スタッフから「辞めたい」と言われたら、まず退職日を書面で確定させます。退職届の様式を院内で決めておけば、退職日・最終出勤日・有給休暇の扱いが一枚にそろい、あとで「言った・言わない」になりません。
この記事は、看護師や医療事務などのスタッフから退職の申し出を受けた院長・事務長に向けて、院内で使う退職届の様式例と記入例、退職願との違い、受け取ったときの確認事項、口頭だけで辞めると言われた場合の扱いをまとめます。社会保険や雇用保険の資格喪失など、退職後の手続きはスタッフ退職時にクリニックで必要な手続きとは?で扱っています。
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クリニックの退職届の様式例:書く項目と記入例
退職届に法律で決まった書式はありません。手書きでもパソコンでも、縦書きでも横書きでも有効です。クリニックで様式を用意するなら、あとで確認が要る項目をあらかじめ欄にしておくのがポイントです。
| 欄 | 書く内容 | 欄を設ける理由 |
|---|---|---|
| 提出日 | 院長(または事務長)に渡した日 | 退職日までの期間を数える起点になる |
| 宛名 | 医療法人名と理事長名、または個人開設なら院長名 | 退職の意思を受け取る権限のある人に宛てる |
| 所属・職種 | 看護師、医療事務、受付など | 引継ぎ先と、資格を要する人員配置の確認に使う |
| 氏名・署名 | 本人の署名 | 本人の意思であることを示す |
| 退職日 | 雇用契約が終わる日 | 社会保険・雇用保険の資格喪失日の基準になる |
| 最終出勤日 | 実際に勤務する最後の日 | 退職日との間を有給休暇の消化に充てるかが分かる |
| 退職理由 | 自己都合の場合は「一身上の都合により」で足りる | 詳しい理由は書かせなくてよい |
| 有給休暇の消化予定 | 残日数と、消化する日程の希望 | シフトの組み直しに使う |
| 受付欄 | 受け取った人の氏名と受付日 | いつ院が受け取ったかの記録になる |
記入例(院内様式・横書き)は次のとおりです。
退職届
医療法人○○会
理事長 ○○ ○○ 殿
私は、一身上の都合により、令和8年12月31日をもって退職いたします。
所属・職種:外来 看護師
最終出勤日:令和8年12月15日
有給休暇:残10日のうち、12月16日〜12月31日の勤務予定日に充てることを希望します
令和8年11月14日
氏名 ○○ ○○ (署名)
――――――――――――(以下、クリニック記入欄)
受付日:令和8年11月14日 受付者:事務長 ○○
退職日の確認:令和8年12月31日で確定(本人へ伝達済み)
受付欄を下に付けておくと、受け取った日と確定した退職日を同じ紙に残せます。控えをコピーして本人に渡しておくと、退職日の認識違いを防げます。
スタッフ本人が書く退職届の書き方:看護師・医療事務の記入例
院内様式が無い場合や、スタッフが自分で用意してきた場合も、中身は同じです。本人が書く場合は、縦書きで次のように書くのが一般的です。
退職届
私儀
このたび、一身上の都合により、
令和8年12月31日をもって退職いたします。
令和8年11月14日
○○クリニック 外来 看護師
○○ ○○ ㊞
医療法人○○会
理事長 ○○ ○○ 殿
スタッフから書き方を聞かれたときは、次の点だけ伝えれば足ります。
- 書き出しは「私儀(わたくしぎ)」、または省いてもよい
- 理由は自己都合なら「一身上の都合により」と書き、具体的な事情は書かなくてよい
- 退職日は院と話し合って決めた日を書く。決まっていなければ、提出前に院長・事務長と相談する
- 宛名は法人の代表者(理事長)か院長。直属の看護師長や主任ではない
- 手書きでもパソコンでもよい。パソコンで作る場合も氏名は自署にする
退職届は院の様式でも本人の書式でも効力は変わりません。院内様式を渡す場合も、本人が用意した書面を受け取らない理由にはなりません。
退職願と退職届の違い:撤回できるかどうかで使い分ける
退職願と退職届は、どちらも退職の意思を伝える書面ですが、法律上の意味が違います。院長が押さえておきたいのは、提出後に本人が撤回できるかどうかです。
| 退職願 | 退職届 | |
|---|---|---|
| 意味 | 「辞めさせてください」というお願い(合意による退職の申込み) | 「辞めます」という一方的な通知(辞職の意思表示) |
| 院の承認 | 承認して初めて退職が決まる | 承認が無くても、期間が経てば退職になる |
| 撤回 | 院が承諾を伝えるまでは、原則として撤回できる | 院に届いたあとは、原則として撤回できないとされる |
| 向いている場面 | 退職日をこれから話し合うとき | 退職日が決まっていて確定させたいとき |
退職願の撤回については、承諾の意思表示が本人に届くまでは、信義に反する特段の事情が無い限り撤回できるとした裁判例があります(白頭学院事件・大阪地判平成9年8月29日)。一方、退職承認の決定権がある人が退職願を受け取った時点で承諾があったとして、撤回を認めなかった最高裁判例もあります(大隈鐵工所事件・最三小判昭和62年9月18日)。
クリニックでは、院長が退職を承認する権限を持っていることがほとんどです。退職願を受け取ったら、「受理しました。退職日は○月○日で承認します」と書面かメールで本人に伝えておくと、承諾がいつ届いたかがはっきりします。反対に、引き止めたい気持ちがあるなら、承諾を伝える前に面談の場を持ちます。
院内様式を一本化するなら、退職日を話し合って決めたあとに「退職届」を出してもらう流れにすると、撤回をめぐる行き違いが起きにくくなります。
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退職届を受け取ったときの確認チェックリスト:退職日・有給消化・貸与物・引継ぎ
