※この記事は2022年2月10日に行われたセミナーの模様を書き起こし、編集したものです。
クリニックを開業するにあたり、医師が最も頭を悩ませるのが「人事・労務」の範囲ではないでしょうか。すでに開業された医師の中にも、わからないことだらけで苦労した……という方も少なくないはず。
そこで今回は、CLIUSが主催した「クリニックのための労務管理」についてのセミナーの模様をご紹介します。
講師は、 アミック人事サポート様より、高橋友恵(たかはし ともえ)様 です。
オープニング
司会者)
本日は「社労士が教えるクリニックのための労務管理セミナー」と題して、講師の先生をお招きしております。
アミック人事サポート様より、社会保険労務士であり医療労務コンサルタントとしても大変ご活躍されております、高橋友恵(たかはし ともえ)様にお越しいただいております。
髙橋様)
社会保険労務士法人アミック人事サポートで代表社会保険労務士をしております、高橋と申します。本日はどうぞよろしくお願いいたします。
本日は「クリニックにおける労務管理」ということで、これからご開業される先生は何を対策したらいいのかについて。
既にご開業されてる先生につきましては、どんなリスクがあって、どう予防すればいいのかについて、できるだけ事例を交えながら、専門的なことをお話しできればと思います。
=社会保険労務士法人アミック人事サポート・概要=
栃木県宇都宮市に事務所を構える。
「経営者と労働者が抱える人事労務の悩みをゼロに」をポリシーに、全国の医療機関の人事労務顧問を務めている(医科歯科介護顧問率85%以上)。
開業時・開業後にありがちな問題と実際の声
開業後は、人事に関する悩みごとが非常に多いです。もうほとんどが人事と言ってもおかしくないくらい。
クリニックの経営を安定させるというところにはですね、知らないうちにリスクを抱えてる、増加させてる、というようなことがないようにしなくてはいけないですね。
そこでまずは「開業時」と「開業後」にありがちな問題と、実際の声から入っていきたいなと思います。
「開業時」にありがちなこと
「こんなことがしたくて開業したんじゃない」と(言う声が多く聞かれます)。
患者様のためにと思って開業したのに、地域の貢献のためと思ったのにまさか頭の中の大半は、人事のことばかりだ……。なんていうことがよく起こってきます。
どんなことが人事問題として起こるのか?というのが、ここに書いてある6項目です。
年次有給休暇に頭を抱えてらっしゃる先生も多いのかなと思いますし、能力不足のローパフォーマーもたくさんいらっしゃるんですね。給料下げたいなぁ、なんてお話も出るんですが簡単に下げられる時代ではありません。
また服務規律違反、ルールを破る人も出てくるんですよね。これから開業される先生ですと、(雇い入れるスタッフが)全員が一気に試用期間に入るんですけれども、この期間に「やめさせたいな……」なんていう人も出てきます。
ただ解雇も簡単にできません。
雇用契約についても、認識の相違によって後から「こんなんじゃなかった……」なんてこともありますし、それからスタッフ同士仲悪いなどが代表的な人事問題ですね。
ご開業するとき、そもそも人を雇ったことがない、といったところから始められる先生が多いと思うんです。じゃあ人を雇うって、何したらいいのか?というところで……。
ご開業するとき、先生だけでは通常開業されないですから、従業員雇うといったら、何をしたらいいのかなあというところでこれも代表的な5つを出してみました。
まず1つめです。全スタッフ、パートとか、週1日しか来ない人も含めて、全スタッフの労働契約書を作らないといけません。実際勤務医時代にこんなの貰ったことなかったよー、なんておっしゃる先生多いと思うんですが、今はこれらを出さなきゃいけないです。
2つめ。全スタッフ数、パートも合わせてですね、10人以上の場合は就業規則を作成、届出をしなくてはいけません。これは法律で決まっています。※(こめじるし)にもあるように、スタッフが10人未満でも作ることを推奨されています。
3つめは、先生と先生のご家族、それから従業員さんの加入する保険ですね。これ結構バタつくことがあります。開業した時にあの社保に入れてなかった、なんてこともありますからそういうことがないように(する必要があります)。
4つめも同様になりますが、労災とか雇用保険とか今いろいろ出てきますね、スタッフの分も含めてです。
で、最後。5つめは36(サブロク)協定ですね。後でお話をしていきますが、残業をさせることが絶対出てきますから、出さなきゃいけません。でも「知らなかった」なんてお話、結構あります。
これらは「少なくとも」っていう話です。じつは他にも、最低賃金など、気にしなきゃいけない点はいろいろあります。
法改正の部分も今日話しますが、「最低限、この5つはやらないといけない」ものなんです。これらについて、できてますか?もしくは、ご自身でできますか?というお話です。
もう少しですね、ここにスケジュールの例が詳しく載ってるんですけれども……。
ご開業するということは、労働者から個人事業主になるんだと、ここをですね是非おさえていただきたいなと思います。
今まで仲間だった看護師さんが、(経営者目線だと)「労働者」に変わっていくわけですね。この立場の違いからのトラブルが非常に多くございますから、どんなことをきちっとやっていかなきゃいけないのかと、そういったところのお話に繋がっていきます。
「開業後」にありがちな問題
あまりにも人事トラブルあるし、言うこと聞かないからスタッフ全員入れ替わってもらっても構わないよ!……そういうようなお話が出ることも結構あります。
「入れ替わってもらっても構わない」ぐらい従業員と仲が悪くなるとやはりですね、患者さんにこう、診療するにあたっていい状況にはなってない、ということになります。
先ほどもお話ししたような内容と大体かぶってきますけれども、たとえば図の左下に「スタッフが定着しない」とか、右下には「産休育休の対応」とか……。先ほどのあの開業時に出てくる問題をさらに、プラスアルファですね。女性職員を雇うからこそ、出てくる問題もあるというところです。
ではどうしたらいいのか、「10個のポイント」についてお話をしていきたいなという風に思います。
10個というのはこうざっと並べると、このような内容になってます。1つずつ細かく解説をしていきますね。
労務のポイント1:問題社員
まずは問題社員です。問題社員に関する相談は非常に多いんです。まあ実際にですね、いろんな問題社員がいるんですけれども……しくじり事例として、たとえばを出しております。
協調性のないスタッフ
医療機関ですからチームワークが良くないといけないので協調性が欲しいところですが、協調性がなくて他のスタッフとコミュニケーションも取れない。挨拶もしないんですね、こういう人は。
