
勤務医が独立して自院を開業する際には、「ようやく目標を達成できた」と感慨深い気持ちになるでしょう。しかし、クリニック開業はゴールではありません。「ゴールに到達した」というより、「スタート地点に立った」という表現のほうがふさわしいといえます。無事にスタート地点に立つことができたら、そこからは自院の理念に則って邁進するのみ。失敗を回避しながら、より高い目標へと向かって突き進んでいきたいところです。そこで今回は、開業医が失敗する原因は何なのか? 失敗を回避するためにはどうすればいいのかを詳しく解説していきます。
開業医が失敗する理由とは? 勤務医との責任の違い
まずは、開業医が失敗する理由を確認していきます。開業医が失敗する理由はいくつかありますが、すべての理由に共通しているのが、「勤務医との違いを理解できていない」もしくは、「勤務医との違いを理解したうえで対策をとることができていない」ということです。
では、「勤務医との違い」とは何かというと、根本にあるのが「責任の大きさ」です。
そもそも勤務医は、集患や利益について考える必要がありません。「どうすれば患者の数を増やすことができるだろうか?」「どうすれば利益を上げられるだろうか?」と考える必要もなければ、そのための対策をとる必要もありません。
自身の腕が悪く、患者が定着しなかったとしても、出勤日にきちんと出社して診察していれば給与は保証されます。万が一、ミスをして首を切られたとしても、次の勤務先を探せばいい話で、自身の損害となるケースは少ないと考えられます。
一方、開業医になるとすべてが自分の責任になります。集患がうまくいかず収益を上げることができなければ、スタッフに支払う給料が捻出できなくなる可能性もあります。そのため、経営に関しても診察に関しても、スタッフとのコミュニケーション構築に関しても、よりよい方法を模索して実践し続けることが不可欠なのです。
医師の開業失敗パターンは?
続いては、具体的な開業失敗パターンを確認していきます。開業医が失敗するパターンとしてよくあるのが、以下に挙げているパターンです。
【開業準備~開業までに原因がある】
【開業後に原因がある】
それぞれ詳しく解説していきます。
開業地の選定ミス
どんなに腕が立つ医師がいるクリニックであっても、「駅から離れている」「車で侵入しにくい場所に立地している」などのマイナス要素があると、患者の足は遠のいてしまいがち。足腰に問題を抱えている患者をメインターゲットにしている場合などはなおさらです。
また、ターゲットとする患者がよく利用するエリアであるかどうかも、開業地選定において必要な目線です。たとえば、最先端の機器を使った高額な施術を提供する美容皮膚科なら、富裕層が多く暮らす街ほど集患に有利です。小さな子どもをターゲットとしているなら、ファミリー層が暮らすエリアでの開業が望ましいといえます。
資金管理がなっていない
クリニックを開業するためには、開業資金を用意する必要があります。用意した資金で、医療機器を導入したり、ホームページを制作したりしながら開業準備を進めていくことになりますが、何にいくら使うのかを明確にしておらず、費用がかさんでしまえば、そのぶん返済が大変になります。また、開業後は思うように患者が集まらないことも考えられるので、当面の運転資金を用意しておかなければ、スタッフの給料さえ支払えなくなる可能性もあります。
固定費をかけすぎている
土地代や人件費代などの固定費をかけすぎていると、運営が回らなくなる可能性が高いといえます。想定される患者数に見合った固定費に収めなければ、赤字に陥って当然です。
また、固定費を何にどのくらいかけるかを考えるうえでは、スタッフや患者の動線を意識することもとても大切です。スタッフがスムーズに移動できる配置でなければ、そのぶん業務効率が落ちて診療ペースが落ち、患者満足度が上がらないことが考えられますし、患者に安心して利用してもらうためには、バリアフリーに設計しておくことも検討したいところです。小児科での開業ならトイレにおむつ交換ダイヤベビーチェアを設置することはマストです。
また、スタッフに定着してもらうためには、できるだけストレスフリーで働ける環境を目指すことが大切ですが、そのひとつとして、スタッフの休憩室を完備することも大事です。
