求人票に「嘱託医」と書く。定年を迎えた事務長を「嘱託」で残す。産業医を「嘱託」で頼む。
どれも同じ言葉ですが、指しているものは別々です。
「嘱託」は法律上の雇用形態ではありません。労働基準法にも労働契約法にも定義がなく、
慣習として使われている呼び方です。だから、契約書に「嘱託」とだけ書いても中身は決まりません。
この記事では、クリニックで「嘱託」が使われる3つの場面を分け、
それぞれで契約書に何を書くべきかを整理します。
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嘱託医(学校医・園医・産業医など)への依頼そのものについては、嘱託医とは?保育園・学校・介護施設での役割と報酬相場で詳しく扱っています。
「嘱託」は法律用語ではない
まず前提を1つ。労働基準法・労働契約法・パートタイム有期雇用労働法のいずれにも、
「嘱託」という区分は存在しません。
法律が区別しているのは次の2つだけです。
| 法律上の区分 | 何で分かれるか |
|---|---|
| 無期契約か、有期契約か | 契約期間の定めがあるかどうか |
| 通常の労働者か、短時間・有期雇用労働者か | 所定労働時間の長さ、契約期間の有無 |
「嘱託」と呼んでいる人が、このどちらに当たるかは契約の中身で決まります。
呼び方では決まりません。ここを取り違えると、社会保険の加入判定や
無期転換ルールの適用で誤ります。
クリニックで「嘱託」が指す3つのもの
① 定年後の再雇用
いちばん多い使われ方です。定年(多くは60歳)で一度退職し、
有期契約で結び直した人を「嘱託職員」と呼ぶ慣習があります。
高年齢者雇用安定法は、65歳までの雇用確保措置を事業主に義務づけています。
措置は「定年の引上げ」「定年の廃止」「継続雇用制度の導入」の3つから選べ、
多くのクリニックは3つめの継続雇用制度=再雇用を選びます。この受け皿が「嘱託」です。
ここで決めるのは次の4点です。
- 契約期間(1年更新が一般的)と、更新の上限年齢
- 所定労働時間(フルタイムのままか、短くするか)
- 賃金(定年前と変える場合、その根拠)
- 業務内容(変える場合、どこまで変えるか)
⚠️ 賃金を下げるなら、業務内容や責任の違いを説明できるようにしておきます。
同じ仕事のまま賃金だけを下げる形は、パートタイム有期雇用労働法が禁じる
不合理な待遇差に当たり得ます。
② 嘱託医・産業医など、外部の医師に依頼するもの
学校医、園医、施設の配置医、産業医。
これらは「嘱託医」と呼ばれますが、多くは雇用契約ではなく委任・準委任契約です。
雇用なのか委任なのかで、次が全部変わります。
| 雇用契約 | 委任・準委任契約 | |
|---|---|---|
| 労働時間の管理 | 必要 | 不要 |
| 社会保険 | 要件を満たせば加入 | 対象外 |
| 報酬の性質 | 給与所得 | 事業所得(源泉徴収の扱いが異なる) |
| 契約の終わらせ方 | 解雇規制がかかる | 契約条項に従う |
🔴 「嘱託医」と書いてあるからといって、自動的に委任契約になるわけではありません。
指揮命令を受けて決まった時間に勤務している実態があれば、
名称にかかわらず労働者と判断されます。
③ 非常勤の職員全般を、なんとなくそう呼んでいるもの
3つめは、パート・アルバイトと区別せずに「嘱託」と呼んでいるケースです。
これはほぼ確実に整理が必要な状態です。
非常勤との違いを説明できないなら、その呼び方は使わないほうが安全です。
求人票で「嘱託」とだけ書くと、応募者は上記①〜③のどれか分からず、問い合わせが増えます。
常勤・非常勤との関係を整理する
医療機関では、診療報酬の施設基準に「常勤」の定義が出てきます。
ここでの常勤は、その医療機関が定める所定労働時間(週32時間を下回る場合は32時間)以上勤務する者
という考え方が基本です。
つまり、こう整理できます。
- 常勤/非常勤 … 勤務時間の長さで決まる。施設基準の話
- 無期/有期 … 契約期間の有無で決まる。労働法の話
- 嘱託 … どちらでもない、呼び名
「嘱託だから非常勤」ではありません。
定年後再雇用でフルタイム勤務なら、嘱託であり常勤です。
施設基準の届出でここを取り違えると、算定要件を満たさなくなる可能性があります。
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契約書に書くべき5項目
呼び名が「嘱託」でも、労働契約なら労働条件通知書の交付義務がかかります。
最低限、次を明記します。
- 契約期間(有期なら、期間と更新の有無・判断基準)
- 就業の場所と業務内容(将来の変更の範囲も含む)
- 始業・終業時刻、所定労働時間、休日
- 賃金(決定方法、締日・支払日、昇給の有無)
- 退職に関する事項(解雇事由を含む)
⚠️ 2024年4月から、有期契約では「更新上限の有無と内容」「無期転換申込機会」
「無期転換後の労働条件」の明示が追加されています。
定年後再雇用を1年更新で回しているクリニックは、ここが漏れやすい箇所です。
無期転換ルールとの関係
有期契約が通算5年を超えると、労働者は無期契約への転換を申し込めます(労働契約法18条)。
定年後再雇用を1年更新で続けると、65歳前後で5年に到達します。
ただし、「専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法」(有期特措法)の
第二種計画の認定を都道府県労働局から受けていれば、
定年後引き続き雇用される期間は無期転換申込権が発生しません。
- 認定を受けていない → 5年超で無期転換申込権が生じる
- 認定を受けている → 継続雇用の期間は算入されない
手続きは事前の計画認定が必要で、後から遡れません。
定年後再雇用を制度として持っているなら、認定の有無を一度確認しておく価値があります。
よくある質問
Q. 嘱託職員に賞与や退職金は必要ですか。
法律上の義務はありません。ただし就業規則に定めがあれば、その定めに従います。
正職員と職務内容が同じなのに賞与だけ支給しないという形は、
不合理な待遇差として争点になり得ます。
Q. 嘱託医の報酬から源泉徴収は必要ですか。
委任契約で医師個人に支払う場合、報酬・料金等として源泉徴収の対象になることがあります。
契約の性質と支払先(個人か法人か)で扱いが変わるため、顧問税理士に確認してください。
Q. 就業規則は嘱託職員にも適用されますか。
正職員向けの就業規則をそのまま適用すると、想定外の条項まで効いてしまいます。
嘱託・パート向けの規程を別に作るのが一般的です。
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まとめ
「嘱託」は法律用語ではなく、クリニックでは主に
①定年後再雇用、②外部の医師への依頼、③非常勤の呼称、の3つで使われています。
実務で決め手になるのは、呼び名ではなく次の3点です。
- 雇用契約か、委任契約か(労働時間管理・社会保険・解雇規制が変わる)
- 有期か、無期か(無期転換ルールと、2024年からの明示事項が変わる)
- 常勤か、非常勤か(施設基準の判定が変わる)
求人票や契約書で「嘱託」とだけ書いている状態は、この3つが未確定という意味です。
一度、実際の勤務実態と契約書を突き合わせて整理しておくと、
社会保険の加入判定でも施設基準の届出でも迷わなくなります。
参考
- 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律
- 労働契約法(第18条 無期転換ルール)
- 短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律
- 専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法
- 厚生労働省「労働条件通知書の記載事項(2024年4月改正)」
- 厚生労働省「診療報酬における常勤・非常勤の取扱い」
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
