生活保護を受けている人の医療(医療扶助)を担当できるのは、生活保護法の指定を受けた医療機関だけです。保険医療機関の指定とは別の手続きで、開業時に保険医療機関の指定を受けても、生活保護法の指定は自動では付きません。
指定は申請すれば受けられるもので、条件は保険医療機関であることと、欠格事由に当たらないことです。受けた後は、6年ごとの更新、名称や管理者が変わったときの10日以内の届出、指定医療機関医療担当規程に沿った診療と記録の義務が続きます。
この記事は、開業準備中または開業後に指定を検討している院長・事務長に向けて、申請の手続き、指定後の義務、指定を受けるかどうかの判断材料をまとめます。受診の流れの全体は「生活保護の医療費はどうなる?医療券の流れと指定医療機関になるための手続き」で紹介しているので、ここでは指定そのものを詳しく扱います(2026年10月時点の法令に基づきます)。
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生活保護指定医療機関とは(医療扶助を担当できる医療機関)
生活保護法第34条は、医療扶助を原則として現物給付で行い、医療の給付は医療保護施設か、第49条の指定を受けた医療機関(指定医療機関)に委託して行うと定めています。
| 項目 | 内容 | 条文 |
|---|---|---|
| 指定する人 | 国が開設した病院・診療所・薬局は厚生労働大臣、それ以外は都道府県知事 | 第49条 |
| 指定都市・中核市 | 都道府県の事務を市が行う(市長が指定する) | 第84条の2 |
| 申請する人 | 病院・診療所・薬局の開設者 | 第49条の2第1項 |
| 前提 | 保険医療機関であること | 第49条の2第2項第1号 |
| 有効期間 | 6年。更新を受けないと効力を失う | 第49条の3 |
| 公示 | 指定・変更届・辞退・取消しは告示される | 第55条の3 |
指定を受けていない医療機関では、生活保護の患者を医療扶助で診ることができません。急迫した事情などやむを得ない場合は、指定のない医療機関でも医療の給付を受けられるとされていますが(第34条第7項)、例外の扱いです。
生活保護指定医療機関の申請先と必要書類
申請先は都道府県、指定都市・中核市は市
民間のクリニックの申請先は、所在地の都道府県です。指定都市・中核市にあるクリニックは、その市に申請します。提出の窓口は自治体で違い、東京都は、所在地を管轄する福祉事務所を経由して都知事宛てに出す形です。
東京都の申請書の注意事項には、令和5年7月1日以降、関東信越厚生局へ健康保険法の指定申請と同時に生活保護法の指定申請も行っている場合は、改めて都に出す必要はないと書かれています。新規開業なら、保険医療機関の指定申請と同じタイミングで生活保護法の指定も申請できるかを、地方厚生局と自治体の案内で確かめておくと手間が1回で済みます。
必要書類
| 書類 | 内容 |
|---|---|
| 指定申請書 | 自治体の様式。医療機関の名称・所在地は、保険医療機関の指定通知書の記載どおりに書く |
| 誓約事項 | 欠格事由に当たらないことの誓約(申請書のチェック欄、または別紙の誓約書) |
| 保険医療機関の指定の情報 | 医療機関コードと指定期間。指定通知書の写しの添付を求める自治体もある |
| 開設者・管理者 | 個人開設なら開設者の氏名、法人なら法人名。管理者(院長)の氏名 |
多くの自治体は、同じ申請書で中国残留邦人等支援法の指定もあわせて扱っています。様式は年度ごとに改まることがあるので、提出前に自治体のサイトで最新版を取ります。
指定日はいつになるか
指定日は自治体で決め方が違います。東京都は、原則として福祉事務所が申請書を受理した月の1日です。翌月1日を原則とする自治体もあります。
指定日より前の診療は医療扶助で請求できません。開業日から生活保護の患者を診る予定なら、開業月の前に受理されるよう逆算します。
東京都は、次のように患者が引き続き診療を受けている場合に限り、指定日の遡及を認めることがあるとしています。
- 開設者が変わり、前の開設者の廃止と同時に引き続いて開設した
- すぐ近くに移転し、同じ日付で新旧の医療機関を開設・廃止した
- 開設者が個人から法人に、または法人から個人に変わった
- 病院から診療所に、または診療所から病院に変わった
医療法人化や移転のときは、保険医療機関の手続きとあわせて生活保護法の指定も出し直しになることを忘れないようにします。
指定を受けられない場合
第49条の2第2項は、指定をしてはならない場合を定めています。主なものは次のとおりです。
- 保険医療機関でない
- 開設者が拘禁刑以上の刑、または保健医療・福祉の法律による罰金刑の執行を終えていない
