医療機器安全管理責任者は、病院だけでなく無床の診療所にも配置が必要です。心電計、AED、超音波診断装置、吸引器、滅菌器などを置いているクリニックなら、責任者を決めたうえで、保守点検の計画と記録、新しい機器を入れたときの研修をそろえておく必要があります。
この記事は、無床診療所の院長・事務長に向けて、誰を責任者にするか、どの機器に保守点検計画を立てるか、保健所の立入検査で何を見られるかを整理します。個々の機器の操作方法は扱いません。
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医療機器安全管理責任者は無床の診療所にも配置義務がある
根拠は医療法第6条の12と、医療法施行規則第1条の11第2項第3号です。病院・診療所・助産所の管理者は、医療機器の安全使用のための責任者(医療機器安全管理責任者)を配置し、次の3つを行わせなければなりません。
- 従業者に対する医療機器の安全使用のための研修
- 医療機器の保守点検に関する計画の策定と、計画どおりの保守点検の実施
- 医療機器の安全使用に必要な情報の収集と、改善のための方策の実施
この規定には「病院と有床診療所に限る」という条件がありません。血圧計と心電計しか置いていない外来専門のクリニックでも対象です。
医療機器安全管理責任者になれる人と兼任の判定表
要件は、厚生労働省の通知「医療機器に係る安全管理のための体制確保に係る運用上の留意点について」(令和3年7月8日 医政総発0708第1号・医政地発0708第1号・医政経発0708第2号。平成30年の同名通知はこれで廃止)に書かれています。医療機器の使い方や保守点検の方法などに十分な経験と知識を持つ常勤職員で、次のどれかの資格を持っていることです。
- 医師、歯科医師、薬剤師、看護師
- 診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士
- 助産師(助産所に限る)
- 歯科衛生士(主として歯科医業を行う診療所に限る)
あわせて、保守を含めた医療機器の管理全般を実務として担える人であることも求められています。
兼務について、通知は「病院における医療機器安全管理責任者は、管理者との兼務を不可とする」としています。診療所はこの制限の外なので、院長が兼ねられます。また、医薬品安全管理責任者などの他の役職との兼務は、病院も含めて認められています。
| 候補 | なれるか | 判断の理由 |
|---|---|---|
| 院長(常勤の医師) | なれる | 管理者との兼務の禁止は病院だけ |
| 院長が医薬品安全管理責任者も兼ねる | なれる | 他の役職との兼務は通知で認められている |
| 常勤の臨床検査技師・診療放射線技師 | なれる | 検査機器・X線装置を多く持つクリニックでは実務に合う |
| 常勤の看護師 | なれる | 資格要件に入っている |
| 常勤の准看護師 | 保健所に確認する | 通知が挙げるのは「看護師」で、准看護師は書かれていない |
| 非常勤の医師・技師 | なれない | 常勤職員であることが要件 |
| 医療事務・事務長 | なれない | 資格要件に当たらない。点検記録の整理など作業の分担はできる |
医薬品側の要件と業務手順書の作り方は、医薬品安全管理責任者の記事で扱っています。
医療機器安全管理責任者が管理する医療機器の範囲
責任者が安全管理の体制を確保する対象は、医薬品医療機器等法第2条第4項の医療機器のうち、そのクリニックが管理するものすべてです。通知は、次の2つも含まれると明記しています。
- 医学管理をしている患者の自宅など、クリニックの外で使われる医療機器(在宅酸素の機器、在宅で使う吸引器など)
- クリニックに貸し出された医療機器(デモ機・代替機など)
ただし、すべての機器に同じ重さの管理を求めているわけではありません。研修は「新しく入れた機器」、保守点検計画は「保守点検が必要と考えられる機器」と、業務ごとに対象が絞られています。
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保守点検計画を立てる医療機器の決め方
通知は、医療機器の特性などから保守点検が必要と考えられる機器について、機種別に保守点検計画を立てるよう求めています。その例として、次の10種類を挙げています。
- 人工心肺装置及び補助循環装置
- 人工呼吸器