そうすると、「あの人がいると私働きにくいです……」と他の従業員から苦情が出てくるので、解雇しちゃう先生がいるんです。そのときに、「不当解雇じゃないんですか?」と(言われるケース)。これけっこうですね、解雇の問題を主張してきます。
能力がないスタッフ
具体例の2ということで、先ほどローパフォーマーの話をしましたが、「能力がない」スタッフの相談も多いです。
たとえば「診療科の経験がある」看護師を採用したものの、ミスが多いし、経験者なのか?と思うことがあったので、こんな使えない従業員はいらないよー!……となったケースですね。
「人はいいけど、ちょっと仕事ができない。不当解雇って言われないように進めるにはどうしたらいい?」というようなご相談が多いです。解雇って非常にナイーブな問題なので、ここについてはまた詳しくお話しをしていきたいなというところです。
違反行為をするスタッフ
お釣りの間違いが多く不審に感じていたら、事務が横領していた事が発覚した。
……結構ですね、私のお客様の中でも、この横領のような事件とかっていうのは、年に1回だったりとか(あります)。
うちのお客様だけじゃなくて、他の税理士から聞いてると、ちょっとこうレジから……とか自費のところから……などあるんですね。そうするともちろんやはり解雇したいなとなってくるんです。
問題社員っていうのはやはり、問題抱えてるわけですから長くいてもらうと困る。こんな人に金払いたくない(となります)。この人を辞めさせて、違う人を入れないと……と、頭の中もこの従業員の問題ばっかりになっちゃう、っていうことになってくるとそういうところですね。
こういった問題に対して解雇がすぐできるのかというご相談が結構多いので解雇についてお話をさせていただきたいなと思います。
スタッフの解雇は慎重に
解雇について、4つに分けさせていただきました。
解雇っていうのはまず法律がございます。解雇をしていい人、してはいけない人と、解雇はどういう場合だったらしていいとか、いろいろございますけれども……
解雇禁止事項の確認
法律上の解雇禁止事項を確認してください。解雇してはいけない人がいるかどうかっていうところですね。
解雇予告について
解雇予告や解雇予告手当について、聞いたことある先生も結構いらっしゃると思うんですが、30日分を払ったら、解雇できるのか?という話があります。
結論を言うと、払っても不当解雇って大体言われますから、ご注意いただきたいなと思います。
就業規則を確認
解雇というのは、実は法律上ですね「どういう場合に解雇する」というのを、事前に契約書に書きます。それから就業規則に載せます。
これがないと、解雇できません。ですから、小規模のクリニックでも、就業規則いるとかいらないとかって話になったときに、1人だからいらないのかというとそうではありません。
解雇せざるを得ないときに、就業規則がないから解雇って言えなかったっていうことが起こらないように、対策しておかないといけないですね。(上の資料にも)赤い文字で「就業規則の解雇規定を事前に確認」と書いてあります。
ぜひお手元に就業規則がある、という先生は、なんと書いてあるか、改めて見ていただきたいと思います。
解雇は「限定列挙」と言って、具体的にその事例がなければもう書いてないのと同然です。つまり就業規則の書き方が必要なんですね。
たとえば、運送とかに飲食に強い社労士が作った解雇の規定が医療機関に合うかどうかっていうのもありますから、きちんとご自身のところで、
こういう場合には解雇をするだとか、その解雇条文が法律的に問題ないかっていうことを、事前に専門家に確認をしていただくと、より安全かなと思います。
解雇理由の正当性について
この解雇の理由が合理的と言えるか?というところです。もし就業規則に解雇に関する条文が載っていたとして、「載ってるし、解雇できるかな」というと(そうとは限りません)。
次はですね、労働契約法に「解雇件濫用法理」というところが出てくるんですね。これは、(解雇理由が)「客観的に見て、誰が見てもおかしくない理由だったのか?」というところ問われてきます。ここがだいたい(の先生で)ですね、バツとなります。
たとえば、「挨拶しない」「言うこと聞かない」などの理由で、解雇!なんておっしゃるんですけれども、第三者から見ると、チャンス与えましょうよって話になっていったりするんですね。
ですからこの事例で解雇っていうのは、専門家から見てどうかな?と。専門家はだいたい社労士や弁護士などに確認してもらったうえで、どうかという判断をよくしてください。
解雇理由を裏付ける証拠の用意を
(解雇しても)大丈夫そうだな……と思った場合でも、客観的に大丈夫か?という裏付けが欲しいので、どんどん証拠を残すことが大事です。
さっきチャンスを与えましょうよ、と言いましたが、どれだけ手を尽くしても、最低限の証拠を残したとしても、それでも最終的に解雇するという選択肢を取った場合、やはり労働者側が有利な時代です。できるだけ解雇にならないようにしていかなきゃいけないというところが、対策では求められます。
労務のポイント2:法律への理解不足
「労働時間の管理」ということで、ここではしくじり事例を細かく載せています。
昼休みの電話対応について
昼休みに電話対応を従業員にさせているクリニックっていうのがあると思うんですが、これをボランティアでやってもらってたとしましょう。そうすると給与を払っていなかったために、電話手当くださいよとか、残業付くんじゃないですかという要求をされたと。これ結構多い事例です。
もう「(電話には)出て当たり前だろう」というふうに思われてる先生もいらっしゃると思うんですが、やはりですね、これは「やらされているか」どうかというところですね。電話対応っていうのは労働時間かどうか分かれてきます。このあともうちょっと詳しく解説していきます。
休日出勤の割り増しについて
休日当番医で出勤してもらった場合などですね。日曜日出てもらったとして、その時に割増し何%払ったらいいのかわかんないな……と。
代休与えたら、残業代として払わなくていいのか?というところが実際分からないので、あやふやなまま払ったら「足りない」と請求されることもあります。
着替えの時間について
着替えの時間って労働時間ですよね?なんで入らないんですか?という主張。これも、医療機関でものすごく多い事例の1つです。
基準時間未満の賃金切り捨てについて
「(残業)15分未満は切り捨てる」と(いったケース)ですね。超過時間って書いてありますけど、パートさんであれば通常の勤務時間も切り捨てていると、
うちは15分単位です、30分単位です、っていうような話をしていたら、賃金足りませんよね?と、未払い賃金の請求が来たという例ですね。
変形労働時間制について
変形労働時間制を知らなかった、今この言葉を言っても、「なんだそれ?」とおっしゃる方もいらっしゃるかなと思うんですが。
