デジタル庁で標準型電子カルテα版のプロジェクトマネージャー(PM)を務めた後、『株式会社ポテック』の代表取締役として、クリニック向け電子カルテ「AIカルテ」を開発している有村琢磨さん。国の医療DX政策を進める立場と、民間企業でクリニックの業務効率化に取り組む立場の両方を経験するなかで見えた、現場の課題や電子カルテの今後についてお話しいただきました。
電子カルテについては、2025年12月の改正法で、2030年末までに普及率を約100%とすることが政府の目標として法律に書き足されました。2026年3月には電子カルテ標準仕様1.0版が公開され、認証制度も動き出しています。そこで、電子カルテの認証制度や電子カルテ情報共有サービスが、新規導入や乗り換えを検討しているクリニックにどう影響するのかも伺いました。
- 国の標準型電子カルテはなぜ必要だったのか
- 「補助金が使えるか」と「診療報酬の加算に対応しているか」が電子カルテ選びのチェックポイント
- 電子カルテ情報共有サービスとデータ移行の注意点
- 電子カルテの導入は義務になるのか
- 民間に戻り、AIネイティブな電子カルテを開発する理由
- Q. 標準型電子カルテの開発に携わった後、民間企業でAIカルテを開発しようと思ったきっかけを教えてください。
- Q. AIを軸にした電子カルテでは、外部ツールとの連携も考えているのでしょうか。
- Q. 診察時の会話から病名を推測したり、オーダーを登録したりできるようになるなど、AIによって日々のオペレーションはどう変わるのでしょうか。
- Q. 医師によっては、音声入力よりもタイピングのほうが速いという方もいます。音声入力とキーボード操作は、どのように使い分けるのでしょうか。
- Q. 医療データをAIで扱う際には、個人情報保護などの観点も重要になります。どのように対応しているのでしょうか。
- Q. AIを使った電子カルテを導入するとき、院長が確かめるべきポイントを教えてください。
- 医療機器との連携と導入支援
- 今後、電子カルテの乗り換えは増えるのか
- 参考資料
国の標準型電子カルテはなぜ必要だったのか
Q. 現在のお仕事内容と、デジタル庁で標準型電子カルテα版を担当された背景を教えてください。
有村さん「現在、『ポテック』では、クリニック向け電子カルテ『AIカルテ』を開発・提供しています。
デジタル庁には、2023年1月から2025年3月末まで勤務していました。当時は医療DX政策が始まったばかりで、私は国民向けサービスグループにある医療班に配属となり、プロジェクトマネージャーを務めていました。医療班ではいくつかのプロジェクトを手掛けていましたが、その1つが標準型電子カルテα版の開発でした」
Q. 国が標準型電子カルテを整備すべきだと考えた理由を教えてください。
有村さん「背景には、新型コロナウイルス感染症の流行があります。当時、ワクチン接種率を高めることが大きな課題でしたが、医療機関や保健所のデジタル化が十分に進んでおらず、予防接種に関する国民の手続きも非常に不便でした。そのため、行政の仕事が思うように進まず、医療分野のデジタル化を進めなければならないという問題意識が高まったのです。
その後、2022年5月に自民党から医療DXに関する提言書(「医療DX令和ビジョン2030」)が出されると、それをもとに、2022年10月に政府主導で医療DX推進本部が組織されました。さらに、2023年6月2日には『医療DXの推進に関する工程表』が策定されています。
こうした流れのなかで、全国医療情報プラットフォームの構築や、電子カルテの普及率を100%に近づけることなどが目標として掲げられました(※編集部注1)。
では、電子カルテの普及率を高めるにはどうすればいいかというと、まず、医療機関が導入する際の負担を下げる必要があります。特に、紙カルテを使い続けている開業医のなかには、年齢などの事情もあり、一から費用をかけて電子カルテを導入することに抵抗を感じる方もいました。
そこで、政府が安価な電子カルテを開発・提供する取り組みとして、標準型電子カルテのプロジェクトが立ち上がったのです(※編集部注2)」
※編集部注1 電子カルテの普及目標
「医療DXの推進に関する工程表」には、「遅くとも2030年には概ねすべての医療機関において必要な患者の医療情報を共有するための電子カルテの導入を目指す」と書かれています。
