「いつかは開業したい」という思いがあっても、なかなか重い腰が上がらないという人は多いのではないでしょうか。事実、開業は気軽にできることではありません。
開業する、ということは「経営者になる」ことでもあるため、医療の知識やスキルを磨くことに加えて、経営についても学んでいく必要があり、医療だけを行えるわけではなく、クリニックの経営や運営、時にはスタッフの人間関係などについても考えていかなければなりません。
「生涯、勤務医」という道を選べば、経営について学ぶ時間を捻出することはないわけですから、準備には相応の時間を要します。それでも開業というステージに辿り着いた先輩医師たちは、どんな理由やきっかけがあって目標を達成することができたのでしょうか?
開業を決意する理由にはどんなものがある?
社団法人日本医師会が公表している「開業動機と開業医(開設者)の実情に関するアンケート調査」によると、アンケートに回答した開業医の開業動機1位は「理想の医療の追及」であることがわかっています。
この回答だけ見ると、高い志を持っている人こそ開業の道を進むのだな!と思う人も多いかもしれません。しかし、2位以降は、「将来に限界を感じた」「経営も含めたやりがい」「精神的ストレスに疲弊」「過重労働に疲弊」となっています。
このことから、開業医を目指すきっかけとしてはおおまかに
- 自分の理想を叶えるために開業しようと思った
- 勤務医として働き続けるより開業したほうがよいと思った
という2タイプに分けられるようです。
さらにランキングを見てみると、7位には「労働条件が魅力的」、9位には「収入が魅力的」もランクインしていますが、労働条件や収入面に魅力を感じて働き方を選ぶことも間違いではありません。これは医師に限らずどんな職種にもいえることです。ただし、より条件のよい働き方、よりよい収入を得るためには、言うまでもなくそれなりに努力する必要があります。
【新規開業の場合の開業動機】
1位 | 理想の医療の追及(42.4%) |
2位 | 将来に限界を感じた(35.1%) |
3位 | 経営も含めたやりがい(26.3%) |
4位 | 精神的ストレスに疲弊(21.0%) |
5位 | 過重労働に疲弊(18.6%) |
6位 | 家族の事情(17.7%) |
7位 | 労働条件が魅力的(9.7%) |
8位 | 親族から要請(9.4%) |
9位 | 収入が魅力的(8.4%) |
開業医になるために必要なこととは?
続いては、開業という目標を達成するためには、具体的にどう努力する必要があるのかを説明していきます。
クリニックの明確なコンセプトを考える
「開業したい」という漠然とした思いを抱いているだけでは、思いを形にすることはできません。主なターゲット層、特に力を入れたい治療、内装イメージなどを詳細まで思い描いて紙に書き出していくことで、クリニックのコンセプトや診療方針を決定することが必要です。
参照: クリニックのコンセプトの作り方は?どうすれば浸透する?
開業するエリアや物件を決める
主なターゲットやクリニックのコンセプトが決まれば、どんなエリア、どんな物件がふさわしいのかが自ずとみえてきます。理想のエリアや物件が固まったら、「そのエリアで開業した結果、どの程度の集患=年収が見込めるのか」を図るために、「診療圏調査」を行います。診療圏調査はオンライン上にて無料で提供もされていますが、より正確な予測を立てたい場合はプロに頼むのが望ましいでしょう。
物件に関しては、戸建て、テナント、医療モールなどのいくつかの選択肢がありますが、レイアウトの自由度や予算など複数の要素をチェックしながら、もっとも理想に近いものを選ぶのが一般的です。ただし、選定に時間をかけていたらいい物件はすぐに埋まってしまうので注意が必要です。
参照: 診療圏調査は信ぴょう性がある?実績のある調査会社は?
事業計画を策定して、開業資金を調達する
開業する物件が決まったら、必要な資金もあらかた分かってくるので、事業計画書を策定して資金調達を開始します。事業計画書が信頼に足るものでなければ、金融機関も融資に対して首を縦に振らないので、事業計画書作成には十分に時間をかけます。
事業計画書は、ざっくりいうと「いつまでにどのくらいの収入を得られる見込みなので、それに伴い、返済をいつまでに終わらせられるということになります」が伝わるものでなければなりません。そのためには、収入だけでなく、出ていくお金についてもしっかりとイメージしておきましょう。
クリニックを開業したら何にいくらかかるのか、毎月の出費としては何が考えられるのか?スタッフの給料の相場はどのくらいなのか?など、調べることはたくさんあります。調べてもわからないことがある場合は、迷わずプロを頼りましょう。
参照: 「クリニック開業時の融資」について“知っておきたいこと”とは?