要は「1日8時間超えたら残業だ」と思って払ってたら、実はそうじゃない払い方も法律上あったりするんですよね。これってきちっと制度上は就業規則に載せなきゃいけないんですが……要は「払わなくていい残業代を払っていた」という(ケース)。
36(サブロク)協定について
36(サブロク)協定を出したことが無かった。今聞いて、「36協定って?」と思っていらっしゃる先生は、絶対36協定を出してください。
年次有給休暇の消化方法について
半日診療の日ってありますよね。たとえば土曜日半日、木曜日半日とか、有給休暇を0.5ってやってたけど1でよかった……っていうような意味で間違えていた、という例ですね。
ご自身での判断が実は法律上を上回りすぎていて、もったいなかったなんて例もあります。
タイムカードの集計について
タイムカードの集計を間違えていて「残業代が少ないです」「先生、信頼できません」ということでスタッフから不満が上がる例。
この辺は全部労働時間か、そうじゃないかっていうところがですね、ご自身の感覚ですとか、他がそうだからとかでやられてるところからのトラブルです。実質的にお給料に反映されるところなので、非常にナイーブな問題です。
未払い賃金について
未払い残業、未払い賃金については、インターネットで検索するとたくさん出てきます。図の中央の赤いところに、「知らないと損をする法改正情報」と書いてあるのですが、2020年に民法が改正されました。
足りない残業分の賃金をどこまでさかのぼって請求できるか、という法律が変わったんですね。もともと2年だったのが、3年に延長されたんです。つまり、3年分足りないものは、まとめて請求できるようになった、ということです。
たとえば従業員数が5~10人いたとして、退職者も含めてみんなで寄ってきたらまあ、相当な額になりますよね。そのときになって、ちょっとまって!ローンきくの?……なんて、そんなのきかないですからね。(こういった場合)、だいたい利子をつけて倍にして返してください!みたいな形で言ってきたりする例もあります。
払わなくていいと思っているという感覚がもしおありの先生がいらっしゃったら、ここ本当に注意をしたほうがいいです。
さらに、いま「3年」とお話しましたが、実はこれ、「当面3年」と言われているだけで、近々5年まで延長されます。たとえば15分全部切り捨てたものを、全員が請求してきたら相当な額になってきます。
ですので、労働時間として払うのか、労働時間にしないんであればどういう対策が必要なのか?については、しっかりと考えておいたほうが安全です。なんとなくの認識でやると、非常に危険です。
民法の改正の話をしましたが、それ以外にも実は「働き方改革」ということで、たくさんの改正が行われてきました。
今年(2022年)の4月には、育児介護休業法が変わります。これによって、就業規則が既にある先生は、大幅改訂せざるを得ない状況になっています。
このあと後半で助成金の話もするんですが、助成金がもらえないような事態になったりすることもありますから、法改正は必ず押さえて、従業員さんの対応を是非考えていただきたいなと思います。
先ほどの労働時間に戻りますけど、「労働時間か否か」でよく問題になるところを、ちょっとここに書かせていただきました。
黄色いところを見て頂きたいんですが……たとえば「8時半からきて」と言ってあるのに、従業員さんが7時半とかに来て、自主的に衛生材料を作ったりとか、早めに来た患者さんを受け入れたりとかしてくれた場合。
これ(だいたいの)先生は「ボランティアだ」と思ってるんですが、従業員さんが「指示命令のもとにやってる」と思っていたとしましょう。すると、当然これを請求してくるんですね。
これを払わなきゃいけないのかどうなのか?っていうのはいろいろな要素が絡んできますから、一概に「払うべきです」とはもちろん言えません。ただ「言われる可能性が非常に高い」ことは確かです。実際こういったご相談も何件も受けていますからね。
(先生からすると)「勝手に出てきている」「自主的に出てきている」と思っていても、そういった時間は、野放しにしてはいけないです。
ですから就業時間後とか昼休みの残業時間、でそれから3つめの許可のない休日労働。この辺も注意が必要ですし、始業前の着替え、もちろん就業後の着替えもそうですね。掃除や朝礼も、なんとなくで行ってらっしゃる先生は注意が必要です。
それから、卸会社の勉強会もですね。「出させられてる」と感じた従業員さんは、「働いたので休憩別にもらえるんですか?」なんて実際言ってこられてクリニックもたくさん聞いてます。
昔はこんなこと言われなかったのに……っていう気持ちもあると思いますが、今はそういう時代ではなくなっているので、言われないように対策する必要があります。
また図の一番下の赤いところですね、2019年4月から全スタッフの労働時間を把握する義務が法律上できました。
それから、許可制の残業などをもし導入される場合には、就業規則を元にルールを定めておかないと、ルールが守れているかどうかも是非ご注意いただければと思います。
年次有給休暇について
先ほどの労働時間管理も、この年次有給休暇の管理もそうなんですが、先生ご自身の手で全部やろうとするとなかなか難しいものです。たとえば「ジョブカン勤怠」とか「ジョブカン給与」とか、管理システムを使いながら、この辺をうまく乗り越えていく必要も出てくるかと思います。
年次有給休暇、非常にご相談多いところなのですがーー。1回に10日以上付与されている従業員に関しては、年5日間の有給休暇を与えなければならない、という法律があります。
図の中央に赤い字で書いてありますが、年休を5日取得してないスタッフがいるとどうなるかというと、実は先生側に罰則が入ります。具体的には、1人当たり約30万円と言われてます。
いきなりいきなりぱっと税務署の職員が来て「ハイ、30万ください」とはなりませんが、改善しないと必ず罰金という形になります。しかも、改善事態は「すぐにやれ」と言われてしまうこともあります。忙しい時期にまとめて有休を取らせることになると大変なので、計画的にとってもらう必要がありますね。
また、年休管理簿というものを作成して管理をしないと、これも罰金があります。まだ作ってないよ……なんだそれ?とおっしゃる方にはぜひ作っていただきたいと思います。
「やらなきゃいけないこと」は、やっていきましょう。
そこで大事なのは、「どうやったらうまく回るのか」を考える、というところですね。ということで、自院では
- 有給管理簿を作る
- 勤怠管理をする
- 就業規則、労使協定を作る
というようなことが必要になってきます。
5日取得義務化の対象者は、図の緑色のところに当てはまる方です。
パートさんに関しては、週の労働時間の日数によります。
「労働時間」に入るのはどこまで?
