レセプト請求の期限には2種類あります。毎月の締切と、「いつまで遡って請求できるか」という上限です。この2つは根拠になっている決まりが違うので、分けて考えないと答えが出ません。
医療事務からよく出る質問も、だいたいこの2つに分かれます。「10日を過ぎたらどうなるか」は前者、「保険証を後から持ってきた患者の分をいつまで出せるか」は後者です。
この記事では、締切の根拠、オンライン請求の受付時間、締切に間に合わなかったときの扱い、そして遡れる限界を順に整理します。
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毎月の締切は翌月10日
毎月の締切は、療養の給付及び公費負担医療に関する費用の請求に関する命令(昭和51年厚生省令第36号。通称「請求命令」)で定められています。各月分の診療報酬は、翌月10日までに審査支払機関へ請求します。
社会保険診療報酬支払基金も、オンライン請求について「各月分について翌月10日までに行わなければならない」と案内しています。10日という日付は、レセコンの設定でも支払基金の内規でもなく、省令に根拠があります。
提出先は、保険の種類で分かれます。
| 保険の種類 | 提出先 |
|---|---|
| 被用者保険(協会けんぽ、健保組合、共済など) | 社会保険診療報酬支払基金 |
| 国民健康保険、後期高齢者医療 | 国民健康保険団体連合会 |
オンライン請求の受付時間
請求方法によって、実際に手を動かせる時間が変わります。支払基金が示している受付は次のとおりです。
| 請求方法 | 受付 |
|---|---|
| オンライン請求(毎月5日〜7日) | 8時から21時まで |
| オンライン請求(毎月8日〜10日) | 8時から24時まで |
| 光ディスク等・書面による請求(9日まで) | 土曜・日曜・祝日を除き、17時30分まで |
| 光ディスク等・書面による請求(10日) | 17時30分まで |
オンライン請求は休日を含めて受け付けられるので、10日が土日祝でも当日中に送れます。媒体や書面の請求は、9日までが土曜・日曜・祝日を除いた17時30分まで、10日が17時30分までです。締切日は同じでも、10日の夜に作業できるかどうかが変わります。
もうひとつ、オンライン請求だけの利点があります。受付・事務点検ASPで不備のあるレセプトデータを事前に見つけ、修正のうえ当月のうち(12日まで)に請求できる仕組みです。10日までにいったん送り、エラーが出たものを12日までに直して出し直せば、月遅れにせずに済みます。
10日を過ぎたらどうなるか
10日を過ぎたら請求できなくなるわけではありません。翌月以降に回す「月遅れ請求」として扱われます。
- 診療月の翌月10日に間に合わなかった分を、翌々月以降の請求に含める
- 請求自体は受け付けられ、審査も通常どおり行われる
- 入金は、通常より1か月以上あとになる
月遅れ請求そのものに罰則はありませんが、資金繰りには直接ひびきます。とくに1件あたりの点数が大きいレセプトを月遅れにすると、その月の入金が目に見えて減ります。
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返戻の再請求は「期限切れ」ではない
現場で混同されやすいのが、返戻・査定・月遅れの3つです。原因も、次にやることも違います。
| 種類 | 何が起きたか | 次にやること |
|---|---|---|
| 月遅れ請求 | 期限内に出せなかった | 翌月以降の請求に含める |
| 返戻 | 記載内容の不備などで、審査支払機関からレセプトが戻ってきた | 内容を直して再請求する |
| 査定(減点・査定減) | 請求は通ったが、一部の点数が認められなかった | 内容に納得できなければ再審査を申し出る |
返戻されたレセプトは、支払基金の案内では「CSV形式の返戻レセプトデータをダウンロードした後、レセコンに取り込み、訂正のうえ、翌月に請求する」流れになります。返戻は締切を過ぎたことによる不利益ではなく、正規の差し戻しです。直して出せば通常どおり支払われます。
返戻を放置すると、そのレセプトは請求していないのと同じ状態のまま残ります。月次で返戻件数と未再請求件数を数えておくと、取りこぼしに気づけます。
遡って請求できる限界
「何年前の診療まで請求できるか」は、請求命令ではなく時効の話です。ここで注意したいのは、似た場面に2つの別々の権利があり、時効の年数が違うことです。
| 権利 | 誰の権利か | 時効 |
|---|---|---|
| 診療報酬の請求権 | 保険医療機関が保険者に対して持つ権利 | 民法第166条第1項による(権利を行使することができることを知った時から5年) |
| 保険給付を受ける権利 | 被保険者が保険者に対して持つ権利。療養費の請求などがこれにあたる | 健康保険法第193条第1項により2年 |
自院が審査支払機関を通じて出すレセプト請求は前者です。一方、患者がいったん全額を払い、あとから保険者へ療養費として請求するのは後者で、2年で時効消滅します。
なお民法の消滅時効は令和2年4月1日施行の改正で変わっています。改正前に発生した債権には旧法が適用され、医師の診療に関する債権は3年でした。かなり古い診療分を扱うときは、発生日が改正の前か後かで年数が変わります。
保険証を後から持ってきた患者の扱い
窓口で資格を確認できず自費で預かった患者が、後日に資格を確認できた場合、どこまで遡って保険請求できるかは、上の2つの権利のどちらを使うかで変わります。
- 受診日時点で有効な資格があり、その資格で保険請求に切り替える場合は、自院の診療報酬請求権の問題になります
