在宅医療における多職種連携はなぜ必要なのか?上手くコミュニケーションするには?

令和2年9月、在宅医療・介護連携推進事業の見直しが行われ、医療と介護を一体的に提供し、切れ目のない在宅医療と介護を提供できる体制構築が推進されています。その一方で、「多職種連携の必要性は分かるけど、どう進めていけばいいのかよく分からない」「自分以外の職種の役割がよく分からない」「そもそもなぜ多職種連携が必要なのか分からない」方も多いのではないでしょうか。

私は以前、実際に地域包括病棟で退院調整に関わった経験があります。入院早期からの退院調整介入や多職種との連携がいかに大切かを学びました。その経験もふまえ、今回は在宅医療に必要な多職種の役割と必要性を解説しています。

目次
  1. 多職種連携の実例
  2. 多職種連携の大まかな流れ
  3. 多職種連携が必要な理由
  4. 各職種の役割とは
    1. 1.医師
    2. 2.訪問歯科医
    3. 3.薬剤師
    4. 4.管理栄養士
    5. 5.セラピスト
    6. 6.看護師
    7. 7.医療ソーシャルワーカー/MSW
    8. 8.介護支援専門員(ケアマネージャー)
    9. 9.介護職
    10. 10.福祉用具プランナー
    11. 11.民生委員・児童委員
  5. 在宅医療普及のためには多職種連携のコミュニケーション方法が鍵
    1. 電子カルテで多職種連携が可能!在宅診療専用カルテ「モバカルネット」
    2. 使い勝手のよさで導入負担を軽減!チャットツールアプリ「LINEWORKS」
    3. チームと個人のタスクを1カ所に集約!情報共有ツール「Slack」
    4. スマートフォンでもパソコンでも多職種連携が可能「Chatwork」
    5. 多職種連携を可能に!コミュニケーションツール「メディカルケアステーション」

多職種連携の実例

私が経験した退院調整のひとつに、多くの医療従事者が患者に関わった症例があります。CVポート管理・モルヒネ持続点滴管理・レスキュー用の内服指導・心理的サポートを必要とする、癌末期のひとり暮らし患者のケースです。

医師をはじめ、看護師・薬剤師・管理栄養士・理学療法士・緩和ケア認定看護師、退院調整看護師が、退院後の生活に向けて治療・ケア・サポート・ミーティングなどを行いました。

緩和ケア認定看護師は毎日のように患者のところへ顔を出し、退院後の不安を傾聴していました。薬剤師は抗がん剤の内服指導や副作用のチェック・看護師からの情報をもとに、医師と薬剤の量を調整します。MSWやケアマネージャーが連携をとり、訪問診療や在宅医療を導入する手続きを進めていきます。退院前には患者を含め、全職種が顔を合わせて退院前カンファレンスを実施。各職種からみた患者の現状・退院後に考えられる問題点・必要なケアや支援はどういったことがあるか、意見を出し合います。患者が安心して在宅医療を受けられる体制が整った段階で退院となりました。

上記のように、在宅医療支援医療機関では、退院後に問題を抱えるリスクが高い患者には入院早期から退院調整の介入を行います。これまでさまざまな症例をみてきた経験から、専門性を活かした多職種連携は質の高い在宅医療につながる、と実感しています。

とはいえ、医療機関の規模が小さい場合、どう連携すればいいか分からない方も少なくないかもしれません。ここからは、小規模な医療機関が多職種と連携する手順について解説していきます。

多職種連携の大まかな流れ

そもそも、在宅医療を導入するケースには2つあります。
(参照:厚生労働省・在宅医療の推進について・在宅医療に関する普及・啓発リーフレット「在宅医療をご存じですか?」)

  • さまざまな理由で通院困難、在宅医療へ
  • 病状悪化などの理由で入院し、退院後に在宅医療へ
  • たとえばクリニックで診ている患者が通院困難・在宅医療が必要になった場合、まずは、要介護認定の有無と担当の介護支援専門員がいるかどうか確認します。