さらに、2025年12月に成立した改正法で、地域医療介護総合確保法12条の3第4項に「政府は、令和12年12月31日までに、電子カルテの普及率…が約100%となることを達成するよう、クラウド・コンピューティング・サービス関連技術…その他の先端的な技術の活用を含め、医療機関の業務における情報の電子化を実現しなければならない」という規定が加わりました。
現状の普及率は、令和5年医療施設調査で一般診療所55.0%、病院65.6%(200床未満は59.0%)。診療所は約10.5万施設のうち、未導入が約4.7万施設です。
出典:厚生労働省「電子カルテの普及について」(令和8年3月12日 第28回 健康・医療・介護情報利活用検討会 医療等情報利活用ワーキンググループ 資料1)
※編集部注2 標準型電子カルテの開発の流れ
- 標準型電子カルテα版:2024年度末からα版を使ったモデル事業を予定(電子カルテ未導入の医科無床診療所が対象)
- α版から名称を「導入版」へ変更。2026年秋ごろからモデル事業を始め、2026年度末ごろに本格リリースの予定(デジタル庁「令和8年度 標準型電子カルテ導入版の設計・開発業務」調達仕様書)
- 厚生労働省の方針は「2026年度中目途の完成」
あわせて、要件として①電子カルテ情報共有サービス・電子処方箋への対応、②マルチテナントのクラウド(SaaS型)、③標準API、④データを引き継げる互換性、が示されています。
出典:厚生労働省「電子カルテの普及について」(令和8年3月12日 第28回 健康・医療・介護情報利活用検討会 医療等情報利活用ワーキンググループ 資料1)
Q. 国が想定している標準型電子カルテと、医療現場が求めている電子カルテに差はありましたか?
有村さん「クリニックの課題というより、国が電子カルテを開発すること自体に、民間企業が開発する場合とは異なる非効率な面があったと感じています。ただ、それを理解したうえでプロジェクトを進めていくものだと考えていました。
むしろ、誤解されやすい点としてお伝えしたいのは、標準型電子カルテは、あくまでも政策目的を実現するための取り組みだということです。すべての医療機関に普及させることだけを目的に開発していたわけではありません。
そのため、医療機関や民間企業が期待するものとの間に、ギャップがあった可能性はあります。ただ、政策目的という観点では、十分に意義のあるものを作れたのではないかと思っています」
標準型電子カルテと民間の電子カルテの違いは、「標準型電子カルテと民間クラウド型の違い」でも整理しています。
「補助金が使えるか」と「診療報酬の加算に対応しているか」が電子カルテ選びのチェックポイント
Q. 標準型電子カルテα版は、その後どうなったのでしょうか。また、国が電子カルテを提供する方式から、標準仕様や認証制度を通じて普及を促す方式へ移っていったのはなぜですか。
有村さん「標準型電子カルテは、α版という名称で開発が始まりましたが、その後、バージョンが変わったことで『導入版』という名称になっています。現状では、2027年3月ごろに本格リリースの予定とされています(※編集部注2)。
また、標準型電子カルテと認証を取得した電子カルテとでは、ターゲットの医療機関が異なります。
標準型電子カルテは、たとえば現在も紙カルテを使っていて、高機能な電子カルテを導入する必要性をそれほど感じていない医療機関などに、できるだけ安価に電子カルテを導入できるよう用意されているものです。
一方、すでに電子カルテを利用しているクリニックには、クラウド化を促したり、国が進める医療DXの基盤に対応してもらったりするという、別の政策目的があります。
特に現在は、政府がサイバーセキュリティに力を入れているので、電子カルテ市場にも、市場全体の品質を高めていくことが求められています。こうした観点から、認証電子カルテ制度は、標準型電子カルテの開発とは別の枠組みとして進められているということです(※編集部注3)」
※編集部注3 標準仕様で検討されているセキュリティ要件
ISMAP、またはISMS+ISMSクラウドセキュリティ認証の取得、多要素認証(MFA)、物理的・論理的に隔離した場所へのバックアップなどが検討されています。
