【開業医にインタビュー:吉岡範人医師(後編)】婦人科がん患者のための訪問診療を開始したきっかけは?体制づくりの軌跡も語る

神奈川県横浜市都筑区の産婦人科クリニック『医療法人社団都筑会 つづきレディスクリニック』で院長を務める吉岡範人医師に開業について伺うインタビューの後半をお届けします。前編では、産婦人科医を志したきっかけや現在の経営理念についてお伺いしました。

今回は、婦人科腫瘍に長年携わっていた経験を生かし、産婦人科医として訪問診療に取り組むに至った理由などを中心にお話ししていただきました。

婦人科の末期がん患者さんの「看取ってほしい」要望にこたえ、訪問診療をスタート

――以前、つづきレディスクリニックで医療脱毛をスタートした話を伺いましたが、他に継承してから始められたことはありますか?

訪問診療です。僕がもともと大学で婦人科腫瘍を専門としていたことから、末期がん患者さんや病院への通院が困難な患者さんへの訪問診療を行っています。

――産婦人科で訪問診療とは、まだまだ広まりきっていない珍しいジャンルですよね。

そうかもしれません。でも、一定の需要はたしかにありますね。

訪問診療を始めたきっかけは、継承開業を期に、大学で診ていた患者さんが当院に通ってくれるようになったことが関わっています。「手術が終わっても先生に診てほしい」「最期を先生に看取ってほしい」など、当時の患者さんから訪問診療の要望をいただいていました。
ただその頃は開業したてですから、外来に加えて訪問診療をするのは難しいと思っていました。

しかし、実際に訪問診療をおこなっているクリニックを見学させてもらったり、その先生から話を聞いたりするうち、「婦人科がんの専門医として看取りまでやってきたのだから、根本的にやることは変わらないじゃないか」と気づきました。
また、産婦人科のがん患者はやはり産婦人科医に診てほしいはず。そこで、“大学病院レベルの医療を自宅で受けられる”をモットーに、訪問診療をはじめました。

訪問診療の医師は自身のみ。2022年春には訪問看護ステーションを開設

――訪問診療をはじめるにあたって、どのような体制を作ったのでしょうか?他に手伝ってくれる医師をアサインしたり、夜間診療をサポートしてくれるサービスを使ったりしましたか?

確かにそういった選択肢もありますが、承継したばかりでそこまでお金もかけられませんし、規模も大きくなかったため、すべて自分でおこなっています。もちろん大変なこともありますが、やりがいには代えられないですね。
大学病院では指導や教育を受けて覚えていくこともありますが、開業すると、何をやるにしても自分でやったことが自分に返ってくる。それってすごくおもしろいことだなと思います。

――他職種とはどのように関わっていますか?

看護師で言うと、いくつかの訪問看護ステーションとの連携によって助けていただきました。
ただ、訪問看護ステーションや、看護師個人によって医療に対する姿勢はさまざまです。例えば、一般的な訪問診療は、介護中心であることが多いです。しかし、末期がん患者の場合は少し違い、夜中に急に痛みが出てきて麻酔薬を必要とするケースなどもあります。
患者さんからそういった訴えがあった時、看護師のなかで、夜中でも動く人、“朝になってから”と考える人に分かれるんです。

自分が目指す医療としては、後者のような方と仕事をしていきたい。そして、患者さんにとってもそういった看護師の方が適しているのではないかと考え、2022年4月に訪問看護ステーションを立ち上げました。

その際の人選は、上記のような観点をもとにしています。
ありがたいことに、僕と同じ考えを持ってくださる看護師のみなさんに集まっていただきました。本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

医師ひとりでは何もできない。自分の適正や立ち位置を認識し、活躍の仕方を広げていく

――先生は「自分だけではできない」との考えのもと、他人への感謝を常にしている印象があります。その考えが形成された理由は何なのでしょうか?開業がきっかけですか?