先ほどの労働時間なんですけれども、着替えの時間とか、どの辺までが労働時間なんですか?って話なんですが……
労働時間=「給料が発生するところ」ですね。
図に、「使用者(法人や院長)の指揮命令下に置かれている時間」とあります。
この「指揮命令下に置かれている時間」には、しっかり明示した時間だけではなく、先ほどの「黙ってやってもらってた(黙示の指示と言われている)時間」も含まれてしまう可能性が高いです。
図の下に例がありますが、たとえば「通勤の混雑緩和のために早く来ている場合」は、労働時間との関連性は弱いと思います。しかし、(指示を出してはいなくても)早出をして働かないといけない場合は、労働時間との関連性は強くなってきます。
やはりちょっとしたところの確認を怠ると、予期せぬところで請求されるケースもありますので、先生が管理できるような体制を作ることが大切です。その他の場合については、下の図をご覧ください。
黄色いところに赤い文字で書いてありますが、「業務終了後の後始末」は、もちろん労働時間に入ります。また、「指示を待機している待ち時間(手待ち時間)」も、労働時間です。
勉強会とか研修に関しても、労働時間だと言われることもあります。これについては「強制されているかどうか」がポイントです。ですので「仕事として行ってもらう」のか、「自主的な勉強として行くことを推奨する」のかははっきりと分けて伝えておきましょう。
もし仕事の一環として出てもらうのであれば、タラタラ出るんじゃなくてしっかり学んで欲しいとか、そういうところも是非伝えていただくと、メリハリが効いてくるのかなと思います。
労働時間の把握義務化で、ぜひ実施いただきたいところが、下の図の青いところですね。
手書きの出勤簿を使っている先生もいらっしゃるかもしれないんですが、この労働時間の把握義務では、実は「手書きの出勤簿には証拠能力が低い」と言われています。
ですのでタイムカードやパソコンというような、客観的な方法で行ってください。
そのほか、「残業時間」も法律で決まっています。
残業させる場合は、36協定を結んでないと残業させられません。それから、36協定の時間をこえて働かせることもできません。
コロナ禍でちょっと時間が増えてるな……というところは、いま36協定がどうなってるのかをよく確認してください。
労務のポイント3:就業規則の作成と規定
これもですね、しくじり事例がいくつかあるんですけれども……。
「就業規則を見せて欲しい」と言われたけど、古いものしかない。その場合でも見せる必要があるのか?とか、それから、解雇したいけど、就業規則に解雇の記載がなかったとかですね。
就業規則自体がちゃんとしていないと、なにかやりたいとき、もしくは問い合わせがあったときに、対応できないことがあります。
何度も言うように、就業規則は「必ず」作ってください。
「院内のルールが守られてないから解雇したい」とおっしゃることも多いのですが、そもそもルールを伝えていない(就業規則を渡していない)ことがあります。
そうなると、従業員はルールを知らないので守れていても守れていなくてもわからないわけです。そこでいきなり解雇は、やはりできません。
患者さんに良い医療を提供するためにも、いい従業員さんに残ってもらうためにも、クリニックの秩序を守ってもらう必要があります。
そのためにも、就業規則は必ず作っておきましょう。
就業規則作成時の注意点
就業規則を作る際、もしくは今の就業規則が以下に当てはまっている場合、注意してください。
- インターネットでダウンロードした
- 書籍からダウンロードした
- 知り合いの先生からもらった
- 卸の会社や取引会社からもらった
上記に当てはまる場合、おそらく「就業規則ならだいたいどこも使っても一緒」だとお考えかもしれませんが、実際、そうではありません。
クリニックによっても、変える必要があります。労働時間も違えば、休日も違うわけですからね。場合によっては懲戒にできなかったとか、実際と異なっていることが理由で、助成金も不支給になってしまったケースもあります。
ほかにも、ほかのクリニックから引用したために、慶弔休暇の日数を想定よりも多くあげてしまった、なんてケースもあります。就業規則は必ずオリジナルで、リスク回避になるものを作ってください。
後出しじゃんけんは負けてしまいます。クリニックを守るためにもいい従業員さんが安心して働くためにも必ずですね就業規則は良いものを作り、周知を徹底しましょう。
労務のポイント4:ハラスメント
ハラスメントに関するしくじり事例ということで、ニュースでも結構話題になっているので、気になっている先生方も多いと思います。
患者さんの前で医療ミスを起こしかねない失敗をしたので大声で怒ったところ、そんなみんなの前で怒らなくても……パワハラですと訴えられたケースがあります。ほかにも、指示命令違反が多かったので「働かないんだったら給料払わないよ」って言ったら、これもパワハラだと言われたんですね。
ほかにも「産休とりたい」と言われたとき、いまの人数で産休は取れるわけないよ、なんて言ってしまうと、マタハラだと言われます。そうするとですね、だんだん何も注意できなくなるし喋れなくなる。「髪切ったの?」なんてことも言えなくなってしまう。
患者さんに対していい医療提供したいのに、これでいいのかな?と悩む方は多いです。結構Googleの口コミを気にされる方も多いですね。