出典:厚生労働省「電子カルテの普及について」(令和8年3月12日 第28回 健康・医療・介護情報利活用検討会 医療等情報利活用ワーキンググループ 資料1)
Q. 標準仕様に準拠することと、認証を取得することには、どんな違いがありますか。
有村さん「標準仕様に対応することが、認証取得につながる場合もあります(※編集部注4)。
電子カルテのベンダーにとって、標準仕様に対応すること自体が直接的なビジネス上のメリットになるとは限りませんが、認証取得を目指すことが、標準仕様への対応を進める動機の一つになるのではないかと思います」
※編集部注4 認証の要件のたたき台
認証の要件としては、「標準仕様に準拠していること」(基本要件)に加えて、検討のたたき台として次が挙がっています。
- 一定数以上の施設への導入・稼働実績
- 価格(導入費用・基本利用料・オプション利用料)をWebで公開していること
- ガバメントクラウド利用に関するデジタル庁の事前相談
標準仕様はクラウドネイティブ・SaaS型が前提なので、オンプレミス型はそのままでは対象になりません。いま使っている製品が認証を取る予定かどうかを、ベンダーに確かめておくと安心です。
出典:厚生労働省「電子カルテの普及について」(令和8年3月12日 第28回 健康・医療・介護情報利活用検討会 医療等情報利活用ワーキンググループ 資料1)
Q. 認証を取得した電子カルテであれば、どの製品でも基本的な機能や他システムとの連携の可否は同じですか。
有村さん「(同じ機能を持っているとしても)使いやすさなどは電子カルテごとに異なりますし、院内業務との相性は、クリニックごとの判断ということになります。
では、認証を取得していることの一番のメリットは何かというと、クリニック目線で見ると、補助金を活用できる可能性が高いということです。これからいろいろな補助金が出てくると考えられるので、補助金を使いたい場合は、認証マークがついている電子カルテを選ぶといいでしょう(※編集部注5)」
※編集部注5 認証と補助金・加算の関係
2026年3月の厚生労働省の資料では、「認証された電子カルテの普及方策については、今後検討」とされていました。その後、2026年10月16日に「認証制度要綱 第1.0版」が出され、11月1日に施行されましたが、要綱に補助金の記載はありません。補助金の条件は、現時点ではまだ決まっていません。
一方で、令和8年度診療報酬改定の「電子的診療情報連携体制整備加算」では、加算1の施設基準「(9) 電子カルテ」を満たす方法の一つとして「厚生労働省が認証する電子カルテ製品であること」が入りました。(9)は、安全管理ガイドラインへの準拠・電子処方箋管理サービスとの接続・電子カルテ情報共有サービスとの接続をすべて満たすか、認証製品を使うかのどちらかで満たせます。認証製品でなければ算定できない、というわけではありません。
Q. 認証制度によって、電子カルテの価格や乗り換えのしやすさは変わりそうですか。
有村さん「変わる可能性はあると思います。
少なくとも、データ移行に関する取り決めが設けられることで、電子カルテを乗り換えやすくなることは期待できます」
Q. すでに電子カルテを使っているクリニックは、今の製品を使い続けてもよいのでしょうか。それとも、次の更新時に乗り換えを検討すべきですか。
有村さん「基本的には、各クリニックが自院に合ったものを使えばよいと思います。
ただし、診療報酬上の加算には、それぞれ要件があります。電子的診療情報連携体制整備加算(※編集部注6)を算定する場合には、必要な機能や対応状況を確認しなければなりません。その結果として、乗り換えの検討が必要になる場合もあるでしょう。
乗り換える場合も、補助金を活用できるかどうかはポイントになると考えられます。つまり、これから電子カルテを選ぶ際の大きな判断基準は、補助金と診療報酬の加算ということになります」
※編集部注6 電子的診療情報連携体制整備加算とは
令和8年度診療報酬改定で、従来の「医療DX推進体制整備加算」と「医療情報取得加算」は廃止され、2026年6月から「電子的診療情報連携体制整備加算」(初診時:加算1=15点、加算2=9点、加算3=4点)に置き換わりました。施設基準は次の表のとおりです。届出や院内掲示の詳細は「電子的診療情報連携体制整備加算の要件・掲示・届出」で解説しています。