- 血液浄化装置
- 除細動装置(AEDを除く)
- 閉鎖式保育器
- X線CT装置
- 診療用高エネルギー放射線発生装置(直線加速器等)
- 診療用粒子線照射装置
- 診療用放射線照射装置(ガンマナイフ等)
- MRI装置
無床診療所で当てはまりやすいのは、CT・MRI、AEDではない除細動器、在宅患者に使う人工呼吸器くらいです。ただ、通知は「次に掲げる医療機器が含まれる」という書き方で、この10種類で終わりではありません。それ以外の機器は、次の順で判定すると決めやすくなります(この順番は通知が定めたものではなく、通知の考え方に沿った目安です)。
| 確かめること | 見る場所 | 判定 |
|---|---|---|
| 10種類に入っているか | 上の一覧 | 入っていれば計画を立てる |
| 添付文書に定期点検や消耗品の交換時期の記載があるか | 添付文書の保守・点検に関する欄 | 記載があれば、その時期・間隔で計画に載せる |
| 特定保守管理医療機器に指定されているか | 添付文書、または製造販売業者への問い合わせ | 該当すれば計画に載せ、外部委託するときの業者基準にも注意する |
| 故障すると診断・治療が止まる、または患者に害が出るか | 院内での使い方 | 該当すれば、添付文書に記載が少なくても計画に載せる |
| 体温計・血圧計のように、使用前の確認だけで足りるか | 院内での使い方 | 計画は不要。日常点検の対象にとどめる |
特定保守管理医療機器は、医薬品医療機器等法第2条第8項で「保守点検、修理その他の管理に専門的な知識及び技能を必要とする」として厚生労働大臣が指定した医療機器です。通知は、計画を立てるときに添付文書の保守点検に関する事項を参照し、必要なら製造販売業者に情報提供を求めるよう定めています。判定に迷う機器は、購入元の業者にこの2点を聞くのが早道です。
AEDは保守点検計画とは別に日常点検の担当者を決める
AEDは上の10種類から外れていますが、管理が要らないわけではありません。厚生労働省の平成21年4月16日の通知(医政発第0416001号・薬食発第0416001号)は、設置者に点検担当者を置き、次の点検をさせるよう求めています。
- AED本体のインジケータの表示を日常的に確かめる
- 電極パッドとバッテリの交換時期を表示ラベルで確かめ、期限までに交換する
クリニックでは、医療機器安全管理責任者がこの点検担当者を決め、確認した日と担当者を点検表に残す形にすると、立入検査でもまとめて示せます。
医療機器の保守点検計画のひな形と点検記録の残し方
保守点検計画には、次の4項目を書きます(通知の第3の1)。機種ごとに1行で足ります。
| 医療機器名 | 製造販売業者名 | 型式 | 保守点検の時期・間隔・条件 |
|---|---|---|---|
| 除細動器 | ○○株式会社 | ○○-1000 | 毎月1回 院内で作動確認、年1回 業者による定期点検 |
| CT装置 | ○○株式会社 | ○○ | 始業時点検、業者による定期点検(添付文書の間隔による) |
| 高圧蒸気滅菌器 | ○○株式会社 | ○○ | 添付文書に定める間隔で業者点検、使用ごとの確認 |
計画を立てた機器は、1台ごとに保守点検の状況を記録します。記録に入れる項目は次の5つです。
| 記録する項目 | 記入例 |
|---|---|
| 医療機器名 | 除細動器 |
| 製造販売業者名 | ○○株式会社 |
| 型式、型番、購入年 | ○○-1000、製造番号○○、2023年購入 |
| 保守点検の記録 | 2026年9月10日、定期点検(出力確認・バッテリ交換)、点検者 ○○株式会社 ○○ |
| 修理の記録 | 2026年3月2日、ケーブル断線のため交換、修理者 ○○株式会社 ○○ |
計画は立てっぱなしにしません。通知は、点検・使用・修理の状況を評価し、計画を見直すよう求めています。年1回、点検記録を見返して「故障が多い機器」「点検が遅れた機器」を洗い出し、計画の間隔を変えた日付を残しておくと、見直しの記録になります。
上の10種類に当たる機器は、通知の別添「医療機関における生命維持管理装置等の研修および保守点検の指針」「医療機関における放射線関連機器等の研修および保守点検の指針」も踏まえて記録し、保存期間を院内で決めて保存します。なお、X線装置を備える診療所には、医療機器安全管理責任者とは別に、診療用放射線の安全利用のための責任者の配置と指針の策定が求められています(医療法施行規則第1条の11第2項第3号の2)。