患者さんから「ここのクリニック、いいね」って言われたいのに、なにも注意できないと改善もできません。それで「選ばれるクリニック」になるのか?という問題もあります。
ではどうすればいいのか?についてですが、やはりハラスメントをきちっと学んだ上で、ハラスメントにならないようにしていかなきゃいけません。
ハラスメントの種類
法律で「対策をしなきゃいけないハラスメント」っていうのが決まっています。
具体的には「職場における」が頭につくものがそうです。職場におけるパワハラ、職場におけるセクハラ、職場におけるマタハラ(妊娠・出産・育児関係全般)。
とくに、今度の4月から、全ての企業に対して「ハラスメントの対策をしなければならない」という法律が適用されます。やはりこうした法改正は、きちっと最低限対応するということが必要ですし、先ほど言った様に、是非ですね、ハラスメントを理解した上で、しっかりと対策を行ってください。
労務のポイント5:採用関係
これから採用される先生方の中には気になっている方も多いかなと思うんですが、しくじり事例をいくつかご紹介します。
たとえば、人格よりも経験の有無を優先させたら結果的に失敗してしまったりとか、採用時に労働条件を明示していなかったために、のちのち揉めたりですとか。こういった例があります。
採用のとき、なんとなくで「明日から来られる?」みたいな形で採用すると、大体しくじります。ご注意いただければなと思います。
ほかにも採用のときに注意していただきたいことがいくつかありますので、ちょっとポイントをお伝えしますと、「労働者を採用するときは、労働条件を明示しなければなりません」という法律があります。
これなんですけど、法律上の問題だけじゃなくて、言った言わないの話に絶対なります。ですからいつでも「私は伝えました、あなたも合意しましたよね」と言えるように、初めから、法律に載っている内容を満たした書面を交わしておきましょう。
この「載せなきゃいけないこと」が載ってないものも結構見ますが、それでは全く意味がありません。必要事項が載ってないことで、「労働基準法違反です」って言われてる先生も見たことあります。
ですから、載せなきゃいけない事項を載せること。そして、合意をしたうえで契約をすること。これが絶対に必要です。労働時間っていうのは1日8時間、週40時間、特例で44時間ていうのが、10人未満のクリニックでできます。
いけない例でいうと、「朝8時~終わるまで」って書いてある契約書を見たことがあるんですが、これはダメです。必ず8時間になるような契約書作らなきゃいけないですし、夜勤があるようなクリニックであればそれに応じた設定をするということが必要になってきます。
そのほか、有給休暇賃金5原則とかいろいろ知っておかなきゃいけない労務管理の基礎知識というのがございますので、あのなんとなく今までの経験からではなくて、法律上求められてるところを網羅した上で、合意した人だけ採用する。
ということをやらないと、今の時代は採用後に思ってもない人事トラブルが発生するということになります。良い人を雇って問題を起こさないという事が一番重要になってきます。
労務のポイント6:労基署
「労基署に駆け込まれてしまった」というしくじり事例がありますが、「労基署行きますよ」だったり、「労基署行ってきました」って過去形で言ったりする人はたくさんいます。ですので、たとえ労基署に駆け込まれても、堂々とできる労務管理体制を作っていきましょう。
「はいどうぞ、何も悪いことしてませんから」と言えるかどうかです。「こちらには何もやましいことはない」状態にすることが、クリニックの経営にとても大切です。
労務のポイント7:退職金
「問題を起こした社員の退職金を払いたくない」とか「減らしたいけど大丈夫か」なんて質問も結構受けます。これですね全く出さないとちょっと問題がございます。ですので、退職金も規定で作っていくかというのがとても重要になります。
退職金はとくに額が高くなる傾向にあるので、訴訟問題になりやすいところでもあります。しかもだいたいのケースで、先生よりも従業員さんの方が法律に詳しかったりします。ネットで調べたりしますからね。
なので、「なんとなく」ではなく、「どういう根拠で大丈夫か」という選定ができるような専門家が近くにいたりすると、またいいのかなと思います。
労務のポイント8:同一労働同一賃金
今までパートには賞与を払ってなかったけども、同一労働同一賃金の適用のためにパートにも払わなきゃいけないと聞いたんだけど……。こういったご相談が結構あります。
昇給時の件もそうですね。どうして私の方が低いんですか?っていう質問を受けてしまうケース。評価制度がないために、先生の好き嫌いで決めたんじゃないかと思われて困った……なんていうご相談も最近多いです。
「同一労働同一賃金」は働き方改革のうちの1つなんですけれども、
わかりやすく言うと、立場や役職が違っても(例:看護師とパート等)、かかわっている仕事内容と責任は同じですよね?ということです。
仕事の内容も、そこに対する責任も同じであれば、じゃあどうして給料の額や賞与の有無が違うんですか?同じだったら一緒にしてください!なんていうのが、「同一労働同一賃金」の概要です。
これは、給与・賞与の話以外の各手当にも当てはまります。
- 常勤だけ皆勤手当があるのはなぜか?
- 常勤だけ通勤手当の上限が高いのはなぜか?
- 常勤だけ休職ができるのはなぜか?