開業までのスケジュール管理が不十分
必要な準備や手続きが終わっていないのに開業日が目前に迫っているとなると、焦りが生じて、晴れ晴れしい気持ちで開業日を迎えることができません。宣伝が間に合っていなければ、開業してもしばらくは軌道に乗らない可能性が高いですし、スタッフ研修の時間をしっかりとれていなければ、現場で混乱が起きる可能性があります。
スタッフ採用のタイミングや選び方がよくない
開業までのスケジュール管理が不十分で、スタッフ選定に時間をかけられなかった場合、自院と相性のよくないスタッフを採用してしまい、後々、トラブルを招いてしまうことがあり得ます。また、スタッフ選定に十分な時間をかけていたとしても、「どんなスタッフを採用したいのか」の理想が固まっていなければ、結果的にお互いに不満が生まれたり、補てんのために新たなスタッフを採用するための費用が発生したりといった事態に発展しかねません。
スタッフに定着してもらうための施策をとっていない
有能なスタッフを採用することができたとしても、スタッフに定着してもらうための施策をとっていなければ、退職が相次ぎ、そのたびに新たなスタッフ採用のために時間やお金を継ぎこまなければならなくなります。それを防ぐためにも、「スタッフに長く働き続けてもらうためにはどうすればいいか?」を考えて実践することが大切です。
集患・増患対策が不十分
自院の得意とする診療・専門とする治療などについて十分に周知できていなければ、患者が集まらず、結果的に廃業に追いやられることがあり得ます。勤務医時代の患者を取り込めていたとしても、さらに多くの患者に足を運んでもらえるよう、集患・増患対策を講じていきたいところです。そのひとつとして、地域医療に尽力したいクリニックもそうでないクリニックも、日ごろから近隣の医療機関との連携体制を整えておくことは大切です。特に昨今は、開業医には、地域医療においてかかりつけ医となることが求められているので、プライマリケアを実践するのみならず、場合によっては患者を適切な医療機関に紹介することも必要です。
患者とのコミュニケーションを大事にしていない
どんなにいい治療をしていても、患者とのコミュニケーションを疎かにしていれば、「このクリニックにはもうきたくない」と思われる可能性が高いといえます。自らの症状などに関して不安な気持ちを抱いている患者の気持ちに寄り添うことで、「これからもこのクリニックにお世話になりたい」と感じる患者は多いものです。ただし、どんな患者にもやさしく接する必要はありません。医師のアドバイスを聞かずにどんどん太っていく生活習慣病患者などに対しては、少々きつい物言いをしたほうが響く場合もあるでしょう。また、なかには、診療にいちゃもんをつけてくるクレーマーもいるので、ペイシェントハラスメント対策についても考えておくことが得策です。
経営戦略を定期的に見直しできていない
患者数が横ばい状態で収益が上がらない場合などは、経営戦略を見直して、現状を変えていくことを考えたいものです。「このままでもやっていけなくはないから」とずるずると同じ状況に居続けると、不測の事態が起きて患者数が一気に減るなどすると、みるまに窮地に立たされるかもしれません。
リスクヘッジできていない
災害などの緊急事態が発生した際、損害を最小限に抑えて、事業の継続や復旧を測るための計画である「BCP対策」を講じていなければ、ピンチに陥ったときにそのまま廃業へと追い込まれてしまう可能性を否めません。
スキルや知識を磨き続けられていない
スキルや知識がアップデートされない医者は、患者から見限られる可能性が高いといえます。特に、最新の情報を積極的に吸収している若い世代の患者は、最新の医療機器、最先端の治療を提供してくれる医療機関に興味を持つケースが多いでしょう。
時代の変化についていけていない
診療・治療に関するスキルや知識だけでなく、院内のシステムなどについてもアップデートしていくことが理想です。予約システムやオンライン診療など、患者にとって便利なシステムや機能をいち早く導入している医療機関は、必然的に患者からも選ばれやすくなります。
開業医の失敗から学ぶ成功の秘訣とは?