医療機器の保守点検を業者に委託するときの注意
保守点検を外部の業者に任せる場合でも、医療機器安全管理責任者は点検の実施状況などの記録を保存し、管理の状況を把握しておく必要があります。業者の報告書をファイルに綴じるだけでなく、上の記録表に日付と概要を転記しておくと、機器ごとの履歴が一目で分かります。
特定保守管理医療機器の保守点検を委託するときは、委託先が医療法第15条の3第2項の基準を満たしている必要があります(医療法施行令第4条の8第4号、医療法施行規則第9条の8の2。基準の中身は同規則第9条の12)。契約前に、業者が基準に適合していることを確かめておきます。
医療機器安全管理責任者が行う研修は新規導入時が中心
診療所で求められる研修は、主に新しい医療機器を入れたときの研修です。過去に使った実績のない機器を導入するときは、使う予定の職員に研修を行い、内容を記録します。体温計・血圧計など、すでに使っていて操作が周知されている機器は、この限りではないとされています。
研修の形は問われません。メーカーや販売業者による取扱説明も研修に含まれ、ほかの医療安全の研修と一緒に行っても構いません。納品時の取扱説明に職員を同席させ、そのまま記録を残すのが最も手間の少ない方法です。
研修で扱う内容は次の5つです。
- 医療機器の有効性・安全性に関する事項
- 医療機器の使用方法に関する事項
- 医療機器の保守点検に関する事項
- 不具合等が発生した場合の対応(施設内での報告、行政機関への報告等)に関する事項
- 医療機器の使用に関して特に法令上守るべき事項
記録には、開催または受講の日時、出席者、研修項目、対象とした医療機器の名称、院外で行った場合はその場所を残します。
| 記録する項目 | 記入例 |
|---|---|
| 開催日時 | 2026年11月5日(木)12:30〜13:00 |
| 対象の医療機器 | 超音波診断装置 ○○(新規導入) |
| 実施者 | ○○株式会社 担当者による取扱説明 |
| 研修項目 | 使用方法、日常点検、不具合時の連絡先と院内報告、プローブの消毒 |
| 出席者 | 院長、看護師○名(氏名を列挙) |
| 実施場所 | 院内(院外研修の場合は会場名) |
| 欠席者への伝達 | 資料を配布し、○月○日に説明(伝達した者・日付) |
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医療機器の安全情報の集め方と不具合の報告
医療機器安全管理責任者は、添付文書や取扱説明書を整理して管理し、製造販売業者などから不具合情報・安全性情報をまとめて受け取り、使う職員に伝えます。いまの規則では、次の3つの使用に関する情報を集めることも明記されています。
- 承認・認証・届出を経ていない医療機器の使用
- 承認された使い方と異なる使用
- 禁忌・禁止に該当する使用
添付文書は、機器ごとに紙またはPDFで1か所にまとめ、保守点検記録と同じフォルダに置いておくと、点検の時期を調べるときにも使えます。
不具合で患者に健康被害が出たときの報告も決めておきます。医薬品医療機器等法第68条の10第2項は、医師などの医薬関係者に対し、医療機器の副作用・不具合などが原因とみられる疾病・障害・死亡の発生を知り、危害の発生や拡大を防ぐ必要があると認めたときは、厚生労働大臣に報告するよう義務づけています。院内では、まず責任者と院長に報告する流れにしておきます。
保健所の立入検査で医療機器安全管理について見られる点
保健所の立入検査(医療法第25条第1項)では、福岡県の令和8年度の診療所向け調査票を例にとると、医療機器について次の点が確認されます。
| 確認される点 | 用意しておくもの |
|---|---|
| 責任者を配置しているか、資格と常勤か | 責任者の氏名・資格・勤務形態が分かる書類 |
| 新しい機器の導入時に研修を行っているか | 導入時研修の記録 |
| 研修に5つの内容が含まれ、記録があるか | 研修記録(昨年度の回数、直近の開催日を答えられるように) |
| 保守点検計画を立てているか | 機種別の保守点検計画 |
| 機器ごとに保守点検・修理を記録しているか | 保守点検記録、業者の報告書 |
| 添付文書や安全性情報を管理し、職員に伝えているか | 添付文書のファイル、情報を周知した記録 |