これらの質問に対して、全部説明できますか?というと、どうでしょうか。
ここに絡めて、「フルパートと正職員とどう違うんですか?」という質問があったので、そこも含めてお話をしていきたいなと思います。
パートっていうのは、法律上の定義では「労働時間が短い人」っていう言い方になります、
ではフルパートはどうでしょうか?労働時間で見ると、正職員と一緒ですね。ここについては、正職員だと月給を払って、賞与も払わなきゃいけない。であれば、パートをいっぱい雇ったほうが経費が少なくて済む……と考えているところもあります。
こう考えると、確かに時間が長くてパート(時給)でいてくれたら最高ですよね。
もちろんこれで契約してくれたら構わないんですけど、さっき言ったように、時間が短いパートで常勤と同じ条件にしなくちゃいけない部分が出たとしたら、フルパートは対応しなきゃいけないかというと、実はこの同一労働同一賃金の関係ないんです。
実際に、フルパートと常勤の違いは何か?って言うと
- 固定給じゃない
- 賞与が常勤ほど払われない
あたりかなと思います、ですから正直なところ、「体よく待遇を下げられている」のがフルパートだと、私にはみえます。
ただ昔はこれで人がきてくれたのでよかったんですけど、最近は人手不足で、資格者は来ない。事務職でも、最近はコロナが怖くて嫌なんですって人も多いです。
フルパートで募集ても応募がこないので、しっかり働いてくれる常勤を雇えるんだったら、その方がいいんじゃないですか?って話を(相談者には)しています。
常勤なのか、フルパートなのか、短時間パートなのかは、やはりよく経営のパートナーの方に相談していただいて、どういう人材の計画を取っていくのかというのを考えられた方がいいのかなと思います。
司会者)
先生、そこのご回答につながるかなと思う質問をいただいています。
そもそも常勤とフルパートで給与の部分が違うというお話しがありましたが、採用時の給与ですとか、賞与はどの様に決めたらいいですか?というものです。
髙橋様)
採用時の給与相場に関しては世間相場といいますか、地域相場があります。最低賃金もですね、東京都と他県ではやはり金額が全然違います。
ちなみに今年度の東京都は1041円という形で出てますが、そこまでない地方のところも、もちろんあります。ですからまず、(その地域で)募集してくる時給もしくは月給の額にしてないと人は来ませんので、まず相場を見るということ。
それからどれぐらいの給料だから払えるかというのを、事業計画とか作ってらっしゃる税理士に相談をしていただくということを、最初に計画してくのがいいのかなと、
司会者)
ありがとうございます。
もう一点ご質問がありまして、正社員を雇用した場合に、退職金をそもそも出すのが当たり前でしょうか?いい条件にしたいと思いつつ、他のクリニックだとどうされてるのでしょうか?というものです。
高橋様)
退職金は、「払うと決めたら払わなくちゃいけない」のが法律です。ですから、払わないと決めてこのように就業規則に載せたのなら払う必要はありません。
他がどうかというと、払ってるところが多いです。ただ額はかなりバラバラです。ですから相場はないと思ってください。
でも従業員さんの中には、「どこどこの病院辞めたら世界旅行行けるって聞いたのに!」と言ってくる方もいます。そのときに、「うちはその分基本給を高くしているよ」など言えるなら、それでいいと思います。
どっちが魅力的なのかは従業員さんによるので、ご自身の中でベストなものを是非作っていただきたいなと思います。
司会者)
はい、ありがとうございます。
労務のポイント9:事業承継時のトラブル
事業承継で開業する場合は、「承継する前に、今までいたスタッフの中で問題のある人は解雇しておきたいな……」なんてこともあると思います。
でも、この解雇するときに「だったら(承継前の分も含めて)全部請求してやる!」って話になりますので、事業承継のときほど、是非ご注意いただきたいなと思います。
労務のポイント10:助成金
「これからおすすめの助成金」について、ポイントだけお話していきたいと思います。
助成金というのは、毎年4月に新しくなります。ですから(今お話しするのは)あくまで3月時点の2021年度のお話なので、是非4月以降にまた確認お願いします。
キャリアアップ助成金
たとえばパートを常勤にしたときに、3%の賃金アップなどの条件はあるんですが、ざっくりいうと、パートさんを常勤にするとクリニックに57万円入りますよ、というものです。
計画届を出したり、就業規則を作ったりして、転換試験をしながらいろんなことをきちっとやった上で転換すると、従業員さんも喜びも先生も喜びという、とても良い助成金ですね。活用しているクリニック非常に多いです。
働き方改革推進支援助成金
これはコースがいくつかあるので、そのうちの1つ、「労働時間短縮年休促進支援コース」のお話をさせていただきます。
成果目標と書いてあるんですが、そのうちの1つをやってください。たとえば時間帯の年次有給休暇を、有給休暇制度を作って就業規則に定めます。そして、自動精算機とか自動釣銭機など、従業員の労働時間を削減できるものを導入します。
従業員はその分、有給取りやすくなります。じゃあそのシステムや設備の分、いくらか出しますよーというのが、この助成金です。非常に人気で、去年の10月15日で打ち切られました。今度の4月にも出ると言われていますから、ほしい方は早めに狙って頂きたいと思います。
ただこれ上限として、いろんな要素が組み合わさると200万なんですが、50万か100万くらいのところで収まっているところが多かったかなと思います。
両立支援の助成金
簡単に言うと、育休から戻りやすい環境を作っていたら、47万5000円もらえるよ、というものです。
育休って基本的に拒めないので、だったらうまく活用していきましょう!優秀な従業員さんも戻ってきてもらいましょう!というのがこの助成金です。結構私のお客様で使ってるところが多いのかなと思います。
これも10月15日で本年度(2021年度)は打ち切られてますが、また来年度出てくると思います、4月以降ですね。是非ご確認をしていただきたいなと思います。
今いくつか使える助成金をお話しましたが、注意いただきたいのは、ここに載ってる6つの項目は「整備ができている」ことが条件です。整備できてないと、助成金申請できません。