続いて、上記をもとに、開業医が成功するために実践したいことを解説していきます。
【開業前】
【開業後】
一つひとつ解説していきます。
ターゲットとする患者のニーズに合った開業地を選ぶ
駅からの距離や車の侵入しやすさを考えることはもちろん大事ですが、より詳細な条件を決めるために、自院がターゲットとする患者は主にどんなエリアで生活しているかを考えることが大事です。
ただし、競合も同じ視点を持っているため、理想のエリアにはすでに人気のクリニックが立地していることが多いので、先駆者との差別化を図ることについても考えていくことが必要です。
事業計画書はできるだけ綿密に作成すると同時に、開業までのスケジュールも細かく立てる
事業計画書は、事業をはじめるにあたって必ず用意すべきものですが、開業資金の融資を受けることが主な目的になると、「早めに作成したい」「融資がおりるような内容にしたい」と、「事業を成功させるためには?」の視点が二の次になってしまう場合もあります。
では、事業を成功に導く事業計画書を作るためにはどうすればいいかというと、まずは、できるだけ綿密に計画を立てて解像度を上げていくことが重要です。
たとえば、「XX年後までにXX円返済する」という計画があるなら、それを実現させるためにはどれだけの収益が必要かはすぐに計算できますが、さらに、その額を達成するためにどんなスタッフがいることが望ましいか、スタッフはいつまでに採用しておけば間に合うのかなど、逆算しながら一つひとつの要素を固めていきましょう。
また、どの程度の患者の定着が見込めるのかなどについて予測が難しい場合には、たとえば固定費を抑えるなど、想像より収入が少なかった場合に対してのリスクヘッジを考えておくことも大切です。
患者目線、スタッフ目線を持って内装や設備を考える
患者とスタッフの動線を考慮しながら内装や設備を決めていきましょう。承継での開業で古いところを改修するなら、入口でスリッパに履き替える必要が無いよう、土足OKの内装に変えると、患者が出入りの際に煩わしさを感じずに済みます。また、患者目線に関していうと、トイレと待合室の位置関係にも配慮したいところ。待合室との距離が近すぎると、トイレを使うことにストレスを感じやすいでしょう。
ホームページ作成と同時にSEO・MEO対策を強化する
自院の認知度を上げるために、ホームページ立ち上げおよびSEO対策・MEO対策に力を入れることは必須です。SEO対策・MEO対策に関しては、基本的なことであれば、調べれば自院でも問題なくできるはずですが、より高度な施策をということなら、専門家を頼るのが賢明かもしれません。
Googleビジネスプロフィールを充実させる
ホームページ同様に重要な役割を果たすのがGoogleビジネスプロフィールです。ここ最近は、ホームページではなくGoogleビジネスプロフィールの基本情報と口コミを信頼している人も多いので、情報を充実させることや、悪質な口コミを放置しないことなどはとても大切です。
LINE、X、Instagramのアカウントを作成して運用する
ホームページ作成やSEO対策・MEO対策のハードルが高いと感じる人でも、SNSの運用なら比較的楽におこなえるはずです。LINE公式アカウントの運用ができれば、友だち登録してくれた患者に確実に情報を配信できるため有利です。XやInstagramは、ポストを確実に見てもらえるというわけではありませんが、不特定多数の人に見てもらえる可能性があるのがメリット。潜在患者にアプローチするためには有効です。
スタッフとのコミュニケーションを大切にする
スタッフの離職率が高いと、「採用・教育費が余計にかかる」「人手が足りなくてクリニックを回せなくなる」「スタッフが定着しにくいことを目の当たりにした患者からもネガティブな印象を持たれる」などデメリットだらけ。それを防ぐためにも、自院のために働いてくれているスタッフへの感謝の気持ちを大切に、スタッフの働きやすさを追求することが大切です。とはいえ、給料や出勤日時をすべてスタッフの希望通りにするというわけにはいかないので、一人ひとりの希望を確認しながら、どこまでその意向に沿えるかを考えるといいでしょう。
また、スタッフ同士の仲が悪いことが原因で離職につながるケースもあるので、スタッフ一人ひとりと定期的に面談の機会を持ち、職場の不満などについて聞きだし、どうすれば改善していけるかを考えることも大切です。
患者とのコミュニケーションを大切にする
患者とのコミュニケーションを大切にしたいと思っていても、カルテの入力のためにパソコンから目を離すことができず、なかなか患者の目を見てコミュニケーションとれないと感じている医師も多いかもしれません。
その場合は、「電子カルテによく使う用語を登録しておく」「AI学習機能を搭載した電子カルテに切り替える」「電子カルテを代行入力してくれる医師事務作業補助者を雇う」などの工夫が役立つでしょう。