- 患者がすでに全額を支払い、患者自身が保険者へ払い戻しを求める場合は、保険給付を受ける権利の問題になり、2年の時効がかかります
どちらで処理するかは保険者側の判断が入るため、期間が空いている案件は、実際に請求する前にその保険者へ確認します。何年も前の分を独断で切り替えて請求すると、返戻を重ねて事務が増えます。
締切に間に合わせるための受付の段取り
月遅れ請求の原因は、レセプト点検の遅れよりも、その手前の情報不足であることが多くあります。締切から逆算して、次の順に片づけます。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 診療の当日 | 資格確認で取得した情報と、公費の受給者証の有効期限を確認する |
| 月末まで | 病名の付け忘れと、算定した項目に必要な記載事項を埋める |
| 翌月1日〜4日 | レセプトを出力して点検する。返戻の常連パターンを先に見る |
| 翌月5日〜10日 | オンラインで送信する。受付・事務点検ASPのエラーを確認する |
| 翌月11日〜12日 | エラー分を修正して再送する |
診療当日にできることを翌月に回すと、患者に連絡が取れず月遅れが確定します。とくに公費の受給者証は、有効期限が切れていると請求先が変わるため、受付時に見る運用にしておきます。
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遅れそうなときの判断
全部を無理に間に合わせる必要はありません。どこで線を引くかの目安です。
- 記載事項が足りないだけなら、10日までに出したうえで、受付・事務点検ASPのエラーを12日までに直します。月遅れにする必要はありません
- 患者に確認しないと決まらない内容(病名、公費の情報など)が残っているレセプトは、無理に出さず月遅れにします。誤った内容で出すと返戻になり、結局1か月遅れるうえに事務が二度手間になります
- 返戻が返ってきたレセプトは、期限を気にせず内容の修正を優先します。返戻は締切とは別の手続きです
- 何年も前の診療分は、請求する前に時効と資格の扱いを確認します。出せるかどうかを調べずに請求すると、返戻が続きます
- 月遅れが毎月一定量出ているなら、締切の運用ではなく受付の情報収集を見直します。締切前の点検を厚くしても、情報が足りない分は埋まりません
よくある質問
レセプトの提出期限が10日なのはなぜですか
療養の給付及び公費負担医療に関する費用の請求に関する命令(昭和51年厚生省令第36号)で、各月分を翌月10日までに請求することとされているためです。
10日が土日祝日のときはどうなりますか
オンライン請求は休日を含めて受け付けられ、8日から10日は8時から24時まで送信できます。光ディスク等や書面による請求は、9日までが土曜・日曜・祝日を除いた17時30分まで、10日が17時30分までの受付です。
10日に間に合わなかったレセプトは請求できなくなりますか
なくなりません。翌月以降の請求に含める月遅れ請求として扱われます。入金が遅れるだけで、請求そのものは可能です。
返戻されたレセプトの再請求に期限はありますか
返戻分は訂正のうえ翌月に請求する流れが案内されています。ただし放置すると請求していないのと同じ状態が続くため、月次で残件を確認します。
何年前の診療まで遡って請求できますか
診療報酬の請求権の時効は民法第166条第1項によります。一方、患者が保険者に対して持つ保険給付を受ける権利は健康保険法第193条第1項により2年です。どちらの手続きになるかで年数が変わるため、期間が空いている案件は保険者に確認してから進めます。
まとめ
- 毎月の締切は診療月の翌月10日で、根拠は請求命令(昭和51年厚生省令第36号)
- オンライン請求は5日から7日が8時〜21時、8日から10日が8時〜24時。光ディスク等・書面は9日までが平日の17時30分まで、10日が17時30分まで
- 受付・事務点検ASPを使うと、エラー分を12日まで修正して請求できる
- 10日を過ぎても請求はできる。月遅れ請求として翌月以降に回るだけで、入金が遅れる
- 返戻・査定・月遅れは別物。返戻は正規の差し戻しで、直して出せば支払われる
- 遡れる限界は、自院の診療報酬請求権(民法第166条第1項)と、患者の保険給付を受ける権利(健康保険法第193条第1項で2年)のどちらを使うかで変わる
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参考
- e-Gov法令検索「療養の給付及び公費負担医療に関する費用の請求に関する命令」(昭和51年厚生省令第36号) https://laws.e-gov.go.jp/law/351M50000100036/
- 社会保険診療報酬支払基金「保険医療機関・保険薬局及び訪問看護に係るオンライン請求」 https://www.ssk.or.jp/seikyushiharai/iryokikan/index.html
- 社会保険診療報酬支払基金「療養の給付及び公費負担医療に関する費用の請求に関する命令(請求命令)について」 https://www.ssk.or.jp/smph/seikyushiharai/iryokikan/rezept_02.html
- e-Gov法令検索「健康保険法」(大正11年法律第70号)第193条 https://laws.e-gov.go.jp/law/211AC0000000070
- e-Gov法令検索「民法」(明治29年法律第89号)第166条 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
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