ですから、就業規則をきちんと作る、36協定は出す、出勤簿タイムカードは必ず客観的なものを入れて残業代ちゃんと払う、などのやるべきことをやってないと貰えるものも貰えません。
ですからぜひこの辺はですねご注意いただきたいなと思います。
コロナ禍に求められる対応
次に、「コロナ禍に求められる対応」ということで、これに関する助成金と休業対応についてお話をしていきます。
助成金含む国の制度
助成金に関しては、「小学校の休校対応助成金」のご相談が多いんです。
学校単位で、「この助成金使えるので、事業主の人に連絡してくださいね」なんていうところもあります。
この有給休暇を使わせてあげたら、その額が100%、先生のところに有給消化が戻るというものです。ただし上限があるので、ちょっと給料の高い看護師さんの場合は足が出てしまうかもしれません。
対象となるのは、子供の通う施設の休校・休園や、子供が新型コロナウイルスに感染したり、濃厚接触者になったりした場合に、クリニックに行けない人なので、使ってもらうようにすると、従業員さんの満足度は高まります。万が一のときに、うまく使っていただけるといいのかなと思います。
雇用調整助成金
たとえば先生がコロナにかかってしまった場合、従業員さん全員休ませないといけないですよね。
でもこれは先生の都合になりますので、実は先生には休業補償を支払う義務がございます。その分の賃金の60%を払わないといけないんですね。
でも60%も払うの大変ですよね……ということで、ちゃんと払ったら後から戻しますよ、というのが雇用調整助成金です。
これも、使えるクリニックと使えないクリニックがあります。どういう状況だったら使えるのかについては、しっかりと確認をしていただければと思います。
傷病手当金
病気休業中に入っている非保険者とその家族を保障するため、健保からお金が出る制度です。非保険者が新型コロナウイルス陽性になってクリニックを休む場合、病気と捉えて、休んでる間は機関協会けんぽからお金を出しますよ、といったものです。
陰性だったとしても発熱などの症状がある場合には出ることもありますが、濃厚接触者の場合には傷病手当金が出ません。なので、濃厚接触者のときは傷病手当金が出ないんじゃ、給与なのか休業補償なのかどうなのかまたここは悩むところなんですよね。
この辺も確認をしながら、安全に従業員さんに休んでいただくことが大切です。それから先生のところの経費的な出費も、できるだけ抑えていただくことも必要なのかなと思います。
濃厚接触者の休業対応
濃厚接触者の休業対応への質問が非常に多かったので、労務管理上の5つのポイントをお話をしてきます。
従業員が濃厚接触者になった場合
まず、従業員さんが濃厚接触者になった場合、検査を行って陰性だったら出勤させてもいい。という感覚だと思います。実際に、私のお客様にもそういう方もいらっしゃいます。
ただやっぱり家族が陽性になっちゃったら、たとえ陰性でも出勤したりされたりするのは避けたいな……と感じると思うんですよね。ですから出勤させるのか、休ませるのかという最初に方針を決めておく様にしてください。
休業手当の率について
次に、濃厚接触者や小学校休校に伴って休ませる場合ですね。このときは休業手当なのか、有給休暇なのか。この率をどうするのかを決めておかないと、実際バタバタしてしまいます。
家族に発熱者が出た場合
家族に発熱者が出た場合の対応も確認してください。クリニックに来てから「うちの家族、熱が出てたんです」なんて言われたら、いやいや帰って欲しいよってなりますからね。
事前に連絡するとか、スタッフルームを密にしないとか、スタッフルームではマスクを外して喋らないとか。そういったルールを決めるところからやっていかないと、全員共倒れになる危険性があります。
休みになった場合のその後の対応
もし仮に全員が休みになった場合、業務が回るのか。
半分いないとして、業務が回るのか。回らなかったら、休診にしなくちゃいけないのか?休診にするんだったら、給料どうするのか?
この辺も、今のうちに全部対策しておく様にお願いいたします。
医療機関で実際にあった事例とその解決
実際にあった事例とその解決ということで、ちょっと読み上げますけれども……
専門家への相談を推奨するケース
結構こういうクリニック、あります。「ほかのクリニックは」「前のところは」と比較されて、ブラック企業扱いされるんですね……。
開業されたばかりの先生や、もしくは開業するときにですね、私たちのような社労士などに相談できなかった先生方は雇用契約とか残業は15分単位にしなきゃだめとか知らない方も多いんです。
よくわからないから不安。なので従業員に何か言われると、「そうなの……?」と遠慮する風潮ができてしまうんですね。
もちろん先生方の多くが、開業するまでは有給休暇なんて知らない、とったこともないわけですよね。医局のルールで働いていたので、例えば遅刻をして時給からいくら引かれますよなんてことは言われなかった。でも従業員は「1分単位で残業を請求」してくる。
労働基準法も知らないし保険の書類も知らない、医師国保とか協会健保とか、雇用保険労災保険といろいろあるんですけど、それも知らない。先生の知識がないことを利用して漬け込んでくる人が多くて大変だった……なんて実際の先生の話もございます。
開業後にこんなことで悩む時間ばっかり多いのがやりたいことじゃないという形に繋がっていきます。
ここで、当事務所がご支援させていただいた開業医の先生の声少しご紹介させていただきたいんですけれども。
医療法人の歯科医の先生ですが、疑問をすぐに相談できて解決しました、と書かれています。
何かあってもすぐ相談する人がいないと、「人事面を良くしてあげたい」「リスクを回避したい」と思っても解決しないし、何が正しいのかわからないんで困ってしまうなんていう例もあります。
なので、ご開業されるときはぜひ、税理士や社労士も安心できる人を選んでいただければと思います。
採用・定着について
「良い従業員さんに残ってもらいたい」というお声は多いです。
どうやったら残るのか?についてですが……言い方変えると、どうしたら辞めちゃうのって話をさせていただきます。
この図の真ん中のグラフは、「定着しない理由(厚生労働省のアンケート)」です。
左側の青い箇所は、「解決が難しい」ものです。「そもそも医療機関が目指すところじゃなかった」なんていうような例なので、あまり考えても仕方ないところです。
