クリニックの安定経営において、集患や増患対策、設備投資や税金対策など、必要なことは多岐にわたります。
そんな中、最も注力するべき対策事項として挙げられるのが「労務管理」です。
今回は、労務管理に注力するべき理由や、労務管理に関するトラブル事例をご紹介します。トラブル対策も合わせて解説しますので、クリニックの安定経営にぜひ活用ください。
なぜ労務管理が大事なのか?
クリニック経営において、労務管理を怠った場合、様々なトラブルに発展する可能性があります。具体的なトラブル事例は以下の通りです。
- スタッフ側が経営層に対し、不当な残業を強いられたと訴え、訴訟問題になる
- 就業規則を守れないスタッフが発生し、クリニックの評判が落ちる
- 人間関係が劣悪になり、複数名のスタッフが一気に退職する
- 院長とスタッフが敵対関係となり、診療に支障が出る
これらは氷山の一角であり、クリニックにおける労務管理上のトラブルは跡を絶ちません。最悪の場合、クリニックが経営難になり、閉業する事態に発展することもあるのです。
上記の理由から、クリニックの安定経営において最も対策すべき事項は、労務管理であると言えるでしょう。
残業におけるトラブル
クリニックで問題視されるのが残業におけるトラブルです。
働き方改革が推進されている昨今ですが、厳しい労働環境の中で働く医療従事者が未だに多く存在しています。
診療時間外に労働させられ、残業代が支払われない
スタッフが診療時間を超えて患者対応した結果、残業が発生。
しかし、残業代が支払われない事例があります。スタッフが「タダ働き」を強いられている状態になるのです。結果、スタッフが泣き寝入りするケースも少なくないでしょう。
タイムカード通りの労働時間で管理されない
例えばスタッフが朝8時30分から勤務開始したにも関わらず、労務管理上では定時の9時から勤務していることにされ、30分間の残業代が支払われないというトラブル事例があります。
労働基準法における残業代は、1分単位で支払うことが規定されているため、本事例は労働基準法に反する行為と言えるでしょう。
研修会・勉強会に強制参加させられたが、残業代が支払われない
院長の方針で、昼休み時間に研修会や勉強会に参加させられる事例も相次いでいます。
たとえスキルや知識向上のための研修会・教育訓練であっても、強制参加を強いられた場合は、労働時間に該当します。
本来、昼休み時間は休憩時間ですから、業務時間外の労働とみなされ残業代が発生するのです。
就業規則・ルールにおけるトラブル
就業規則・ルールが曖昧な結果、引き起こるトラブルも多数あります。
その背景には、就業規則が予め定められていないことが原因として挙げられるのです。
就業規則がない
本来、就業規則は開業時に定めておくべきものです。
しかし、クリニックによって明確な就業規則が定まっておらず、あいまいなケースがあります。
その結果、クリニック独自のルールを設定し、出勤時間や退勤時間を偽って報告している事例が多発しているのです。
問題ある社員を懲戒解雇できない
例えば、無断遅刻や無断欠勤を繰り返すスタッフがいたとします。
注意しても改善が見られず、クリニックが著しい不利益を被ったため、該当スタッフに対し懲戒解雇を命ずる。
一見まかり通る事例と思われますが、場合によっては就業規則が定められていないことが原因で懲戒解雇できないケースもあるのです。
人間関係におけるトラブル
スタッフが退職する理由の最たる原因が、人間関係によるトラブルです。
クリニック経営においては、細心の注意を払って対処すべき問題と言えます。
院長が特定のスタッフをえこひいきする
院長が特定の看護師に対し、頻繁に話したり仲良くコミュニケーションを取ったりすると問題が発生するケースがあります。
「Aさんには優しいのに、私には冷たい。」や「Aさんへの態度と私への態度が全然違う。」といった形で不平・不満を漏らし、最悪の場合、退職してしまうケースもあるのです。
ハラスメントによる人権侵害
スタッフ間で良好なコミュニケーションが取られず、ハラスメント問題に発展するケースがあります。ハラスメントの種類は様々ですが、主に以下の事例が起こり得ます。
- スタッフに対し、身体的な攻撃を与える
- スタッフに対し、精神的な攻撃を与える(人格否定と思われるような言動を行う)
院長とスタッフが対立する
院長と看護師の対立構図はトラブル事例として少なくありません。
性別や立場の違いから、徐々にすれ違いが発生し、対立構造が生まれるのです。
また多忙な業務が原因でコミュニケーション不足に陥ることも原因の1つと言われています。