| 項目 | 施設基準 | 初診料 加算1(15点) | 初診料 加算2(9点) | 初診料 加算3(4点) | 再診料(2点) |
|---|---|---|---|---|---|
| (1) | オンライン請求 | ○ | ○ | ○ | ○ |
| (2) | 明細書発行 | ○ | ○ | ○ | ○ |
| (3) | オンライン資格確認 | ○ | ○ | ○ | ○ |
| (4) | オンライン資格確認で取得した診療情報を閲覧・活用する体制 | ○ | ○ | ○ | ○ |
| (5) | マイナ保険証利用率(30%以上) | ○ | ○ | ○ | ○ |
| (6) | マイナポータルの医療情報等に基づき、患者からの健康管理に係る相談に応じる体制 | ○ | ○ | ○ | ○ |
| (7) | DX推進体制等の院内掲示及びウェブサイトへの掲載 | ○ | ○ | ○ | ○ |
| (8) | 電子処方箋 | ○ | (8)〜(10)のいずれか1つ | — | — |
| (9) | 電子カルテ | ○ | (8)〜(10)のいずれか1つ | — | — |
| (10) | 診療情報の共有 | ○ | (8)〜(10)のいずれか1つ | — | — |
電子カルテ情報共有サービスとデータ移行の注意点
Q. 電子カルテ情報共有サービスでは、どこまでの情報が共有されるのでしょうか。誤解されやすい点も教えてください。
有村さん「電子カルテ情報共有サービスは、電子カルテで取り扱う情報のうち、所定の標準規格に基づいたデータを共有する仕組みです。
以前は『3文書6情報』という枠組みで説明されていましたが、現在は『2文書5情報』という形で、共有対象となるデータが整理されています。対象となるデータを所定の仕組みに沿って登録することで、ほかの医療機関から参照できるようになったり、マイナポータルで閲覧できるようになったりします(※編集部注7)。
よくある誤解は、電子カルテに保存されているすべての情報が共有される、あるいは登録したデータが自動的にすべて吸い上げられる、というものです。
つまり、電子カルテの情報が何でも一律に共有されるわけではないということです。共有対象となるデータや、電子カルテメーカー側の対応などを理解しておく必要があります(※編集部注8)」
※編集部注7 「3文書6情報」から「2文書5情報」へ
電子カルテ情報共有サービスの実装仕様が具体化するなかで、データの送信方法や管理方法が整理され、従来の政策上の枠組みである「3文書6情報」に代わって、実装仕様上の整理として「2文書5情報」が使われるようになりました。違いは次の表のとおりです。
| 項目 | 3文書6情報 | 2文書5情報 |
|---|---|---|
| 文書の対象 | 診療情報提供書、退院時サマリー、健診結果報告書 | 診療情報提供書、退院時サマリー |
| 情報の対象 | 傷病名、アレルギー、感染症、薬剤禁忌、検査、処方 | 傷病名、感染症、薬剤アレルギー等、その他アレルギー等、検査 |
| 主な違い | 従来の整理 | 健診文書と処方情報を別扱いに整理 |
具体的には、次のような背景があります。
- 処方情報:電子処方箋が院内処方も扱う制度になったため、臨床情報としての共有をやめた
- 健診結果報告書:「健診文書登録・閲覧サービス」として別のサービスに分けた
- 退院時サマリー:登録・照会は「導入任意」とされている
- 傷病名・アレルギーの定義:まだ議論中で、仕様が変わる可能性がある
出典:厚生労働省「電子カルテ情報共有サービスの導入に関するシステムベンダ向け技術解説書」2.0.0版(令和8年1月)
※編集部注8 未告知の病名がマイナポータルに出ないようにする
患者本人のマイナポータルに出すかどうかは「未告知フラグ」で制御します。フラグを付けた傷病名は本人のマイナポータルに表示されず、他の医療機関には「未告知」と付けて表示されます。付け忘れると、まだ告知していない病名が患者本人のマイナポータルに表示されます。なお、登録する傷病名の判断基準や、フラグの運用の考え方は、今後、厚生労働省が別途公表する予定とされています。他の医療機関での閲覧は、本人の同意が前提です。院内で「どの病名を未告知にするか」のルールを決めておくことが大切です。
Q. 電子カルテ情報共有サービスを利用するために、クリニック側で準備することはありますか。