    介護認定を受けていれば担当の介護支援専門員(ケアマネージャー)がいるため、ケアプランに沿って、患者に必要な職種の連携を進めてくれます。

    介護認定を受けていなければ、患者もしくは家族が、住んでいる市町村の窓口へ申請書類を提出しに行きます。その後、担当になった介護支援専門員が自宅や施設を訪問、聞き取り調査を行います。その後、審査により介護度が決定され、介護支援専門員(ケアマネージャー)がケアプラン立案をし、主治医が意見書や指示書を記載するという流れです。

    多職種連携が必要な理由

    在宅医療に多職種の連携が必要な理由はそもそも在宅に多職種が関わっており、各職種が様々な処置や診療を24時間行っているため、どういったこと処置や診療を行ったのか、患者がどういった状態かの共有を随時行わないと非効率であり、誤った判断をしてしまうからです。
    その一方で、多職種の間で意見が一致せず対立することも少なくありません。
    そこで、在宅医療に登場する職種や、職種ごとの専門性・役割を理解し、コミュニケーションの方法を考えていきましょう。

    各職種の役割とは

    在宅医療と介護の連携に関わる職種には以下のようなものがあります。
    1. 医師
    2. 訪問歯科医
    3. 薬剤師
    4. 管理栄養士
    5. セラピスト
    6. 看護師
    7. 医療ソーシャルワーカー(MSW)
    8. 介護支援専門員(ケアマネージャー)
    9. 介護職
    10. 福祉用具プランナー
    11. 民生委員・児童委員

    具体的に、ぞれぞれの職種が在宅医療においてどういった役割があるのかみていきましょう。

    1.医師

    在宅医療において、患者の全身状態の診察や疾患に対する治療を行い、訪問看護師やケアマネージャー・薬剤師・理学療法士などへ指示を出します。在宅医療における中心的な役割といえるでしょう。

    2.訪問歯科医

    義歯治療・抜歯・う蝕治療・歯周病の治療を必要とする要介護高齢者は64.3%との調査結果があります。
    (参照:在宅歯科医療について 要介護者の口腔状態と歯科治療の必要性)

    しかし、在宅医療を受ける患者は歯科へ通院することが困難なケースも少なくありません。
    適切な治療を施されることによって心疾患のリスク軽減が期待できます。また、食べることへの意欲が湧き栄養状態が改善したり、咀嚼ができるようになると介護食を用意しなくて良くなるため、家族の負担軽減にもつながります。口腔内の診断・治療ができる訪問歯科医は、在宅医療に必要不可欠な役割だといえるでしょう。

    3.薬剤師

    在宅医療における薬剤師には処方箋に基づいた調剤・服薬指導・残薬管理・副作用などの体調管理・麻薬管理などがあります。

    医師は患者の嚥下状態まで詳細に把握できないため、日常的に患者と接している看護師が薬剤師と相談し、患者に合わせて処方の内容を検討しています。

    たとえば、嚥下困難な患者に対して粉砕・貼付剤へ変更したり、薬が多すぎて管理できない場合は一包化したり、カレンダー式のポケットに管理を促したり、という具合です。

    在宅医療の薬剤師の役割については以下の記事を参考にしてみてください。

    (参照:在宅医療の薬剤師の役割とは?業務内容やメリット・デメリットを解説)

    4.管理栄養士

    特定保健指導や日々の栄養相談を行う管理栄養士。在宅医療では、患者の生活習慣や経済状況を考慮し、できる範囲内で行動変容を促すのが管理栄養士の役割です。

    塩分・糖分などの制限だけでは患者の食生活はなかなか変わりません。患者が美味しく食べられるメニューを提案したり、在宅での配食サービスを見直したりします。介護食を作る家族の負担を軽減するメニューの提供も行います。

    薬による治療だけでなく、食生活を改善して病状悪化を予防するためにも、在宅医療に管理栄養士は必要な存在です。

    各都道府県に1ヶ所設置されている栄養ケア・ステーションと連携すれば、栄養相談・食育・研修会やセミナーなどで活用できるでしょう。
    (参照:公益社団法人 日本栄養士会 栄養ケア・ステーション)