解決できるのはピンクの四角で囲われている部分ですね。具体的には、労働環境、労働条件、それから人事評価制度なんです。
ここが不満で辞める人が非常に多いのですが、これは解決できる問題でもあります。良い人に残ってもらうには、この要因をすべて無くしておきましょう。
反対に、良くない人に関しては別の対策が必要です。こういったこともあるので、就業規則はやはり必要になります。
良い人を残して患者様にも選ばれ、先生も診察に専念できる状況を作っていくことが、クリニックの安全な安心な経営に繋がっていくのかなと思います。
クリニックの労務管理まとめ
まとめになりますが、これだけは押さえていただきたいなというところを改めてご紹介です。
まずですね、先生方の医局時代のことは忘れてください。もう、すぐに訴える時代ですから、 いい従業員さんに選ばれ、良質な医療を提供し、患者さまに選ばれるためには、いま何をしなきゃいけないのか?を考えてください。
そして、就業規則は絶対作ってください。リスク回避にならなければ全く意味がありませんので、それを周知の上で、しっかりと作ってください。
そして次、当然のことですが、法律は必ず守ってください。法改正には速やかに対応すると、助成金の申請時に困らずに済みます。それから法改正に対応してないからこその訴えがありますから、そのときに必ず最低限守るようにしてください。
最後に、労働条件、年次有給休暇、未払賃金、ハラスメントなど、いろいろとお話しました。人事トラブルが生じないようにする予防や対策が必要です。ここをしっかりしておくと、大きなトラブルは起こりません。自然と医療に集中できる形になりますので。
アフタートーク(Q&A)
司会者)
それではいくつかご質問いただいておりますので、お答えいただければと思います。
Q.穏便に解雇する方法について
A.穏便にできる解雇はないです。
解雇というワードを待っている従業員さんも非常に多くて……。
実際にあった例なんですが、従業員の方に「なにか、言う言葉はありますか?」と言われたと。要は解雇というう言葉を待っていたんですね。それで先生が「解雇」と言った瞬間に、「不当ですね、労基署いってきます」と……。
多少なりともこのような方向につながるので、穏便にはいかないと思います。ですから解雇にならない様に事前の回避と、これだけつくしたと全てをやった上でリスクを背負う方がいいとおもいます。
結論としては、解雇はできるだけやらないでください、になります。
Q.掃除や研究データ処理の時間を業務として確保する方法について
A.クリニックの体制を1回見直した方がいいかなと思います。
もし先生の手が開かなくて困ってるのであれば、もしかしたら先生があれこれやってて従業員が暇してる場合もありますし。それからダラダラ仕事をして遅くまで残ってしまってるクリニックもあると思うので、役割分担等も見直すといいと思います。
たとえば患者さんが残り1人になったタイミングで、誰か1人は片付けを始めるとか。うまく時間を活用しながら、より良いクリニックのための時間に全員で当ててもらう必要があると思いますね。
「現状維持は衰退」です。話し合わないクリニックはちょっと仲悪かったりしますからね。
こういうコミュニケーション取るチャンスは朝礼や昼休み、午前で診療が終わりの時に30分だけ集まるなどで、時間を取っているところもあります。面倒くさがらずに、給料を払いながらその時間を有効に活用していただくといいのかなと思います。
Q.協会けんぽか国保か、どちらを選択すべき?
新規のご開業を控えて医療事務のスタッフを1、2名募集するのですが、福利厚生の部分で協会けんぽか国保かどちらを選択すべきでしょうか?また、スタッフ5名以下の小規模クリニックの場合、新規開業では協会健保と国保二つの比率はどのくらいでしょうか?
A.かつては医師国保ばっかりでしたが、いまは協会けんぽが主流になってきたかなと思います。
すごくどっちかに偏ってるって訳でもないと思うんです。最近のご開業される先生は、協会けんぽが多いと感じます。なんでかって言うと、協会けんぽの方が給付が高いんです。
具体的には、出産する産前産後の間、協会けんぽは給料の代わりにお金が出るんです。これが医師国保だと出ないので、ちょっとつらいかなと。それから、保険料が高く感じる人と、安く感じる人がいて人によって変わったりするんですけど、家族の分も1人ずつ保険料がかかったりするので、嫌がられるところが多いですね。
税理士の方とぜひ相談をしていただいて払える事業計画かどうかを確認した上で、協会けんぽにした方が定着もよく、募集の際も印象が良いです。
Q.開業社労士はいた方がいい?
A.開業の時はもう絶対に社労士はいた方がいいです。私はこれ断言します。
開業するときは、なんのルールもないので相談事項が多いんです。適当に決めちゃったがためにのちのち先生が苦しむのことが多いので、開業時にはいたほうがいいですね。
Q.良い社労士の見つけ方
A.まずは医療に強いところを探してみてください。
具体的にいうと、まず用語がわからないところから始まりますので、やはり医療の知識があるところに依頼するほうがストレスはないです。それから、リスク回避を重要視するところもあれば、とにかく安くやりますよけど、あまりレスポンスは早くないですよ、というところもあって、いろいろ特徴があります。
なので、先生が求めるクリニックを一緒に作ってくれる、認識が合う人や信頼のおける人をぜひ見つけていただきたいと思います。私も、日本全国対応可能ですので、もしご希望あればいつでも言っていただければと思います。
特徴
対応業務
診療科目
この記事は、2022年6月時点の情報を元に作成しています。
執筆 社会保険労務士法人アミック人事サポート代表社員/社会保険労務士/医療労務コンサルタント | 高橋友恵
2004年アミック労務管理事務所を開設。2010年に株式会社日本医業総研にて人財コンサルティング部マネージャーとして人事コンサルティング・接遇講師・院内業務改善コンサルティング等を実施後、2016年に社会保険労務士法人アミック人事サポートを設立。医療機関特有の人事労務に精通し、これまで350件の関与実績がある。
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