退職届を受け取ったその場か、数日以内の面談で、次の4つを確かめます。
| 確認する項目 | 確かめること | 注意点 |
|---|---|---|
| 退職日 | □ 退職日と最終出勤日を分けて決めたか □ 月末退職か月の途中か(社会保険料の扱いが変わる) □ 有期雇用なら契約期間の満了日との関係 |
決めた日付は書面で本人に返す |
| 有給休暇の消化 | □ 残日数を伝えたか □ 最終出勤日から退職日までに消化するか、勤務の合間に消化するか |
退職日を超えて時季をずらせないため、時季変更で消化を断るのは難しい |
| 貸与物の返却 | □ 白衣・ユニフォーム、名札 □ 鍵・セキュリティカード □ 院内の端末、ロッカー □ 電子カルテ・レセコン・院内システムのアカウント停止日 |
アカウントは最終出勤日の業務終了後に止める |
| 引継ぎ | □ 担当業務の一覧と引継ぎ先 □ 看護師の場合、人員配置や施設基準の届出に影響しないか □ 患者情報を持ち出さないことの確認(守秘義務の誓約書) |
引継ぎの期間を理由に、退職日そのものを先送りさせることはできない |
有給休暇は、残っている日数を退職日までに使うことを本人が希望すれば、断るのは難しいのが実情です。時季変更権は「ほかの日に変えてもらう」権利なので、退職日より後に変える日がありません。引継ぎの時間を確保したいなら、最終出勤日と退職日の間隔を本人と相談して決めます。
退職した本人から請求があれば、使用期間・業務の種類・地位・賃金・退職の事由を書いた退職証明書を遅滞なく交付する義務があります(労働基準法第22条第1項)。未払いの賃金や本人の私物などの返還も、請求から7日以内と決められています(同法第23条第1項)。
社会保険・雇用保険の資格喪失、住民税の切替え、源泉徴収票や離職票の交付といった退職後の手続きは、スタッフ退職時にクリニックで必要な手続きとは?の一覧で確かめてください。
口頭だけで辞めると言われた場合の扱い:民法627条と就業規則
退職の意思表示に、法律上の形式はありません。口頭やLINE・メールで「辞めます」と伝えられた場合も、退職の申し出として扱われます。
期間の定めのない雇用(いわゆる正社員や、期間を決めずに雇っているパート)では、民法第627条第1項により、労働者はいつでも解約の申入れができ、申入れの日から2週間が経つと雇用が終わります。院の承認は要りません。月給制のスタッフでも、労働者からの申入れは2週間で終わります(2020年4月施行の民法改正で、同条第2項は使用者からの申入れに限る規定になりました)。
期間を定めて雇っているスタッフは扱いが違います。
| 雇用の形 | 辞められる時期 | 根拠 |
|---|---|---|
| 期間の定めのない雇用 | 申入れから2週間が経てば終了 | 民法第627条第1項 |
| 有期雇用(契約期間の途中) | やむを得ない事由があれば直ちに解除できる | 民法第628条 |
| 契約期間が1年を超える有期雇用 | 契約の初日から1年が経てば、申し出ていつでも退職できる(一部の専門職・60歳以上の人などを除く) | 労働基準法第137条 |
就業規則に「退職は1か月前までに申し出る」と定めているクリニックは多いはずです。退職に関する事項は就業規則に必ず書く事項で(労働基準法第89条第3号)、常時10人以上を雇っていれば作成と届出が要ります。引継ぎのために早めの申し出をお願いする根拠としては使えますが、期間の定めのない雇用で、民法の2週間を超えて退職を認めないとまで言い切るのは難しいと考えておきます。厚生労働省のモデル就業規則も、「退職願を提出して○日を経過したとき」を退職の事由の一つとし、解説で民法第627条第1項の2週間を示しています。
口頭で申し出を受けたら、次の順で進めます。
- 申し出を受けた日時と内容を記録しておく(2週間の起算点になる)
- 院内様式の退職届を渡し、退職日・最終出勤日を書いて出してもらう
- 書面が出てこない場合は、院から「○月○日にお申し出を受けました。退職日は○月○日と理解しています」とメールや書面で送り、記録を残す
- 退職日が決まったら、前節のチェックリストで有給休暇・貸与物・引継ぎを確かめる
「書面が無いから受け付けない」と退職を拒むことはできません。書面はあくまで、退職日を双方で確認するためのものです。
よくある質問
退職届の提出を拒まれたり、受け取りを保留したりしてもよいですか
受け取りを拒んでも退職の申し出が無かったことにはなりません。期間の定めのない雇用なら、申し出から2週間で雇用は終わります。引き止めたい場合も、まず受け取ったうえで面談の場を持つほうが、退職日の確認がしやすくなります。
退職届をメールやLINEで送ってきた場合も有効ですか
退職の意思表示に形式の決まりは無いため、メールやLINEでも申し出としては扱われます。退職日などの認識違いを防ぐため、院内様式の退職届をあらためて出してもらうか、院から確認のメールを返して記録を残しておきます。
退職届に詳しい退職理由を書いてもらう必要はありますか
自己都合の退職であれば「一身上の都合により」で足ります。理由を聞きたいときは、退職届とは別に面談で聞きます。なお、ハラスメントや労働条件の相違などが理由の場合、雇用保険の離職理由の判定に関わることがあるため、本人の申告内容は記録しておきます。
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まとめ
退職届は、退職日と最終出勤日を書面で確定させるためのものです。院内様式に受付欄と有給休暇の欄を設けておき、受け取ったら退職日・有給消化・貸与物・引継ぎの4項目をその場で確かめてください。
参考
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2026年10月時点の情報を元に作成しています。