有村さん「必要な機能はメーカーが対応することになりますが、院内では、申請と運用ルールを準備する必要があります(※編集部注9)。
なお、電子カルテ情報共有サービスへの対応は標準仕様の要件の一つですが、標準仕様への準拠と、電子カルテ情報共有サービスを利用できることは、分けて考える必要があります」
※編集部注9 クリニックで準備すること
- オンライン資格確認の導入(前提)
- 「医療機関等向け総合ポータルサイト」での利用申請と運用開始日の登録(加算の「接続」も、この登録と公表で判定されます)
- ベンダーによる改修(費用は契約によります)
- 傷病名を標準病名マスタで入力するなど、標準コードでの入力
- 未告知・未提供フラグの院内ルール
開始時期や準備の流れは「電子カルテ情報共有サービスはいつから?」にまとめています。
Q. 電子カルテを乗り換える際、患者情報や検査結果は、何を移せて、何を移せないのでしょうか。
有村さん「仕様の詳細は、これから公開されていくと思います(※編集部注10)」
※編集部注10 データ移行の決まり
標準仕様では、データの出力・取込のフォーマット(json・xml・csv)とレイアウトを決める方向で、「移行先のベンダーから要請があれば、連携に必要な事項を開示すること」が要件に入っています。一方で、データ移行の詳細は「検討中」とされています。
出典:厚生労働省「電子カルテの普及について」(令和8年3月12日 第28回 健康・医療・介護情報利活用検討会 医療等情報利活用ワーキンググループ 資料1)
クラウド型電子カルテ「CLIUS」
クラウド型電子カルテ「CLIUS」は、予約・問診・オンライン診療・経営分析まで一元化できる機能を備えています。効率化を徹底追求し、直感的にサクサク操作できる「圧倒的な使いやすさ」が、カルテ入力業務のストレスから解放します。
詳しい内容を知りたい方は下記フォームからお問い合わせください。
電子カルテの導入は義務になるのか
Q. 今後、電子カルテの導入は義務になるのでしょうか。
有村さん「国が示している方針に沿って回答すると、医療機関に電子カルテの導入が義務づけられるということではありません(※編集部注11)。
ここは少しわかりにくいのですが、国が普及目標を達成するために取り組むことと、医療機関に導入を義務づけることは別の話です。
国としては、電子カルテの普及率を高めるために必要な支援をおこない、2030年末までに普及率約100%を目指すという方針を掲げています。しかし、それは医療機関が必ず電子カルテを導入しなければならないとか、導入費用をすべて自ら負担しなければならないという意味ではありません。目標を達成できなかった場合に、導入しなかった医療機関にペナルティーが科されるという話でもありません。
国が普及を進めることと、個々の医療機関に義務を課すことは、区別して理解する必要があります」
※編集部注11 条文の主語は「政府は」
改正後の地域医療介護総合確保法12条の3第4項は、主語が「政府は」で、医療機関に導入を義務づける規定はありません。
「政府は、令和十二年十二月三十一日までに、電子カルテの普及率(電子診療録等情報その他の心身の状況に関する記録に係る情報に係る電磁的記録を利用する体制を整備している医療機関の全ての医療機関に対する割合をいう。)が約百パーセントとなることを達成するよう、クラウド・コンピューティング・サービス関連技術(官民データ活用推進基本法(平成二十八年法律第百三号)第二条第四項に規定するクラウド・コンピューティング・サービス関連技術をいう。)その他の先端的な技術の活用を含め、医療機関の業務における情報の電子化を実現しなければならない」
義務化の時期や認証製品のスケジュールは「電子カルテは義務化される?標準型電子カルテはいつから」でも解説しています。
Q. 新規開業するクリニックは、どのような観点で電子カルテを選べばよいでしょうか。
有村さん「まずは、自分たちの業務に合ったものを選ぶことが大切です。
セキュリティや補助金など、考慮すべき制度上の要素はいろいろあります。ただ、電子カルテは、実際にクリニックのスタッフが日々使うツールです。制度に合わせることを優先しすぎて、自院の業務に合わないものを選んでしまうと、かえって自分たちを苦しめることになりかねません。