- 生活保護法の指定を取り消されてから5年を経過していない
- 申請前5年以内に、生活保護の患者の医療に関し不正または著しく不当な行為をした
- 管理者が上のいずれかに当たる
生活保護指定医療機関の6年ごとの更新・変更届・辞退
| 手続き | 期限・条件 | 条文 |
|---|---|---|
| 更新 | 6年ごと。満了日までに処分がなければ、処分までは従前の指定が有効 | 第49条の3 |
| 変更届・休止・廃止・再開 | 名称などの変更、事業の廃止・休止・再開から10日以内に届け出る | 第50条の2 |
| 辞退 | 30日以上の予告期間を設けて辞退できる | 第51条第1項 |
| 取消し・効力停止 | 義務違反、診療報酬の不正請求、検査の拒否などがあったとき | 第51条第2項 |
更新には健康保険法第68条第2項が準用されています。保険医療機関の指定が「更新の申請があったものとみなされる」診療所(個人開設で、開設者である医師が一人で診療している診療所など)は、生活保護法の指定でも同じ扱いになる場合があります。自院が当たるかは自治体の更新の案内で確かめ、当たらなければ満了日を年間の予定に入れておきます。
指定が切れた期間の診療は、医療扶助で請求できません。
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生活保護指定医療機関の義務(指定医療機関医療担当規程の要点)
指定医療機関は、厚生労働大臣の定めるところにより、懇切丁寧に被保護者の医療を担当しなければなりません(第50条第1項)。この定めが「指定医療機関医療担当規程」(昭和25年厚生省告示第222号、最終改正 令和8年3月6日 厚生労働省告示第79号)です。クリニックの運営に関わる条文を表にします。
| 条 | 義務 | クリニックの運用 |
|---|---|---|
| 第2条 | 有効な医療券を持つ患者の診療を、正当な事由なく拒まない | 受付で「生活保護の方はお断り」としない |
| 第3条 | 医療券が本人のもので有効かを確かめてから診療する | 氏名・有効期間・指定医療機関名を確認する |
| 第4条 | やむを得ない事情で診療時間に来られない患者は、便宜な時間を定めて診療する | 時間外の相談があったときの対応を決めておく |
| 第5条 | 往診・訪問看護・入院・移送などが必要なら、患者が手続きできるよう援助する | 福祉事務所への連絡を手伝う |
| 第6条 | 医学的知見に基づき後発医薬品を使えると認めた場合は、原則として後発医薬品で投薬する | 院内処方の在庫、処方箋の一般名処方の設定を見直す |
| 第6条の2 | 服薬状況・薬剤服用歴を、電子処方箋の情報やお薬手帳などで確かめる | 問診時の確認手順に入れる |
| 第7条 | 保護に必要な証明書・意見書は無償で交付する。明細書も正当な理由がない限り無償で交付する | 医療要否意見書などに文書料を取らない |
| 第8条 | 診療録に必要事項を書き、他の診療録と区別して整備する | 電子カルテで区別できるようにする |
| 第9条 | 診療と請求の帳簿・書類を、完結の日から5年間保存する | 医療券などの保存期間を決める |
| 第10条 | 患者が正当な理由なく指導に従わない、不正な手段で受診したときは、福祉事務所に通知する | 気づいたときの連絡先を決めておく |
あわせて、厚生労働大臣・都道府県知事の行う指導に従う義務(第50条第2項)、求められたときの報告・診療録の提出や立入検査に応じる義務(第54条)があります。
文書料を取らない点(第7条)は、ふだんの保険診療と違うので受付と事務で共有しておきます。
生活保護の医療券・調剤券の流れと受付での確認
| 場面 | 流れ |
|---|---|
| 受診前 | 患者が福祉事務所に申し出て、福祉事務所が指定医療機関あてに医療券を発行する |
| 受付 | 医療券の氏名・有効期間・指定医療機関名を確かめる(担当規程第3条) |
| 院外処方 | 処方箋を出し、福祉事務所が薬局あてに調剤券を発行する。薬局も指定を受けている必要がある |
| 継続の判断 | 福祉事務所から医療要否意見書の記入を求められたら、期限内に返す |
生活保護法第34条第5項は、被保護者がマイナンバーカードによる電子資格確認などで、医療扶助を受けていることの確認を受けると定めています。オンライン資格確認を導入しているクリニックでは、医療扶助の資格情報も画面で確かめられます。受給者番号などの入力は、電子カルテ・レセコンで公費として登録しておくと、毎月の転記が要りません。
医療券を持たずに来た患者への対応は「生活保護の医療費はどうなる?」で紹介しています。
生活保護のレセプト請求で指定医療機関が注意すること