    5.セラピスト

    セラピストには以下3つの種類があります。

  • 理学療法士:歩く・立つ・座るなど基本動作に障害がある人を対象とする
  • 作業療法士:身体や精神に障害がある人を対象とする
  • 言語聴覚士:コミュニケーション・嚥下・摂食障害のある人を対象とする
  • 在宅医療におけるセラピストは、患者の生活に合った身体機能の維持・回復をサポートする役割があります。

    実際、地域包括病棟で関わったセラピストたちは、機能回復訓練と生活を一体的に考え目標設定していました。自宅の写真を家族に撮ってもらい、環境に合わせた動きができるようゴールを設定します。

    たとえば「ダイニングテーブルで食事をしたあと、食器をシンクまで運べる」がゴールであれば、トレイ付きのピックアップ歩行器やシルバーカーで歩行できることが目標。「寝室からトイレまで伝い歩きができる」がゴールであれば、歩行訓練をし、状態に合わせて医療ソーシャルワーカー(MSW)に手すりの手配を依頼します。「外出先から玄関までの階段96段登れるようになる」がゴールであれば、階段と手すりを使ったリハビリがメイン、どうしても登りきれず自宅に帰れないようであれば、自宅以外の施設に退院先を設定し直す必要が出てくるため、医療ソーシャルワーカー(MSW)に調整依頼をする、といった具合です。

    患者一人ひとりの生活に合わせてサポートするセラピストたちは、挫けそうになる患者の精神的なケアも行います。リハビリ中に血圧が下がり意識消失するケースもあるため、患者の病状も把握しています。

    ときに家族からは、「入院前よりも動けるようになるまでリハビリしてから帰ってきてほしい」と言われることがあります。そんな時はセラピストが身体機能を評価する役割を担っています。セラピストの意見をもとに、医師や看護師・MSWは情報を共有し、最終的に医師が病状や退院後の生活を見据えたゴールを家族に説明します。

    在宅医療でセラピストと連携するためには、自院で雇うか訪問看護ステーションのセラピストに訪問リハを行なってもらうといいでしょう。

    6.看護師

    在宅医療における看護師は、規模の大きさにかかわらず、訪問診療・訪問看護ステーション・医療機関などあらゆる医療現場において、幅広い業務を行います。患者のバイタルサイン測定・点滴管理・内服管理・清潔ケア・食事の介助・嚥下状態のチェック・創傷処置・排泄状況に合わせたケアなどを行ないます。患者と関わる中で得た情報をもとに、多職種と連携し、仲介役になることも多い職種です。

    たとえば小規模なクリニックでは、患者家族の身体的・心理的サポート・医師の診療の介助のほか、外部の多職種との連携の橋渡し役となります。患者家族から要介護認定の有無を聞き出し、未申請の場合は手続きの方法を説明することもあるでしょう。担当の介護支援相談員(ケアマネージャー)とのやり取りも行います。

    7.医療ソーシャルワーカー/MSW

    医療ソーシャルワーカー(MSW)は、病院と診療所、患者家族と診療所をつなげてくれる、在宅医療における重要な役割を担っています。

    MSWや退院調整役がいなければ、ケアマネ・訪問診療医・訪問看護・訪問介護・福祉用具プランナーといった病院外の職種との連携は成り立たないといってもいいほどです。

    実際、家庭に問題があり、患者自身の病状がよくなっても自宅には退院させられないケースも少なくありません。MSWはいつも頭を悩ませながら役所に連絡を入れてくれ、患者にとってよりよい療養環境を提供するために動いてくれていました。

    医師の情報は疾患中心になりがちですが、医療ソーシャルワーカーは患者家族の生活に関する情報を大量に持っています。患者家族は、医師やケアマネージャーには伝えにくい情報でも退院してしまえば関わりが薄くなると考えているからか、医療ソーシャルワーカーには話すことがあります。そのため、医師をはじめ多職種間で密な情報交換をすれば、患者に必要なケアを導入でき、質の高い在宅医療につながるでしょう。

    在宅医療における医療ソーシャルワーカー(MSW)について、以下の記事も参照してみてください。
    (参照:在宅医療(訪問診療)クリニックが病院の医師・医療ソーシャルワーカーと円滑に連携するには?)