待遇におけるトラブル
クリニックには看護師や検査技師、医療事務や医師といった様々な医療従事者が存在します。これらの医療従事者の雇用形態や給与形態は、職種ごとで異なっています。
この相違から起こり得るトラブルが、待遇面でのトラブルです。
不当な理由で減給された
例えば「15分以上の遅刻6回につき1日欠勤扱いとなる」というクリニック独自ルールを策定し、該当するスタッフに対し、減給処分を与えるという事例があります。
確かに労働基準法の観点から、働いていない時間分の賃金を払う義務はありません。
しかし、欠勤扱いとし、過度に減給を命じることは労働基準法違反となります。
不当な理由で解雇された
スタッフの勤務態度や勤務成績が一定の基準に達していないことを理由に、スタッフが解雇を命じられるケースがあります。
そもそも、スタッフを解雇するには、客観的合理性と社会的相当性が必要です。
それにも関わらず、注意書や指導書などもない状態で解雇を命ずることは危険です。
場合によっては、解雇権の濫用と見なされ、無効となる可能性もあるでしょう。
年次有給休暇がもらえない
常勤スタッフには年次有給休暇があるのに、パートスタッフや非常勤医師に対しては年次有給休暇を与えないクリニックがあります。これは労働基準法に反します。
いかなる雇用形態であっても、医療機関の労働者には年次有給休暇を与える義務があるのです。
労務トラブルを防ぐための対策とは?
労務トラブルに対し、対策できることはいくつかあります。
自院で当てはまるトラブルがある場合は、解決方法として参考にしてみてください。
残業におけるトラブル対策
「変形労働時間制」を導入すると一定の効果があります。
変形労働時間制とは、定めた期間内の労働時間が平均40時間(週換算)以内であれば、特定の日に法定労働時間を超えても良いとできる制度です。
この制度を予め就業規則に盛り込んでおくことで、突発的に残業が発生しても帳尻が合わせやすくなるのです。
就業規則・ルールにおけるトラブル対策
就業規則を策定し、明確化しておくことが最も重要です。
その上でスタッフ採用時の面接の際に説明しておくことはもちろん、定期的に院内のミーティング時に就業規則の共有化の機会を設けると良いでしょう。
就業規則・ルールを院内に浸透させることはとても大切です。
人間関係におけるトラブル対策
人間関係におけるトラブルの最たる原因は、コミュニケーション不足です。
対策としては、月に最低1回は経営層がスタッフと面談を行うこと。面談時にスタッフの要望や不満などを聞く機会を設けることで、コミュニケーション不足が解消します。
ひいては、信頼関係の構築へと繋げやすくなるでしょう。
待遇におけるトラブル対策
女性スタッフは特に「不公平な態度」に敏感です。
公平性をアピールするためにも、普段から全スタッフに対し、コミュニケーションを取るようにしましょう。
出勤時に各スタッフの目を見てしっかり挨拶をしたり、スタッフが多忙の際には手を差し伸べたり、共感したりしてあげましょう。
クリニックの人事・労務トラブルを防ぐには…
今回はクリニックの労務管理のおけるトラブル事例・対策事例をご紹介しました。
クリニックには様々な属性の職種が混在しています。給与形態も違えば待遇も違うのです。
後に深刻なトラブルに発展しないよう、就業規則を策定し、クリニック内に浸透させることが重要です。
また人間関係を円滑にするためには、コミュニケーションの場を設けることが大事です。
対立構造になりがちな医師とスタッフ間で定期的に面談を行い、お互いの想いや考えを共有しておきましょう。
正当な就業規則や、良好な人間関係が土台にあるクリニックでは、安定経営が見込めます。
労務管理がなかなか上手くいかず、トラブルが起きている場合は、ぜひ実践してみましょう。
特徴
対応業務
診療科目
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診療科目
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この記事は、2022年9月時点の情報を元に作成しています。
執筆 医療ライター ゆし
医療機器メーカー(東証プライム市場上場)の営業職に約9年間従事。薬機法管理者資格、YMAA認証マーク取得。クリニック開業サポート・医院継承サポート実績あり。
日々、多くの医師やコメディカルと関わり合いながら仕事しています。
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