指定医療機関の診療方針と診療報酬は、国民健康保険の例によります(第52条第1項)。点数表は保険診療と同じで、算定のルールも同じです。
注意する点は次のとおりです。
- 生活保護の法別番号は12。生活保護だけの患者は公費単独のレセプトになる
- 社会保険・国保に加入している患者は、保険が先で、自己負担の部分に医療扶助が当たる
- 都道府県知事は診療内容と請求を随時審査し、請求できる額を決められる。この決定には審査請求ができない(第53条)
- 後発医薬品を使わずに先発品を処方する場合は、医学的な理由を診療録に残しておく
難病・自立支援医療と重なる場合の順序や、保険との併用のレセプトの書き方は「生活保護と社会保険の併用レセプトの書き方」にまとめています。
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生活保護指定医療機関の指定を受けるべきクリニック/受けなくてよい場合
指定を受けるかは、地域と診療内容で決まります。次の表で自院の条件に近い行を探してください。
| こういうクリニックなら | 判断 | 理由 |
|---|---|---|
| 内科・整形外科・精神科・皮膚科など、地域のかかりつけとして外来を広く受ける | 受ける | 生活保護の患者も通院の需要が大きい。指定がないと、通っていた患者が受給を始めたときに転院を求めることになる |
| 在宅医療・訪問診療をしている、または始める予定 | 受ける | 高齢の単身世帯に受給者が多く、指定がないと依頼を受けられない |
| 近くに福祉事務所・救護施設・単身高齢者の多い住宅がある | 受ける | 福祉事務所から受診先として紹介されることがある |
| 開業準備中で、保険医療機関の指定申請と同時に出せる地域 | 受ける | 手続きが1回で済み、後から出し直す手間がない |
| 自由診療が中心で、保険診療はごく一部 | 急がなくてよい | 医療扶助は保険診療の範囲なので、対象の患者がほとんど来ない |
| 美容皮膚科・自費の検診専門など、保険診療をしていない | 受けられない | 保険医療機関であることが指定の前提 |
| 保険診療中心だが、受付・事務が1人で、文書の無償交付や医療券の確認の手順を組めない | 体制を作ってから受ける | 指定を受けた後は、正当な事由なく診療を拒めない |
指定を受けても、事務の負担がふだんの保険診療と大きく変わるわけではありません。増えるのは、医療券の確認、医療要否意見書などの無償の文書、6年ごとの更新と変更届です。
生活保護指定医療機関一覧の調べ方
指定・変更・辞退・取消しは告示されるため(第55条の3)、多くの都道府県・指定都市・中核市が指定医療機関の一覧をサイトで公開しています。「(都道府県名・市名) 生活保護法 指定医療機関 一覧」で探すと見つかります。
一覧は、自院の指定が反映されているかの確認、院外処方を出す近くの薬局が指定を受けているかの確認、指定のない医療機関から紹介を受けるときの確認に使えます。
よくある質問
法人化したら、生活保護法の指定はどうなりますか
開設者が変わるので、保険医療機関と同じく新しい開設者として指定を受け直します。東京都では、患者が引き続き診療を受けている場合に指定日の遡及が認められることがあります。手続きは保険医療機関の手続きとあわせて進めます。
院長(管理者)が交代したときは何をしますか
名称その他の厚生労働省令で定める事項が変わったときは、10日以内に届け出ます(第50条の2)。管理者の変更が届出の対象かは、自治体の変更届の案内で確かめてください。
指定を辞退したいときはどうしますか
30日以上の予告期間を設けて辞退できます(第51条第1項)。通院中の生活保護の患者がいるなら、福祉事務所と相談して転院先の手当てをしてから辞退の時期を決めます。
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まとめ
生活保護指定医療機関の指定は、保険医療機関であるクリニックの開設者が都道府県(指定都市・中核市は市)に申請して受けます。指定日より前の診療は医療扶助で請求できないので、開業や法人化の時期から逆算して出します。指定後は、医療券の確認、後発医薬品の原則、文書の無償交付、診療録の区別と5年保存、6年ごとの更新と10日以内の変更届が続きます。
参考
- 生活保護法|e-Gov法令検索
- 指定医療機関医療担当規程(令和8年3月6日改正)|京都市
- 生活保護法及び中国残留邦人等支援法の指定申請に関するFAQ・注意事項及び記載要領(新規申請 医科・歯科・薬局)|東京都福祉局
- 健康保険法|e-Gov法令検索
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2026年10月時点の情報を元に作成しています。
