEO対策にも大きな影響を与えているのです。
比較検討されて選ばれるには?
Google マップ上のクリニック情報に掲載されているクチコミや、病院検索サイトに掲載されているクチコミ、家族や知人からのクチコミなどにより、いくつか候補になったクリニックを比較検討します。
このクチコミの評価は、良いものもあれば悪いものもあるため、クリニックへの不満を書いた評価に悩まされる開業医は多いです。クチコミはできるだけ返信した方が良いので、事前にいくつかのパターンを用意し、それぞれ返事をするようにもしています。
そもそもネット集患には「期待値が上がってしまうためにクチコミで悪く書かれやすい」という特徴があります。ネットの情報を③「比較検討」した上で来院されるため、複数から選び抜かれたクリニックへの期待値は高まります。その結果、少しでも期待値を下回る対応があると悪いクチコミにつながるのです。
当院では以上の特徴を踏まえて、クリニックを紹介する際に無理に良く見せようとはせず、等身大の姿で情報発信するよう気を配っています。
参考:ネット集患の教科書 6.なぜ、人間は口コミを投稿するのか?
ネット広告を出稿する上で気をつけている点は?
当院では、検索結果画面の一番上に表示される「リスティング(検索連動型)広告」の出稿も私が手がけています。リスティング広告は、主に②「クリニック探し」の段階の潜在患者にリーチするために出します。
SEOとは違い、広告の場合はクリックされるだけで費用が発生するため、当院の場合、費用対効果も考えて、リスティング広告は「地域名+科目名」「科目名+地域名」の完全一致を中心に広告が出るように設定しています。
参考:月9,000円で無駄のない広告運用を実践する開業医のノウハウとは
今後、クリニックのWEBマーケティングについてはどのように学んでいけばいいのでしょう?
SEOやMEOに関しては〈Google マイビジネス編集方法(Google マイビジネス各種運用サポート)〉や〈完全ガイド ローカルSEOで上位表示する方法(SUZUMORI TAKUMI)といったWEBメディアや『クリニック広報戦略の教科書―自院のオフィシャルサイトを活用してGoogleに開業する』(河村伸哉 著)や『Googleマイビジネス 集客の王道 〜Googleマップから「来店」を生み出す最強ツール』(永友 一朗 著)といった本を読むと同時に、SEOのプロに話を聞きに行ったり、関連セミナーにも通いました。
そこで得た知見は、私のホームページや自著『競合と差がつく クリニックの経営戦略ーGoogleを活用した集患メソッド』でもまとめていますので、参考にしてみてください。
参考:ネット集患の教科書 3.クリニックのSEO(検索エンジン最適化)
ネット集患の教科書 4.クリニックのMEO(マップ検索エンジン最適化)
また、広告については『いちばんやさしい[新版]リスティング広告の教本 ⼈気講師が教える⾃動化で利益を⽣むネット広告』(杓⾕ 匠 著/⽥中 広樹 著/宮⾥ 茉莉奈 著)を読みました。リスティング広告については『LISKUL』の〈検索連動型広告とは│リスティングとの違いと低リスクのはじめ方〉といった記事や『ANAGRAMS』の記事でも詳しく記載されているので、広告運用を検討されている先生は参考にご覧いただければと思います。
最後に、大前提として「現代社会において、医療はGoogleなどのITインフラに乗り始めた」ということは理解しておいたほうが良いでしょう。
昔はクリニックに行くとなったら、クリニックの前を通りがかって知ったクリニックや家族や知人に紹介されたクリニックへ行っていました。しかし、情報社会が発展するにしたがって、人々はスマホでGoogle検索して自分にあったクリニックを見つけて足を運ぶようになっています。
言い換えれば、人間がクリニックを探す際には、Googleの検索テクノロジーに支配されているともいえるでしょう。この事実を踏まえて、では患者のニーズをどうやって掴むのか?を考えていく必要があります。まずは、その全体像を理解した上で、自院に合ったWEBマーケティング施策を講じていくのが良いと思います。
クリニックの開業支援やコンサルティングを無償でおこなっておりますので、お気軽にご相談ください。
>> 蓮池 林太郎 プロフィール/お問い合わせ
この記事は、2021年3月時点の情報を元に作成しています。
取材協力 医療法人社団SEC 理事長/新宿駅前クリニック 院長 | 蓮池 林太郎
2009年に新宿駅前クリニックを開設。現在は自院経営を通じて培ったネット集患の知見をもとに、クリニックの開業支援およびコンサルティングを実施。多数の書籍執筆やセミナー、メディア出演も行っている。著書に『競合と差がつく クリニックの経営戦略ーGoogleを活用した集患メソッド』(日本医療企画)、『患者に選ばれるクリニック: クリニック経営ガイドライン』(合同フォレスト)など。
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