内装工事や医療機器の選定などを進める
資金が工面できたら、いよいよ内装工事や医療機器選定がはじまります。どんな内装にしてどんな医療機器をそろえたいかはこの時点では既に書き出していますが、細かな調整については随時発生しますし、たとえば院内に設置したい備品などについては、内装が完成に近づかないとイメージできないため、買い物リストが固まるまでにも時間がかかります。
医療機器に関しては、新品か中古か、購入するかリースにするかなどの選択肢によって、発注先だけでなく、耐用年数や経費の計上方法なども異なってきます。
参照: 新規医院の2大コストは内装工事と医療機器!注意すべきポイントは?
クリニックのことを知ってもらうために宣伝する
開業後、すぐに患者に来院してもらうためには、数か月前から広告宣伝に取り組んでおく必要があります。近隣の潜在に患者に対してアプローチするためにチラシを配ったり駅に看板を出したりするのはもちろん、インターネットを活用してより多くの人に情報を発信することが大切です。
また、紙のチラシを作るにしてもオンラインで広告を出すにしても、そのなかに自院のホームページのURLを掲載することが不可欠です。つまり、チラシを作成したりウェブに出稿したりする前に、ホームページを立ち上げることが必須ということになります。
ホームページはある程度知識があれば自分で作成することもできなくはありませんが、検索にひっかかりやすい仕組みを構築するためにはそれなりの知識では不十分なので、プロに意見を聞くなどするといいでしょう。
参照: クリニック開業時のホームページや広告制作はどこに頼めばいい?
一緒に働いてくれるスタッフを探す
一人院長のクリニックにするならこの工程は不要ですが、多くの場合、受付事務や看護師などのスタッフを探す必要があります。スタッフの採用手段としては、人材会社の利用や求人雑誌の活用、知り合いからの紹介などが考えられますが、昨今はドクター個人のSNSでスタッフを募集している(スタッフ募集の告知をする)ケースも増えています。
どの方法にもメリット、デメリットがあるので、複数の方法で募集をかけながら、よりよい人材探しを試みるのもいいかもしれません。
各種行政手続きをする
クリニック開設時には、各種行政手続きが必須です。たとえば、保健所には「診療所開設届」を提出することが不可欠ですし、厚生局に「保健医療機関指定申請書」を提出することも必要です。
しかも、書類を提出すれば問題なく開業できるというわけではなく、保健所の検査などを受ける必要もあります。書類作成に対して苦手意識が高いなら、過不足なく書類を準備することに時間がかかるかもしれません。
開業を決意したら、必要に応じてプロを頼るとスムーズ
上記に列記した通り、開業に必要な準備は、物件探しから資金調達、ホームページ作成、各種行政手続きにいたるまでさまざまに存在します。そのすべてを自分ひとりでこなすことは可能ですし、実際に誰の手も借りずに開業に漕ぎつけているドクターもたくさんいます。
しかし、説明を読んで「面倒くさそうだな」「自分でやりたくないな」と感じる場合は、多少お金がかかってもプロを頼ったほうがいいかもしれません。もちろん、プロに頼ればそのぶんお金がかかるので、「本当は自分でやりたくないけどやるしかない」というパターンもあるので最終的には本人の判断になりますが、参考までに、前半でも取り上げた「開業動機と開業医(開設者)の実情に関するアンケート調査」によると、2009年時点における新規開業の平均年齢は41.3歳との結果が出ています。
平均年齢以上だと開業できないということは決してありませんが、少しでも早くスタート地点に立ちたいと考えるなら、“餅は餅屋”の考え方をもとに準備を進めてみてもいいかもしれませんね。
参照: 開業動機と開業医(開設者)の実情に関するアンケート調査p.3(PDF4枚目)
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この記事は、2024年2月時点の情報を元に作成しています。