また、もっともシンプルな工夫として、事前web問診を導入して、予め患者の情報を電子カルテに入力しておくということが考えられます。
さらに、予約システムを導入すれば、待合室が患者で溢れてしまい、患者をどんどんさばいていかないといけないということになりにくいので、一人ひとりとの時間を大切にできます。
そのほか、患者のリアルな意見を知るために、匿名でのアンケート回答をお願いするのも一手。webアンケ0と作成システムなどを利用すれば、誰でも簡単に無料でアンケートフォームを作成することができますが、そうした作業に対する苦手意識が強いのであれば、GoogleビジネスプロフィールのQRコードをプリントアウトして会計の際に渡して、口コミをお願いするのもいいかもしれません。
参照:Google Forms(無料でアンケートフォームを作成して、リアルタイムで回答を分析できます)
参照:QIQUMO(無料ではありませんが、直感的な操作でアンケートを作成できます)
定期的に経営戦略を見直す
経営戦略を見直すにあたっては、電子カルテの経営分析ツールが役に立ちます。傷病名のランキングや患者リピート率、患者の年齢層の割合などを瞬時に把握することができるので、どこを改良すればいいかがみえやすいといえます。
経営分析ツールがついているかどうかは電子カルテによるので、これから電子カルテを導入する場合、経営分析ツールの有無もチェックしながら電子カルテを選ぶといいでしょう。
必要に応じて専門家に相談する
ホームページ作成、SEO・MEO対策をはじめ、専門家に相談するとよりよい対策をとることができることはたくさんあります。経営戦略を練るにしても、数々の医療機関の収益アップに貢献してきたコンサルタントなどに相談すれば、いいアイディアを伝授してもらうことができます。
BCPを策定する
BCPを策定しても、万が一の場合にしか役に立たないと考える人もいるかもしれませんが、災害発生時にどのように動くかを考えることで、自院の欠点や、日ごろから足りていないものが見えやすくなります。そのため、BCPを策定することそのものが、経営戦略の見直しにもつながるといえます。
BCP策定に関しては、厚生労働省が用意している手引きも参考になります。
参照:厚生労働省「医療機関の災害対応のための事業継続計画(BCP)」
かかりつけ医としてできることを考えておく
患者から、「なにかあったときには、まずこのクリニックに相談する」と思ってもらえるよう、“当院はかかりつけ医としての使命を果たしていきます”というメッセージが伝わる掲示物などを院内に貼っておくことはとても大切です。
もちろん、実際にかかりつけ医としてどんなことができるのかを日ごろから考えておくことも大事です。患者にもしものことがあったときの対応などもしっかり考えておくことによって、患者からの相談にも、具体的な答えを提示しやすくなります。
インターネットや書籍を通して、定期的に医療関係の最新の動向をチェックする
医療従事者は基本的に多忙なため、なかなか現状以上のスキルアップを目指すために勉強する時間をとることは現実的ではないかもしれません。しかし、最低限、医療業界の最新の動向をチェックして、患者にどんなニーズがあるのかを把握し続けることはとても大切です。業務効率化のためのシステムなどについても、どんなものの人気が高まっているのかをチェックして、自院に役立つものであると確信できたときには、導入を検討していけるといいでしょう。
また、地域や患者のニーズを調べた結果、自院にできることがみえてきて、それを実践したい場合には、国や各自治体が用意している補助金を利用することもおすすめです。たとえば東京都の場合、民間医療機関向け補助金概要をまとめた下記のようなページが用意されているので、チェックしてみると役に立つことがあるかもしれません。
失敗から学べることは大きい
クリニック運営に限ったことではありませんが、「結果を出したい」「成功したい」と思うなら、「失敗するとしたらどんな原因があるのか」に目を向けることはとても有効です。もちろん、目を向けるだけでなく、「じゃあそうならないようにするためにはどうすればいいか?」を考えることが肝となります。上記に紹介した以外の要因で失敗することはほぼないとしたら、成功のためには、一つひとつの失敗の可能性を潰していけばいいということなので、やらない手はないですよね? ただしもちろん、それでも失敗する可能性はゼロではないので、リスクヘッジをとりながらチャレンジすることはとても大切。可逆的な失敗なら、万が一の場合も引き返すことができますが、「資金がゼロになってしまった」など不可逆的な失敗もあるので、意思決定は慎重におこなうようにしてくださいね。
特徴
その他の業務
対応業務
診療科目
特徴
対応業務
その他の業務
診療科目
特徴
対応業務
診療科目
特徴
対応業務
診療科目
特徴
対応業務
診療科目
この記事は、2022年4月時点の情報を元に作成しています。