開業をきっかけに、他者との関わりの重要性に気づく先生は多いかもしれませんが、僕の場合は少し違います。
若いころから、他大学出身の優秀な先生たちと集まるたびに感じていた劣等感のようなものが影響していると思います。昔から、他の先生との差別化や、新しい価値の創造に力を入れていかなければこの先、生き残れないと感じていました。

では自分はどうすれば良いのか。試行錯誤するうち、「医師として優秀な先生たちが本業に専念できる環境を作っていくこと」も自分には向いていると気づきました。
もちろん、医師としての使命を果たすことも大切だと考えていますが、いろんな業界の優秀な人たちが活躍できる場を広げていくことも視野に、将来への準備を進めているところです。

そして、そのためには自分の力だけでは難しいので、いろんな人の話を聞く必要があると考え、日々コミュニケーションをとっています。
実際に、自分だけではできないことが多いですから、本当に多くの方に動いていただいています。

――スタッフのみなさんとのコミュニケーションが円滑なようすがうかがえます。スタッフ教育に関しても工夫点はありますか?

「教育」という考え方自体が僕の中にないです。あくまでも同等の関係。彼女たちのほうがよく分かっていることはたくさんありますし、どんな人にも良いところがありますよね。
だから、一人ひとりが得意とすることは、本人に任せていきたいと思っています。

僕は大学病院時代、手術ばかりやっていました。手術は責任が重いものの、やりがいもあります。そして、最善を尽くす方法を常に考えていましたし、そのことが成長につながったと思っています。
同じように、彼女たちにも自分で考えて実現する仕事の面白さを知ってほしいです。そのなかから学んだことは次に生かしてほしい。

だから、全体の配置に関しては僕が決めつつも、細かな業務の改善点は話し合って変えていき、お互いサポートできるところは助け合う。
「これは誰々の仕事だからわたしには関係ない」ではなく、手が空いている人がやれば良いですよね。実際、僕自身もカルテを持って走ることもあるし、率先して動いていきたいです。

――最後に、今後の目標を教えてください。

まずはビルを一棟建てたいです。そのビルにはもちろん産婦人科クリニックも入れますが、女性専用内科、皮膚科のほか、エステや美容室、占い専門店、スイーツ店も入れたいと考えています。
そのビルに行くことで、女性が楽しめるような空間を作りたいですね。

占いについても、診察中にその必要性を強く感じることがあります。占いも診療も「相手の話を聞く」ということは一緒です。でも、相談するジャンルや目的が異なる。
そういった微妙な違いによるフラストレーションを医師としても抱えています。「もっと時間があれば患者さん個人の悩みに寄り添うことができる」との思いから、占いをはじめとする、一見医療と関係ないようなジャンルも積極的に取り入れたいです。

そういった考えから、今のうちから人脈を作っておこうと、診療後に情報収集しています。客として占い師に診てもらったり不動産屋を回ったり、信頼できる人や企業の情報を集めている最中です。

また、一緒にこの構想を実現できそうなクリニックにもお声がけをしています。自分がどんな理想を掲げていて、そのために何をしたいと思っているのか、どういうふうにコラボを進めていきたいかをプレゼンテーションします。
共感してくださる方も少しずつ増えており、これからが楽しみですね。

取材協力 つづきレディスクリニック 院長 吉岡 範人 医師

聖マリアンナ医科大学で初期研修を行い、産婦人科医として同大学にて16年間勤務。『婦人科腫瘍』を専門としながらも、周産期、更年期、癌患者に関わる妊孕性相談や不妊相談までを幅広く担当。その後2019年に『つづきレディスクリニック』を継承開業。“女性がいつまでも若々しく・活き活きと暮らしていけるお手伝いができるレディスクリニック”を目指し、これまでの医療にとらわれない柔軟なアイデアをもとに、患者さんに寄り添ったクリニック経営を行う。


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執筆 CLIUS(クリアス )

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