2026年4月1日からは、医療法施行規則第1条の11第1項第6号として「医療に係る安全管理に関する記録を整備すること」が加わり、無床診療所も対象になりました。保守点検記録や研修記録は、これまで以上に、そろっているかどうかを問われると考えておきます。
よくある質問
院長が医療機器安全管理責任者と医薬品安全管理責任者を兼ねてもよいですか
兼ねられます。病院では管理者との兼務が認められていませんが、診療所は対象外です。医療機器安全管理責任者が医薬品安全管理責任者などの他の役職を兼ねることも、通知で認められています。
血圧計を同じ型の新品に買い替えたときも研修は必要ですか
通知が研修を求めているのは、過去に使った実績のない新しい医療機器を入れるときです。血圧計のように操作が周知されている機器は除かれています。型が変わって操作や点検の方法が変わる場合は、納品時の取扱説明に職員を同席させ、記録を残しておくと安全です。
AEDも保守点検計画に入れる必要がありますか
通知が挙げる10種類では、除細動装置からAEDは除かれています。ただし、別の通知でAEDの点検担当者を置き、インジケータの日常確認と消耗品の交換を行うよう求められています。点検表をつけ、医療機器の管理記録と一緒に保管しておきます。
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まとめ
- 医療機器安全管理責任者は無床診療所にも必要。院長が兼ねてよく、医薬品安全管理責任者との兼任もできる
- 保守点検計画は、通知の10種類と、添付文書に定期点検の記載がある機器・特定保守管理医療機器を中心に機種別に立てる
- 計画は4項目、点検記録は機器ごとに5項目。業者に任せても記録は院内に残す
- 研修は新規導入時が中心。メーカーの取扱説明も研修として記録できる
- 2026年4月から医療安全の記録整備が規則に加わった。点検と研修の記録をそろえておく
参考
- e-Gov法令検索「医療法」(第6条の12、第15条の3、第25条) https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000205
- e-Gov法令検索「医療法施行令」(第4条の8) https://laws.e-gov.go.jp/law/323CO0000000326
- e-Gov法令検索「医療法施行規則」(第1条の11、第9条の8の2、第9条の12) https://laws.e-gov.go.jp/law/323M40000100050
- e-Gov法令検索「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(第2条、第68条の10) https://laws.e-gov.go.jp/law/335AC0000000145
- 厚生労働省「医療機器に係る安全管理のための体制確保に係る運用上の留意点について」(令和3年7月8日 医政総発0708第1号・医政地発0708第1号・医政経発0708第2号) https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000898766.pdf
- 厚生労働省 AEDの管理に関する通知(平成21年4月16日 医政発第0416001号・薬食発第0416001号)の掲載ページ https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/aed
- 厚生労働省「医療法施行規則の一部を改正する省令の施行に伴う留意事項等について」(令和8年3月31日 医政地発0331第1号) https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T260402G0170.pdf
- 福岡県「令和8年度 福岡県診療所立入検査自主点検調査票」 https://www.pref.fukuoka.lg.jp/uploaded/attachment/288333.pdf
- 鳥取県倉吉保健所「診療所・歯科診療所点検表(医療法関係)の手引き」 https://www.pref.tottori.lg.jp/secure/1295401/tebiki.pdf
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