    8.介護支援専門員(ケアマネージャー)

    患者家族から情報を聞き出し、在宅でも自立した生活を行えるようケアプランを作成する介護支援専門員(ケアマネージャー)。入院中には医療ソーシャルワーカー(MSW)が情報を多く持っていますが、在宅医療に関わる職種の中では介護支援専門員(ケアマネージャー)があらゆる情報を把握しています。

    介護支援専門員(ケアマネージャー)は日中・夜間の患者の生活パターン・家族の仕事状況を詳細に把握しています。そのため、患者に必要なケアを見出しやすくなります。たとえば「日中は家族が仕事で不在だが、食事は準備して冷蔵庫に入れてある」という情報があれば、血糖測定やインシュリン注射は在宅医療が必要、食事を温めるだけならヘルパーを導入するか、看護師でもいいか」といった具合に検討できるからです。

    介護支援相談員(ケアマネージャー)は介護職出身が多く、医療知識が不足していることも少なくありません。ケアマネージャーが困難に感じる点として「医師との連携が取りづらい」医療系43.0%介護系49.9%という調査結果も出ているため、わかりやすい説明を心がけるとさらに連携がうまくいくのではないでしょうか。
    (参照:在宅医療・介護の推進にあたっての課題)

    9.介護職

    介護職(ヘルパー)は清拭や入浴・おむつ交換といった身体介護や食事の準備・掃除・洗濯・買い物などの生活援助サービスを提供してくれます。服薬管理はできませんが、内服したかどうかのチェックはできます。

    在宅医療では看護師よりも頻繁に患者と接することも多く、ちょっとした病状の変化に気付きやすいといった特徴があります。介護支援専門員(ケアマネージャー)と同様、医療知識が不足しているケースがあるため、医師に対して相談しにくいこともあるかもしれません。看護師や介護支援専門員など、比較的コミュニケーションの取りやすい職種を介して連携するといいでしょう。

    10.福祉用具プランナー

    福祉用具を取り扱う職種に、福祉用具専門相談員や福祉用具プランナーがあります。福祉用具専門相談員は、介護保険を使って福祉用具を利用する際に選定・計画を見直したりします。一方、福祉用具プランナーは介護保険利用者以外の福祉用具の選定も行います。

    介護保険制度や障害者に関連する制度の知識を持ち、利用者の病状や生活導線を考え、用具を選定してくれる在宅医療には欠かせない存在です。

    ベッド・ポータブルトイレ・手すりなどの福祉用具に関する豊富な知識と経験を持つ福祉用具プランナーには、患者の日常生活の様子などの情報が必要です。そのためにも多職種との連携は重要なポイントだといえるでしょう。

    11.民生委員・児童委員

    民生委員・児童委員は高齢者や障害がある人の福祉に関することや子育てなどの不安に関するさまざまな相談・支援を行います。具体的には、虐待・DVなど世帯の抱える問題を把握し、必要とする情報を提供したり、各種相談や福祉サービスの支援などです。

    実際、病院で働いていたときにも医療ソーシャルワーカー(MSW)が地域の民生委員と連携をとり、問題を抱える家庭と何度も話し合いをしたことがあります。家族と連絡が取れなくなったり、患者自身に退院の意思がなかったりと、なかなかスムーズに退院調整が進まないケースも少なくありません。患者の特性に合わせ、こうした専門職種に任せられる多職種連携の必要性を実感しました。

    民生委員や児童委員と連携を取る場合は、住んでいる市区町村に問い合わせてみるといいでしょう。

    在宅医療普及のためには多職種連携のコミュニケーション方法が鍵

    ここまで、在宅医療における多職種連携の必要性と各職種の役割について解説してきました。

    今後、在宅医療を普及させるためには多職種連携のコミュニケーションをどう行うかが鍵です。上記で紹介した各職種の役割や得意とすること、できないことを理解しておくことでスムーズに在宅医療・介護の連携が進みます。さらに、在宅医療を運営すると、疑問がでてくると思いますので、円滑な多職種連携のために研修会に参加してみたり、ICTツールの活用をしたりしましょう。
    (参照:在宅医療推進のための地域における多職種連携研修会)

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