各社の費用だけでなく、業務との相性や使いやすさも含めて比較して、自院にもっとも適したものを選ぶのがよいと思います」
Q. 生成AIや音声入力の機能がついた電子カルテを選ぶとき、クリニック側が確認すべきポイントはありますか?
有村さん「3省2ガイドラインと個人情報保護法に沿っているものを選ぶことが大切です。医療機関向けに提供されている音声入力なら心配は少ないですが、汎用のサービスを自分で契約して使うことにはリスクを伴います」
Q. 今後5年間で、電子カルテの選び方は変わってくるでしょうか。重要になるポイントも教えてください。
有村さん「最近はサイバーセキュリティに関する問題が増えているため、セキュリティへの対応力は、今後ますます重要になると思います。
AIが普及することで、攻撃の手法も多様化していくでしょう。そうした変化に対して、電子カルテのメーカーがどれだけ柔軟に対応できるかが問われるようになります。
そうした観点からも、できれば最近できあがったカルテを選ぶほうが安心できると思います。古いとセキュリティが弱いというわけではありませんが、新しくできたもののほうが穴が少ないということですね。
ただし、開発時期だけで判断するのではなく、セキュリティ上の課題に継続的に対応できる製品・メーカーなのかを見極めることが重要です」
紹介状のやり取りを電子にする
紹介先も電子カルテ情報共有サービスにつながっていれば、診療情報提供書を電子でやり取りできます。導入までの手順をまとめた資料です。
民間に戻り、AIネイティブな電子カルテを開発する理由
Q. 標準型電子カルテの開発に携わった後、民間企業でAIカルテを開発しようと思ったきっかけを教えてください。
有村さん「国が開発する電子カルテは、あくまでも政策目的を実現するためのものです。そのため、クリニックの業務をどこまで便利にできるかという観点では、必ずしも理想的なものを作れるわけではありません。
標準型電子カルテを開発していた当時も、AIの技術はすでに登場していました。しかし、AIを十分に活用できる電子カルテにするということは、開発の前提として考慮されていませんでした。
そうした経緯もあり、民間の立場に戻ったときに、自分が理想と考える電子カルテを一度作ってみたいと思ったのです。それがAIカルテの開発につながっています」
Q. AIを軸にした電子カルテでは、外部ツールとの連携も考えているのでしょうか。
有村さん「AIカルテでは『AIネイティブ』であることを一つのコンセプトにしています。
AIネイティブとは、単に既存の電子カルテにAI機能を追加することではありません。電子カルテのなかにある医療データや個人情報を扱う際には、通常、さまざまな配慮が必要になります。そうした課題を適切に解決しながら、AIをより活用しやすい環境を作ることが重要だと考えています。
また、蓄積されたデータをAIで活用することで、データ集計やAIダッシュボードなど、従来の電子カルテに期待されてきた機能を超えるサービスも作りやすくなると思います。
もう一つ大切にしているのが、できるだけオープンな設計にすることです。APIを活用した外部ツールとの連携も積極的に進めていきます。
たとえば、外部のBPO事業者や、リモートで医療事務を支援する事業者などと連携することで、クリニックが自院の状況に応じて柔軟にサービスを組み合わせられるようにしたいと考えています」
Q. 診察時の会話から病名を推測したり、オーダーを登録したりできるようになるなど、AIによって日々のオペレーションはどう変わるのでしょうか。
有村さん「わかりやすい例として、診察時の会話をもとに、電子カルテ側の操作を進められるようにしています。単に診察内容を書き起こすだけではありません。オーダーの登録や、それに紐づく病名の登録などもおこなえるようにしています。
そのほか、予約や処方、Do処方といった操作についても、音声を使って完結できるようにすることを目指しています」
Q. 医師によっては、音声入力よりもタイピングのほうが速いという方もいます。音声入力とキーボード操作は、どのように使い分けるのでしょうか。
有村さん「医師のみなさんに、使い勝手がよいと感じる方法で利用していただければと思っています。音声だけに限定するつもりはありません。
たとえば、シェーマを起点に操作を進める方法も考えられますし、多職種が連携して情報を共有し、その情報をもとに診療を進めることも重要です。
さらに、データ提出や、医療機関ごとに必要となる書類の作成など、クリニックで対応すべき業務は増えています。
そうした新しい業務にも対応しやすいように、データを柔軟に保存して活用できる仕組みを整えることが、電子カルテの価値につながると考えています」
Q. 医療データをAIで扱う際には、個人情報保護などの観点も重要になります。どのように対応しているのでしょうか。
有村さん「現在は、AWSやGoogle Cloud、Microsoft Azureといったクラウドサービスのなかで、国内リージョンを利用できるAIモデルの基盤があります。
そうした基盤を適切に利用することで、個人情報保護法などの関連法令を踏まえた運用が可能になると考えています。AIカルテも、そのような仕組みを活用する形で開発しています。
ただし、AIを利用する場合には、利用するサービスやデータの取り扱いについて、適切な設計と運用が必要です。医療データを扱う以上、その点は重要だと考えています」
Q. AIを使った電子カルテを導入するとき、院長が確かめるべきポイントを教えてください。
有村さん「データの保存場所、AIの学習に使われるかどうか、音声データをいつまで残すか、などは、個人情報保護の観点からみても重要です」
医療機器との連携と導入支援
Q. 電子カルテと外部の医療機器との連携は、開発上のハードルになりそうですが、どのように強化していくのでしょうか。
有村さん「現時点では、医療機器との連携についても、基本的には自社で開発する方針で進めています。その分、時間がかかる可能性はありますが、技術面で極めて大きなハードルがあるとは考えていません。
むしろ、医療機器との連携が多いクリニックでは、導入に時間がかかることが課題になります。また、連携が正しく動作することや、導入後に問題なく運用できることも重要です。
AIカルテは一体型の仕組みとして開発しているため、連携に関する実績を積み上げながら、導入時の問題を減らしていく必要があります。
導入にあたっては、実際に現地を訪問しなければわからないことも少なくありません。クリニックの状況を確認しながら、ヒアリングや業務オペレーションの整理を一緒に進めることが重要だと考えています」
クラウド型電子カルテ「CLIUS」
クラウド型電子カルテ「CLIUS」は、予約・問診・オンライン診療・経営分析まで一元化できる機能を備えています。効率化を徹底追求し、直感的にサクサク操作できる「圧倒的な使いやすさ」が、カルテ入力業務のストレスから解放します。
詳しい内容を知りたい方は下記フォームからお問い合わせください。
今後、電子カルテの乗り換えは増えるのか
Q. 標準仕様や認証制度が広がると、電子カルテの乗り換えは増えるのでしょうか。医師は一度導入した製品を長く使う傾向もありますが、今後の市場をどう見ていますか。
有村さん「厚生労働省が公表している電子カルテ政策に関する資料では、2030年までに電子カルテの普及率100%を目指し、あわせてクラウド型の割合を高めていくという方向性が示されていたと記憶しています。基本的には、その方向に進んでいくのではないかと思います(※編集部注12)。
現在使っている電子カルテに不安を感じている医療機関は一定数あるでしょう。そうした医療機関では、オンプレミス型からクラウド型への移行や、クラウド型同士での乗り換えが起こる可能性があります。
また、クリニックの業務形態が変わるタイミングで、電子カルテを乗り換える動きも出てくると思います。
ただ、2030年を超えると、電子カルテの乗り換えはそれほど頻繁には起こらなくなるのではないでしょうか。その後は、オンプレミス型からクラウド型への移行などが中心になる可能性があると考えています。
そういう意味では、今後3〜4年ほどの間に、クラウド型電子カルテ市場で各社の製品がどのように評価され、どの企業が強みを発揮するのかが見えてくると思います。その過程で市場の勢力図が変わり、徐々に落ち着いていくのではないでしょうか」
※編集部注12 政府目標の書き方
「電子カルテの普及に関する政府目標」として、次のように示されています。「遅くとも2030年には概ねすべての医療機関において必要な患者の医療情報を共有するための電子カルテの導入を目指す。目標達成に向け、オンプレ型で、かつ、カスタマイズしている現行の電子カルテから、いわゆるクラウドネイティブを基本とする廉価なものへと移行することを図る」
出典:厚生労働省「電子カルテの普及について」(令和8年3月12日 第28回 健康・医療・介護情報利活用検討会 医療等情報利活用ワーキンググループ 資料1)
Q. 最後に、これから電子カルテを導入するクリニックや、乗り換えを検討している医療機関に伝えたいことはありますか。
有村さん「制度への対応はもちろん重要ですが、最終的には、自分たちの業務に合った電子カルテを選ぶことが大切だと思います。
今後はAIの活用や外部サービスとの連携が進み、電子カルテに求められる役割も変わっていくでしょう。セキュリティへの対応力や、必要な機能を柔軟に追加できるかどうかも、これまで以上に重要になると考えています。
電子カルテは、導入して終わりではありません。日々の診療やクリニックの運営を支える基盤だからこそ、現場で使いやすく、今後の変化にも対応できる製品を選んでいただきたいと思います」
参考資料
- 厚生労働省「電子カルテの普及について」(令和8年3月12日 第28回 健康・医療・介護情報利活用検討会 医療等情報利活用ワーキンググループ 資料1)
- 厚生労働省「電子カルテ情報共有サービスの導入に関するシステムベンダ向け技術解説書」2.0.0版(令和8年1月)
- 厚生労働省「電子カルテ情報共有サービス」
- 厚生労働省保険局医療課「疑義解釈資料の送付について(その6)」(令和8年5月22日)
- デジタル庁「令和8年度 標準型電子カルテ導入版の設計・開発業務」調達仕様書
- e-Gov法令検索「地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律」
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2026年11月時点の情報を元に作成しています。
